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君に会って話がしたい  作者: くろねこ
3/7

好きだった人


 大学に通えなくなった。



 親が知ったら、悲しむだろうと思う。



 両親は僕が大学に入るのを楽しみにしていた。


 その期待に応える事は僕の存在価値の一つだったが、もうそれが出来ない。


 家に閉じこもり、外に出るのが億劫になった。




 母親から電話があった。


 大学に行っていない事が伝わったようだ。


 僕が電話口で「ごめん」と謝ると、母親は泣いていた。


 親を泣かすなんて、僕はなんて不幸者なんだろう。




 こんな自分が大嫌いだ。




 電話を切って、泣いた。



 ・・・もう、疲れた。



 学校にも、親にも、自分にも疲れた。



 そして決めた。




 もう、全て終わりにしよう。




 そう思ったら、気分が軽くなった。


 最後に人生を楽しもうと思う気持ちさえ出て来た。



 別の日に、また実家から電話が掛かってきた。


 帰ってくるように言われた。


 「はい」と返事をする。



 そして、今日。



 玄関のドアを開けると、両親が出迎えてくれた。


「ごめんなさい」と謝ると、母親は悲しそうな顔をして僕に駆け寄った。


 父親は何も言わず、怒られる事もなかった。






『私・・・あなたの事が、好きでした。』



 一瞬、時が止まった。



 僕は何も返事ができなかった。



 授業の課題でグループ別に分かれて活動する時に、たまたま花村さんと同じグループになった。


 その時に、連絡先を交換した。


 だが、それだけだ。


 それからは殆ど話をしていない。


 僕は社交的な性格じゃないから、必要最低限の事しか話をする事が出来ない。


 なのに、花村さんは、僕の何を見て好きだと思ったんだろう。


 そして、好きだった、という事は・・・今は好きでは無いという事なのだろう。



「・・・僕のどこが好きだったんですか?僕たち、ほとんど話したこと無いですよね。」

『・・・私、課題の時に画用紙を取りに行って、高い所にあったから取れない時があって。手を伸ばして何度かジャンプしてたら、大塚くんが取ってくれたの。・・・その時に、優しいなって思って、それから気になって・・・』

「えぇ・・・?覚えてないけど。そんな事あったかな。」



 全く覚えていない。


 本当にそんな事があったのか?



『そっか、覚えてないよね。そうだよね。』



 声が沈んでいるのが分かった。


 でも何と言葉を掛ければ良いのか思い浮かばない。



『大塚くん・・・今、どこにいるの?仕事はしてるの?』

「・・・」



 答えたく無かった。


 もう大学には2週間通っていない。


 バイトだってしていない。


 まさか、友達のいない僕を気にしている人が居るとは思わなかったから驚いたが、彼女は僕と親しい間柄ではない。



 ただの他人だ。



 大学に通わないのだから、これ以上関わる必要はない。



 これ以上話したくない。



「もう夜だし、切るから。」

『・・・待って!もう少しだけ』



 通話を切った。


 大学に友達はいない。


 けれど、僕の事を気にかけてくれている人がいた。



 それだけで涙が出てきた。



 どこにも行かず、1人部屋で泣いている。


 やるべきことが出来ない。


 僕は何をしているのだろう。


 ただ生きているだけの僕に、存在価値などあるのだろうか。



 自分が大嫌いだ。



 でも、花村さんは、こんな僕を一瞬でも好きになってくれたのか・・・



 不思議な気持ちになった。



 大学には行きたくないが、彼女には会ってみたいと思った。


 だが、僕の事をよく知れば、すぐに愛想を尽かしてしまうだろう。


 もう好きになってくれる事も無いだろう。



 頭の中がぐちゃぐちゃになる。



 僕は布団に入って目を閉じた。

 


※ ※ ※


 

 大塚くんは生きていた。



 あの時自殺したのは、大塚くんじゃ無かったようだ。



 四年前に好きだった人・・・。



 もう二度と会話をする機会が無いと思っていただけに、声を聞いたら、自分でも驚くくらい何度も引き留めてしまった。



 そして勢いで・・・好きでしたと、言ってしまった。



 間違い電話で掛けてしまっただけなのに、さぞ迷惑だったに違いない。


 でも、四年前に胸の中にぽっかりと空いた穴が埋まるのを感じた。



 なくした気持ちを取り戻した気がした。



 嬉しかった。



 嫌われてもいいから、生きているのなら、もう一度会ってみたいと思った。




 翌日の夜。




 就寝までの支度を済ませ、ベッドの中で通話履歴を眺めながら考える。



 もし電話を掛けたら、嫌われるかな。



 私が一方的に想いを寄せていただけだから、ほとんど面識はない。


 たしか授業で一緒だった時は、誰とでも打ち解けられる、ひなたとよく話をしていた。


 私とは会話という会話をしていない。


 でも、ちゃんと課題に取り組んでいて助かったし、真面目な所に好感が持てた。


 というのも、遅刻したり、関係ないおしゃべりばっかりで課題をやらない人も居たからだ。


 意識をし始めてからは、授業の度に話しかけようと思った。


 でも、勇気がなくて、結局一度も声を掛けられなかった。


 少し寂しいと感じたけれど、いつも近くで顔を見れて幸せだった。


 

 大学の帰り道。


 あんまり喋らない彼だけど、困っている人を助けているのを見かけたことがある。



 やっぱり、きっと、優しい人。


 そう思った。



 ほんの少しでいいから、この四年間何をしていたのか、大塚くんは何の仕事をしているのか、私は怒られてばかりだけど頑張ってるんだよ、とか、話してみたかった。


 頭の中で妄想がぐるぐる回りながら、そのまま眠りにつく。



 1週間ほど、そんな夜を過ごした。



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