第11話 手合わせ―③
「「────試合、開始!!」」
先程の試合と同様に、ほとんど二人が同時に魔力を放つ。魔力の波動とは個人によって大差があり、覆面をしている人が魔力の波動でバレたなんて話もあるくらいだ。余談はさておいて、二人の試合の話である。魔法の発動は互いに同時。そして先程の試合と違って、踏み込みも同時だった。
「フッ──!!」
一瞬で二十メートル近かった距離を駆け抜けて、二人の刃が激突した。ギィン!!という、ある種快い金属音が攻撃の相殺の証左。刃は刹那のうちに離れて、再び攻撃の溜めへと入る。エリィの刃は雷を纏う故、レイピアが掠りさえすれば一時的な行動不能、あるいは撃破まで持っていける。
「当たりさえすれば!」
「当たりさえすれば、だろ!」
だが、カルラの速度はエリィの速度を大きく凌駕する。当たりさえすればいいが、そのさえができないのだ。エリィが刺突を放っても、そこに龍骨はなく空を切るだけ。返す刃で何とかカルラの攻撃を防いでいるが、これはたまたま攻撃のリズムがカルラのそれとエリィの戻すそれが噛み合っているに過ぎなかった。
「よく防いでるな、でもこれならどうだ?」
カルラのその一言で想起されるのは先程の試合でも決められたあの気持ち悪い挙動。しかしそれではないはずだ。彼は変なところで律儀なのはここまでの旅で知っているから。
じゃあ何を、とエリィが警戒心顕にレイピアを手元で構えると、カルラは加速されたその動きのまま、地面を強く蹴った。この戦闘用広間の地面は土で埋められている。当然それを蹴れば、発生するのは土埃と土塊の煙幕だ。ドガッッ!!という鈍い音とともに、エリィの視界が濁る。なるほど、狙いはこれか。
「私が何を持ってるか忘れたのかしら!!」
「レイピアだろ!」
レイピアを使い始めたのは冒険者になるのと同時。女の力じゃ普通の剣よりも刺突に特化した方がやりやすいのでは、という先生の教えだ。その時から使い続けているので愛着も一入、いつもこんな状況を打開してくれる愛剣の使い道を、カルラに見せてやろうではないか。
「シッ───────!!」
エリィは息を吐きながら、レイピアを横薙ぎに一閃。普通であればそんな細い棒で空気中の粉塵を切り裂こうとしても掻き回されるだけである。
だが、エリィのレイピアの刃は普通でない。電気を纏って、パチパチと弾けているのだ。そして、思い出してみて欲しい。部屋にホコリが溜まっている時、静電気でホコリが吸着されている様子を。細かい原理は割愛するが、それをエリィはやったのだ。
「煙幕が……」
「どうよ、これがレイピアの力!!」
「だからレイピアカンケーねーだろがっ!!」
カルラは自身が作り出した煙幕を切り裂いて飛び出してきた。当然加速しているが故に、その進路で居続ければぶつかって吹き飛ばされるのは目に見えていた。しかし煙幕は誰にでも平等に視界を隠す。彼の突貫はエリィのいる場所から半歩以上離れた場所に向かっている。
「隙あり───!!」
今度こそ本当にレイピアの力の見せ時だ。軽く、細い刃だからこそ取りまわしが効く。それを最大限使った刺突を、カルラに向けて射出した。
「これは隙じゃねぇ、踊ろうかって誘ってるんだぜ?」
だが、カルラはまるで横に目がついているかのようにその刺突を身体を捻って避ける。掠りもしない、エリィ的には全く美味しくない攻撃になってしまった。そして、逆にエリィに向けて雑種の一突き。加速された踏み込みによって、その一撃はゆうに防御魔術を超えるだろう。
「ッッ──!」
「まだまだァ!!」
エリィがレイピアの細い刀身で何とか受け流すも、あっさりと刃は引き戻され再度力を溜め込まれる。それから始まるのは、カルラの言う通り、舞踊じみた刺突の連打である。
「オラオラオラオラァ!」
「ぶっ、ちょっ!殺す気ィ!?」
「知るか!防御魔術あんだろ!!」
エリィはかろうじて捌けるものを捌き、避けられるものを避けるが……それだけで精一杯だ。刺突の速度すらも加速されているが故に、一瞬の判断ミスが負け、ひいては命の危険まで連れてきそうである。
というかカルラ、完全にこっちを殺しにかかってないか?そう考えてしまうほどの苛烈な攻撃に、堪らずエリィが悲鳴をあげる。だが、カルラは集中していた。返事として帰ってきたのは、罵倒じみた叫びと無情な突きの嵐。
(カルラがそこまで本気でやるのなら───こっちも!)
