これでおしまい
「………この……循環する魔力の量は……なぜ………ゴミスキルしか持たないはずの……愚民ごとぎが………?」
「……………ざまあないね。もう、立てないのかい?」
「この……クソ野郎め……!!」
勇者カインは倒れた。カインからは魔力はもはや感じられず、スキルを発動する気配も感じられない。
ここにはSPを吸収する結界を張っている。こんな場所で倒れたらそりゃあ、いくら勇者でも再起など夢のまた夢。
ーーしかし、呆気ない。【七つの技能】を持つ勇者にしてはーー拍子抜けという、か。
慢心で身体に魔力を回していなかったのか。
いや其れともまさか、此奴は使いこなせていなかった?
【七つの技能】……
「随分と、酷い姿ね、カイン」
「アーリア……貴様………図ったな…………?!」
這いずるカインの目の前にアーリアは立ち、声をかけた。
「いや、違う。これは俺たちが計画したことで、アーちゃんは関係ない。………聞いておこう。お前はアーちゃんの婚約者って言っていたが。その行動、態度ーー嫁さんに向ける顔じゃないな。まるで、【道具】に対する態度みたいだが」
「道具……?そうかもなあ!!アーリア!!!その横のクソガキを殺せ!!!自分の母親がどうなってもいいのかーー?!」
「…………………!?」
カインは、アーちゃんの母親を人質にしている?であれば状況は不味い。勇者が、貴族ひとりの社会的地位を失墜させるなど、それこそ容易いだろう。それこそ死ぬよりも酷い運命を辿ることになる。
………というか、ガキはどっちだ!
言葉遣いなんて勇者とは思えないし!
「……面白い発想ねカイン。あの母親を人質にするなんて。母親から私への仕打ちを知らないの?」
「…………………な、何を言っている?」
「それこそ道具のように扱われたわーーあぁ、そうね」
………なるほど。
なんとなくだが、俺にも察せた。
「あなたも私も道具だったのよ。母様のね」
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な………」
「カイン、お前…………」
「なら………僕の生きる………意味は………?」
その言葉の意味を理解してしまった勇者は、真実を知ってしまった勇者は、哀れなるものカインはーーその喉を鳴らし喘ぐ。
複雑にそれぞれの境遇が重なり合っているらしい。
傍観者である俺はただそこに立つばかりだった。
まあーー色々あるのだろう。
彼女にとって、俺たちには話したくもないこともあるはずだ。
切り替えて……俺は倒れているメアのもとへ向かった。
そうしようとした時。
「苦しんでまで、人が生きる意味なんてあるのかな」
アーちゃんがそう溢した言葉が聞こえた。
「あるさ」
「……メルファ?」
「あってほしいと俺は思う。例え、死ぬ事でしか救われないと思うくらい、全てが苦しみに満ちている人生があるとしても、等しく意味があると思うよ」
「…………何も残せなかった、私みたいな人生でも?」
「違う……何も残ってないなんて。それは、ただの勘違いだ。げんに俺は君に憧れた、君がいなきゃ今の俺はいない」
「…………」
「けれど自分が残したものを、それを見失うことはある。決められた道進むことを強制させられているなら尚更だ。だからさ」
「何するつもり………?」
「一緒に、この街から。大人から逃げようか。生きる意味をまた見つけるために……」
「…………馬鹿じゃないの……」
そんなことを言いながら、泣きじゃくりながらアーちゃんは、俺の手を取ってくれた。
アーちゃんの顔は……真っ赤に染まっていた。