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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
プロローグ 旅立ち編
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第2話 『喰龍』との出会い―②

「いやお待ちじゃないわよ、何なのこれは!!」

「何って……見りゃわかるだろ、青龍のお造りだ」

「聞いてもなお意味がわからないわね……」


 意味不明、というか常識破りな出来事が連続しまくったせいで、エリィのキャパシティはもう限界どころか8倍くらいオーバーしている。頭の中は疑問符で一杯で、未だに現状を飲み込みきれていない。だが、やるべきことはある。エリィは嘆息を零して、男に向き合った。


「ありがとう、貴方が来なければ死んでたわ」

「いいっていいって、俺はただコイツの肉を食べたかっただけだし」


 龍をコイツ呼ばわり、しかも親指で適当に刺すとかいう暴挙。だが、もうそんなものではエリィの壊れた常識はもう崩れない。瓦礫をこれ以上破壊しようと思ってもできないように。


「理由はどうであれ、結果的には助けてもらったからね。心から感謝するわ」

「ありがたく感謝はもらっておく」

「んで、聞きたいことなんだけど…………」

「ちょっと待った、話はいいからひとつ食べてみてくれ。新鮮さが失われちまう」


 男がエリィの眼前に、止めるように手のひらを向けてくる。そして、今度は龍の死体ではなく、綺麗に盛り付けすら済んでいる龍の刺し身を指で示した。正直なことを言うと、食べてみたいという気持ちと、怖いという気持ちが半々だ。確かに、せっかく作ってもらったのだ。生食というので怖いには怖いが、興味がないというのも嘘になる。エリィは、自分の好奇心に、そして食欲に、負けた。躊躇いを捨てて、手を合わせる。


「…………いただきます」


 刺し身をフォークに突き刺し、黒いソースに浸す。肉は見たところ美味しそうで、今しがたつけた黒いソースが光を反射して輝く。適度に入った脂の白さと、筋ばっていない柔らかそうな身の赤のコントラストが、美しかった。冒険者は度胸、と心の裡で呟いて、目をぎゅっと瞑り、ソレを口に放り込んだ。

 瞬間、口の中で、旨味が弾けた。生肉だというのに生臭さは微塵もなく、肉のジューシーな味と食感をダイレクトに感じられる。ソイソースと呼んでいたソースも肉の味を邪魔することなく、むしろ引き立てるような風味とコクを醸し出していた。まさに、肉の多重的な旋律と、ソレと調和するソイソースのハーモニーが奏でる、味の協奏曲だ。

 そして何よりも美味しいのが、魔力。龍気とは異なり細やかで弾ける魔力が、肉を噛めば噛むほど溢れ出して、体内に流れ込む。身体の芯が熱くなるほど濃厚な魔力が、エリィの体を包む。まるで、布団に抱かれているかのような心地よさだった。


「美味しい…………!!!」

「だろ?今回は活きがいい龍が手に入ったからな。新鮮さは段違いだぜ」


 彼もそう言いながら、自分で作った青龍のお造りをもぐもぐ貪っている。エリィも夢中になりながら次々と肉を口の中に放り込んでいく。いくらでも食べられそうなほどうまい肉だ。飛竜の対処に使った体力も一気に回復しそうなほどである。

 十分も立たずにぺろりと平らげて、エリィは再び男に向き直る。


「ご馳走様。美味しかったわ、本当に」

「お粗末様だ。いい食べっぷりだな、嬢ちゃん。作り手冥利に尽きるってもんよ」

「……………本当に何者なの、貴方」

「俺か?俺は『喰龍』カルラ・ジクブリード。旅人だ」


 まあそんな身なりの奴が旅人以外いるかという話ではあるし、薄々感じていた。こんな奇特な格好をしている奴は、都市に入っても奇異の目で針のむしろになること間違いなしなのだから。


「カルラね。私はエリーナ・アイアタル。エリィって呼んで頂戴」

「エリィ、オーケー了解。んで、エリィはなんでこんな所に?」

「見て分からないかしら?商人の護衛よ、そこにいるでしょう」

「…………どこにいるんだ?」

「は?そこに……」


 エリィは振り向く。そこには、遠くに見える都市と森と平原だけ。うーん、これは。


「逃げやがったなァァァァァァ!?!?」


 こっちが命を挺して守ろうってのにあの依頼者ァ〜〜〜!!、と思うエリィ。だが、ここでキレても依頼主に伝わるわけではない。よくよく目を凝らしてみれば、なにか落ちている。羊皮紙の切れ端と、いくらかの銀貨だ。


『依頼料は前払いだったので、またの機会ということで。迷惑料は置いときます』

「あー……キレる意味もないわね、コレ。いいわもう……驚き疲れたし」

「大丈夫か?」

「アンタのせいで驚き疲れてんのよ」

「あ、俺のせいだったのかい」


 本気で言ってんのか、コイツ。まるで自分のせいではなく無邪気に心配してくるようなカルラに、エリィは毒気を抜かれた。もう怒ったり、困惑していてもしょうがない、と割り切る。飲み込みの速さはエリィのいいところだ。

 一段落着いたところで、カルラに質問を飛ばせるチャンスができた。


「ねぇ、カルラ。貴方って冒険者じゃないのよね?」

「機会がないからな。それに、これは金稼ぐためにやってる訳じゃない」


 金のためじゃない。こんな飄々とした態度ならば、名誉欲も別にないだろう。じゃあ何のために?そんな顔をエリィが浮かべたのを、龍骨の隙間から、カルラは察したようだ。


「エリィ、お前さっき龍の肉を食べた時どう思った?」

「……?うーん、美味しいとしか」

「魔力を取り込んでいく感覚があったよな」

「そう言われればそうね。龍って死んでもあんなに強い魔力を帯びてるんだって思ったわ」


 そこまで自分で言って、エリィはなぜ彼が龍の肉を喰らっているのか、その答えに辿り着いた。

まさか。いや確かに。だが信じられない。


「まさか……龍を食べて、強くなること?」

「そう。龍の肉は喰えば喰うほど魔力を得られて強くなれる。────────俺は強くなって、『龍星』を喰う。そのために、龍を喰いながら旅してんのさ」


 壮大な、夢だった。とてつもなく遠い、目標だった。そこいらの人に話せば、夢物語だと一笑に付されるだけだろう。だが、エリィはそれを笑うことなどできなかった。何故なら、龍骨の隙間から覗く彼の赤い瞳が、輝いていたからだ。何かを絶対に成し遂げようとする、燃え盛る意志の焔が宿ったソレ(・・)。酷く既視感を感じるソレ(・・)に、エリィ……エリーナ・アイアタルは息を飲む。

 そして、エリィはプッ、と吹き出した。


「おい、なんだよ笑うなよ。俺は本気なんだぞ!」

「……分かるわ、貴方が本気でソレを言っていることくらい」


 エリィは首をゆるゆると振った。冒険者への未練は何故だか少しも感じられない。

 なぜ笑ったのか分からなそうな様子のカルラに笑いかける。


「─────ねぇ、貴方の旅に、着いて行ってもいいかしら」


 かくして、エリーナ・アイアタルとカルラ・ジクブリードは出会ったのだった。

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