エリィは魔力を注ぎ込み、【纏雷】の出力を上げていく。電流が強くなるにつれ、筋肉は硬く、そして強く突き動かされるようになる。そして、ある所で魔力を止めなければならない。あまりに強い電流を流すと、勝手に筋肉が痙攣して固まってしまうからだ。
「───こっからは、速さ勝負と行こうじゃない!」
「上等ォ!!」
バチバチと電流を弾けさせながら、エリィは地面を蹴飛ばす。電気によって強化された筋肉は、カルラの突きの嵐から抜け出す範囲まで一瞬で辿り着く。つまり、上だ。
「上に逃げた所で……!」
「これは逃げじゃないわ、カルラ。溜めって言うのよ」
先程の意趣返しのごとくニヤリと笑うと、そのままレイピアを振り絞って、空中からカルラに向けて投擲した。重力による加速、そしてエリィの強化した筋力による加速、そしてそれ自体が持つ電流。三つの強化で、威力は完全に致命傷レベルだ。
「大人しく喰らってなさい!」
「誰がァ!」
カルラが吠える。そして投げ飛ばしたレイピアを、エリィの予想通りバスタードソードをもって弾いてくる。それが狙いだ。
なぜエリィは上に飛んだのか?それはカルラの攻勢を一時的に回避するためである。然らばそれをやらなければ飛び上がった意味がないというもの。
既に着地して地面を蹴っている、レイピアに対応を割いたカルラにこの一撃を防ぐ術はなし。
「必殺レイピアパンチ───!!」
「二回目は通じねぇよ、エリィィィッッ!!」
だが、カルラもやり手だ。エリィの突貫にはとっくのとうに気づいていて、あまつさえ口元には笑みすら浮かんでいる。不敵な笑み、というやつだ。
レイピアを弾いたその勢いのまま、バスタードソードを袈裟斬りの形で振り下ろしてきた。ちょうどエリィの進路真っ先で、このまま突貫を敢行すれば攻撃がクリティカルヒットするのは目に見えていた。
(でも、カルラの攻撃なんかにビビって突撃を辞める?有り得ないわ。私がなりたいナニカは、どんな賭けでも乗り越えるんだから…………!)
屹然と、カルラを見返す。その紅の瞳が、戦意で爛々と輝いていた。見つめ続けるまま、カルラの凶刃が迫るそこへと拳を握りしめながら駆け抜けて──────。
──────ぐぅぅぅぅぅぅぅ。
「えっ?」
「あ〜………」
今の音……こいつまさか。エリィは急停止して、カルラの顔を見る。確実に今の音は、カルラの腹から鳴っていた。
「わり、エリィ。腹減っちまった」
「はぁ〜〜〜〜〜〜………………………」
めちゃくちゃ大きいため息が零れた。これまでの人生で一番、長い長いため息であった。頭を抑えながらふるふると頭を振って、カルラを半眼で睨む。
「貴方、空気読めないってよく言われないかしら?」
「逆に読めると思ってんのかよ」
「開き直るんじゃないわよ、バカルラ」
「バカルラってなんだよせめてバカカルラだろうが」
どこにキレてるんだ、こいつ。エリィは呆れ返ってもう言葉を返す気力はなかった。
もう戦う気は完全に失せている。今から戦闘時のあの雰囲気に戻るのも今更無理だし、ちょうど戦闘用広間の利用時間も頃合いだ。
「…………しょうがないわね、夜ご飯にしましょうか」
カルラは頷いて、そしてこちらの瞳を覗き込んでくる。真剣な口元と瞳だった。なにか思うことがあるのだろうか。それとも、怪我したのだろうか。エリィは一瞬で色々なことを考え、身構える。カルラが口を開いた。
「どっちが勝ちにする?」
「もういいわよ!私が奢るわ!」
どこまでも空気が読めないカルラなのだった。




