決死の
「……………ふう。素直に開ければいいんですよ」
そこには、メイドがいた。
ドアをへし折って中に入ってきた。
は?
***
さて。
「待って!待って!待って!貴女だれ!?無言で持ち上げないで!?おいコラ聞けよ人の話!!」
計画を遂行するとする。ご主人様はたしかに心配だけれどーーそうしろと言われたら『そう』やって動くことがメイドの役目だ。
ひとりぼっちの主人と共にゆくと決めた。
例えーーその道が間違いだったとしても。
「うっわ迷いのない目ねーーお願い話を……話を聞いて……」
「そんな暇は今はありません。とりあえず、私のご主人に黙って救われて下さい」
娘を抱え窓を飛び出し、着地。
娘の絶叫が聞こえたが気にしない。
ご主人の指定したルートを走れば、ここから五分でマツリ家まで帰れる。
「思い出したわ!!あんたあのマツリの変態メイドね!?」
「よく分かりましたね。まあ、そういうことです。えーと、あなたの名前はなんでしたっけ」
「………アーリアよ」
「ならアーリア、お姫様になって下さい」
「どういう!!!なら、よ!!!!!」
騒がしい娘だけれど、ここの警備員には異常を気づかれない筈。私の【気配消去】で消せないのは自分の声と息のみ。それは他人の立てる音も例外ではなく、もしその場合ならば声も消せる。習得しておいて良かった。
まあ、ノックした時の一瞬だけ解除はしたが、大丈夫なはず。SPの残りもまだあるはずなのだし。
ーーノックでこの娘をドア前に誘き寄せ、私の第一スキルで気絶させて運ぶつもりだったけれど、この娘は応じず、ベッドの上でうずくまっていたらしい。
ちなみに勿論ドアを蹴破った音は、再発動で遮断した。
ただ私の第一スキルは使えない。スキルの同時発動は不可能。
というかまあ、なんでしょうか。抵抗されても、思ったより弱そうだし、運ぶには支障はなかったけれど。
「ど……っど、どこに運ぶのよ!!?バカメイド!!!」
「マツリの家です。そこで勇者をなんとかするらしいですよ?」
「具体性!!!!!!!」
さて、こんな場所、そそくさとお暇するに限る。
屋敷には随分趣味の悪いものがあった。
それこそこの家を潰せるほどのスキャンダルもあった。やけに警備が厳しかったのもそのおかげか。流石、この国の八大貴族と言うべきか。
「いやその警備をすり抜けるアンタ何なのよ!おかしいでしょ!!!?………というか、私を救う………?」
「はい。だからこうして夜道を走ってるわけです」
「……いやその………タイミングが悪かったわね………」
「……………………?」
「勇者がまだ、うちに居たのよ………」
深夜の街道だからか、気配にはすぐ気づけた。
………風を切る音。
何かが飛んできた音がした。
「あはは。うちの嫁に、なにしてんの?」
一度振り返ーー見切れな………
「メ、メイド………!!?」
「ちょうどいいや。誘拐犯に殺されたってことにするか。んでーーぼくは、これで悲劇のヒーローってわけ。嫁さん殺されて、復讐を果たそうとする、あれね?分かる?」
胸に、数本の剣が、刺さっていた。