あなたは、誰?
その日の夕食は寿司だった。
僕の大好物だ。
嬉しい。
食事をしながら大学生活の話をした。
辛かった事を話すと、両親は黙って頷いた。
そして、父親が口を開いた。
「大学は行った方がいい。
それがお前の為になる。」
そう、言われた。
そうだ。
それが正しい道だ。
両親の示す道は、僕の将来を考えての事だと、分かっている。
そして、そのレールの上を歩く事が、僕にとっての最善の道だ。
分かっている。
分かっているのだ。
だけど・・・
だけど・・・
結局、僕は
「はい。」と
返事をする。
食卓を後にし、自分の部屋のベッドに横になった。
「もう大学には通いたくないから、
退学したい。」
この一言が、言えなかった。
そういう自分が嫌いだ。
もう、優秀な僕はいない。
言う通りにはしたくないし、出来ない。
僕に期待しないで欲しい。
なのに、それが言えない。
誰にも聞こえないように泣いた。
それからスマホで死に方を探した。
ーーーーその深夜。
僕は両親宛に手紙を書いた。
そして、
途中で怖くなり何度も何度も躊躇ったが、
最後の勇気を振り絞った。
休みの日に、久しぶりにひなたと会った。
景色の良いカフェでランチをした。
久々に会うひなたは、大人っぽくなっていた。
「なかなかうまく行かないんだよねー。話すのは得意だと思ってたんだけどさ。」
ひなたはパスタを巻きながら笑って、最後にため息をついた。
営業で外を歩き回っているそうだ。
話すのが上手で、何でも器用にこなせるひなた。
そんなひなたでも、うまく行かない事があるんだ。
「優衣は最近どう? 仕事はうまく行ってる?」
私はオムライスをすくう手を止めた。
「うーん。まぁまぁかな。何とかやってる。それよりさ、この間、大学の時の知り合いに、たまたま電話を掛けちゃってね・・・前に好きだなぁと思ってた人なんだけど。」
「・・・」
ひなたの手も止まった。
「優衣が好きって言ってたのって、例のあの人以外思い浮かばないけど。他に好きな人がいたの?なんで教えてくれなかったの!!」
「よく覚えてるね・・・たしかに1人しかいなかったよ。実はね、その人なんだ。連絡先の整理してたら、偶然電話を掛けちゃって・・・」
「・・・・・・」
「あれ?ひなた?」
さっきまで笑顔で話していたひなたが、急に真顔になった。
「うーん・・・優衣、最近病んでるの?」
「え?」
「そういう冗談を言う様な子じゃ無かったんだけどな、優衣は。」
「ひなた? 急になに? 私、変な事言った?」
ひなたは私から目を逸らした。
「だって、1人しか好きな人がいなかったって事は、例の人でしょ。その人、亡くなったんだよ。たしか2年の時に・・・自殺だったっけ?」
「私も最初はそう思ってたけど、別の人だったみたいなの。この間、電話で話をしたんだよ。」
「大塚。」
「・・・へ?」
「大塚颯太。たしかそんな名前だったよ。」
四年前、胸にぽっかりと空いた穴は塞がったと思った。
だが、ひなたの一言で、また大きな穴が空いた気がした。
でも、思い直す。
だって、電話で声を聞いたもの。
なりすましとかじゃなくて、ちゃんと本人の声・・・だったと思う。
別人のはずだ。
「友達に、大塚と同じ中学の子がいてさ。お葬式があったって教えてくれたから、間違いないと思うよ。」
「・・・」
言葉が出ない。
じゃあ、私が話した相手は、誰だったの?
夜になり、テーブルの前に座った。
携帯の履歴の文字を眺めながら、決めた。
確かめるのが怖いけど、もう一度かけてみよう。
通話ボタンを押そうとして、やめる。
押そうとして、やめる。
何度か繰り返して、深呼吸した。
勇気を出せ・・・大丈夫。
彼は生きてる。
確認するだけなんだから、大丈夫。
私は震える指で、ボタンを押した。




