勇気
あれから一年が経った。
電話の事、そして彼の事を思い出す回数は、かなり減った。
夢だったのかな・・・と思う。
だって、四年前に電話が繋がるなんて、どう考えてもおかしい。
あれは私の幻覚だったのだ。
あるいは、妄想。
そう思うと、思い出す回数は減った。
でも、良かった事もある。
私は相変わらず、上司に怒られ、理不尽だと思う会社のルールに縛られている。
辞めたくなる時もある。
でもその度に、彼の為に願った事を、繰り返し思い出すようになった。
生きている限り、未来で必ず誰かに出会う。
今は目に見えないから、分からないけど。
失敗して怒られても、そんな私でも、未来の誰かが私を待っている。
会いたいと願って、待っている人が、私にも必ず居るはず。
そう思うと、不思議とやる気が出た。
勇気が出た。
・・・とは言え、ミスをして落ち込む事は多い。
休日に大きな公園で昼食を食べる事にした私は、楽しみにしていた苺のサンドイッチを持とうとして、地面に落としてしまった。
そ、そんなぁ・・・!!!
まだ一口も食べてないのに・・・!!!
ショックを受けていると、誰かが隣に座った。
見られていない事を祈った瞬間、隣の人がサンドイッチを拾ってくれた。
「これ、あなたのですよね。残念でしたね。」
は、恥ずかしい・・・。
サンドイッチを受け取り、お礼を言おうと顔を上げると、男性と目が合った。
あれ?
この顔、どこかで見た事がある。
この声、どこかで聞いた事がある。
・・・この人、まさか・・・
「お、大塚くん・・・?」
男性は驚いた顔をしていた。
私はそれ以上、何の言葉も思い浮かばず、男性の返事を待った。
「・・・僕の事、知ってるんですか?」
「私のこと・・・分かりませんか?」
恐る恐る尋ねた。
「すみません。ちょっと・・・覚えが・・・。僕たち、どこかで会いましたか?」
大塚くんは、私の顔を申し訳なさそうに見ていた。
ショックだった。
でも、覚えていなくて当然かもしれない。
大塚くんとは、同じグループで活動しても、ほぼ会話をしていない。
いつも目で追っていたのは、私だけだった。
顔を覚えていないのは、納得ができた。
でも彼が覚えていないという事は、私から言い出さなければいけない。
「ま、前に・・・」
声が震えた。
緊張しているのに気がつき、急に怖くなる。
それで学生の頃は、話し掛ける事が出来なかった。
でも、だからこそ、今しかない。
彼に会えるのは、これが最後かもしれない。
勇気を出せ。
今しかない。
今しか、ないんだ!
「・・・前に、カフェに行く約束をしたの、覚えてますか?」
「!」
大塚くんは、目を大きく開けた。
その目から一粒の涙がこぼれた。
そして、頬を伝った。
「花村さん、ですか・・・?」
私が頷くと、
大塚くんは小さな声で呟いた。
「やっと会えた。」
目の前に居るのは、間違いなく大塚くんだった。
あの時電話で話したのは、やっぱり大塚くんだった。
生きている。
思い留まってくれたんだ。
嬉しい・・・
嬉しい!!
あなたに会いたかった!
会って、話をしてみたかった!!
「・・・ありがとう、本当に、ありがとう!!」
涙が頬を伝う。
堪えようと思っても、嬉しくて、涙があふれてくる。
「僕の方こそ、ありがとう、花村さん。」
大塚くんは暫く俯いて、目を拭った。
そして、顔を上げた。
「君が待ってるって言うから、頑張ってきたんだ。」
視線が交わる。
彼の生きる力を感じる。
「あの電話の後、全部終わりにしようと思ったけど・・・
君が未来で待ってるって言うから、生きようと思えた。
電話を掛け直しても繋がらなかったけど、また話してみたかった・・・
君は僕の希望なんだ。
何があっても、君に会いたいと想うと、前を向けた。
ずっと、花村さんに会いたかったんだ。」
そう言って、大塚くんは笑った。
初めて彼の笑顔を見た。
優しい所が好きだと思ったけど、
その笑顔で、もっと好きになった。
大塚くんは、急に真面目な顔をすると、私の目を見つめた。
「その・・・少しの時間でいいから、今度こそカフェに行って、話をしませんか?」
「!」
急いで涙を拭う。
私も、あなたと行きたいと思ってた、と言いたいけど、声が出なかった。
好きな人を前にすると、やっぱり緊張する。
返事の代わりに頷くと、大塚くんは立ち上がった。
そして、笑顔で手を差し出してくれた。
「行こう、花村さん。」
私は、その手を取る。
繋いだ手は、温かい。
私も立ち上がる。
一緒に歩きながら空を見上げると、曇っていた。
だけど、その雲の隙間から、うっすらと光が差し込んだ。
その時、想った。
ーーーー辛い事があったら
立ち止まっても、いい。
閉じこもって
泣いても、いい。
たくさん、たくさん
泣いて、いい。
その後は
ゆっくり休んで欲しい。
そうして、元気が出たら
立ち上がって欲しい。
寂しくなった時には
未来を思い描いて、
いつ出会うかは、分からない
あなたを待つ人がいると信じて
前を向いて欲しい。
そして
描いた未来を希望に変えて
道標にして
前に向かって、歩き続けて欲しい。
何度転んでも、
そうやって
起き上がって欲しい。
そんな勇気を
持って欲しい。
そうして、歩き続けた
その先で
あなたを待っている人に
必ず出会えるから。
歩いて欲しい。
どんな事があっても、
歩き続けて。




