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お酒の力は偉大です

作者: ほよ




「よし、飲みに行こう!」

珍しくそう言い出した私に、驚きながらも了承してくれた先輩と後輩たち。


気になっていた職場の後輩が彼女と別れたと聞いたのは少し前のことだった。どうやら振られたらしい後輩が、落ち込んでいるのをいいことに、飲み会のお誘いをした。二人でなんてことはなく、職場で良くいるメンバー四人での飲み会だ。

1つ下の女の子の小林(こばやし)さん。2つ上の男性の桜井(さくらい)さん。気になる後輩、3つ下で社会人1年目の大沢(おおさわ)さん。

3歳差だけど、高校卒業から働いている私からしたら、社会人歴はだいぶ上で。そんな後輩くんが気になっている私、正常か?

でも、でも。皆でだけど、一緒に居て楽しいし。結婚している桜井さんは置いておいても、目で追っちゃうというか、気になっちゃっうのは大沢さんだから。

就職してきた時は既に彼女がいたし、大学生特有のテンションの高さがあった。それでも、10ヶ月も一緒に仕事をしていれば、それなりに仲良くなって、距離も縮まって。これといって何があったわけでもないし、相手に恋人がいたからそういう対象として見ないようにしていたはずなんだけどなぁ。


飲みに行こう発言から週末の金曜日。職場から近い駅の大衆居酒屋へと宣言通りに飲みに来た。

佐川(さがわ)さん、言い出しといて飲まないんですか」

「だってそんなに飲めないし。車で来ちゃったし」

まぁ、車は置いてこようと思えば置いてこれたけど。最近始めたばっかりの一人暮らしは、駅から歩いても行ける距離に借りた。

そこには飲んだ時に一人で帰れるように、と思っていたんだけれど、今日は寒いし、皆でわいわい出来ればそれはそれで満足なので良いかなって。

「佐川っち飲まないなら結局飲むのこばっちと大沢っちじゃん」

「そういう桜井さんが飲まないんですから文句言わないでくださいー」

お酒が得意ではないのか、毎回飲まない桜井さんからのブーイング。それを適当に交わして、注文に来た店員さんにノンアルコールの飲み物を頼む。

それぞれに飲む物を、食べ物を桜井さんが頼んで、飲み物が来るまで暫し待ちの状態。


「で?大沢っちは何で振られたの?」

「初っ端それ?」

遠慮ない桜井さんの言葉に大沢さんが声を上げる。

「えーでも気になるー」

援護するのは私。振られたとは聞いていたけれど、詳しい内容までは知らない。今後のためにもこれは聞いておきたいところ。

「普通に、時間が合わないし、会ってもしたい事が別つーか」

「大沢っち性欲強いから」

「そこじゃない…!」

男二人で話しているのを小林さんと聞いていれば、飲み物が届いた。年長者の桜井さんからの乾杯の挨拶を貰い、私的な飲み会は無礼講とかす。


他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもので、大沢さんの別れ話を酒の肴にして、小林さんと大沢さんはお酒を飲んでいくし、桜井さんと私は料理を食べながらジュースで気分をあげていく。

「まー要するに、捨てられたんですね、大沢さんは」

小林さんの容赦ない言葉に項垂れる大沢さん。この時点で、大沢さんがだいぶ酔っているのは皆分かりきっていて。

「なんでそんなこと言うのー。悲しくなる」

「振られたから悲しいんだよ」

「新しい恋でもしたらいいじゃないですか」

他人の恋愛話なので好き勝手言っていたが、小林さんの言った新しい恋に、喉が詰まったのを感じた。

あ、この話題、私無理そう。

だからといって、会話から離脱することをできず、さっき行ったばかりのトイレにも行けず。不自然にならない程度に口を紡ぐ。




夜も遅いと言っても日付が変わる一時間ほど前に飲み方はお開きになった。

今日は駅近くのホテルに泊まる小林さんと、家で奥様が待っている桜井さんを早々に帰し、車で来てるから家まで送り届けると大沢さんを預かった。

酔ってると思っていた大沢さんだけれど、思いのほか足取りはしっかりしており、自分で歩けたので私でも送り届けられそうとの判断もあった。後、下心。

車の助席に乗ってもらい、さて、大沢さんの家はどこだと聞けば、期待していた台詞が返ってくる。

「もっと飲もう。一緒に」

「…酔ってる?車で来てるって言ってるじゃん」

「うん、だから、宅飲みしよう」

何が、だからなのか。手放しで喜んですぐさま家に連れ込みたいのはやまやまだが、まだ余裕を見せていたい。

「本気で言ってる?」

「うん」

「…お酒ないからコンビニ寄るよ」

仕方がないから付き合ってあげる、そんな声色になるように話した。もっとも、酔っている大沢さんにその違いが分かっているのかは定かじゃないけれど。


普段お酒なんて飲まないから何買って良いか分からず、酔ってる大沢さんを車から降ろし、飲む物持ってきてと伝える。大人しく自分が飲む分のお酒を籠に入れた大沢さんを、先に車に戻っていてと鍵を渡す。不思議そうにしながらも、それに従う大沢さんは何を思っているだろうか。

ほぼジュースだろうっていう申し訳程度にアルコールが入った甘いお酒を自分用に追加で籠に入れ、一応、いるか?とよくある長方形の箱の前で足を止める。

これ買ったらあからさますぎないか?いや、でも。この時間から一人暮らしの家で宅飲みして、泊まっていかないってあり得るのか。アルコール摂取済みの男女が密室に居て、事に及ばないってことはあり得るのか。

家にないよ、避妊用具。

たっぷり5分、箱の前で考えて、お酒に紛れて買ってしまえと、籠に放り込んだ。

そういうものだからか、別途、紙袋に入れてくれた店員さんには感謝しかない。大沢さんにバレないようにそれだけを鞄にしまって、平然を装って車へと戻る。

他愛もない話をしながら車を走らせれば直ぐにアパートへと着いた。


「おっ邪魔しまーす」

「はいはい」

酔いが多少冷めたのか、大沢さんは買い込んだお酒の袋を持ってくれて、部屋の中へと上がっていく。

「ひとまず冷やすから直ぐ飲むやつ以外頂戴」

「おっけー!佐川っちはどれー?」

「カシオレ。でも、先にシャワー浴びる」

「…え?」

「…何?アルコール入ると本当に使い物にならないので、先に寝る準備するの。勝手に始めてて」

言うが早いか、冷蔵庫にお酒をしまってお風呂場へと逃げ込んだ。

言ってることは嘘じゃない。実家で飲む時はそうしているし、短い一人暮らしの中で飲んだときもそうしている。アルコールに弱い自覚は嫌というほどしている。家族には一緒に飲みたくないと言われる程度には絡み酒だ。


元々お風呂が短いので、十分もすれば服を着て飲み始めている大沢さんへと合流できた。

「髪濡れてる」

「乾かしてきて良いなら乾かしてくるけど」

「いいよ。テレビ見て待ってる」

「はーい」

この状況、何。私まだシラフなんだけど。

またしても脱衣所に逃げ込み、髪を乾かす。これで本当に、いつ寝ても大丈夫な訳だ。


「お待たせ」

手には既に自分用のお酒。

缶のままで良いかとコップすら用意していないけれど、私の女子力大丈夫か。否、駄目だな。

小さく乾杯と缶を鳴らし、勢いよく飲んだ。一口目で、既に喉が熱いなぁと感じたけれど、今日は酔っても家だし、大沢さんだし。どうなっても良いか、と二口目を飲む。

テレビを見る大沢さんの斜め前へと座り、小さなテーブルを二人で囲む。テーブルの上にはコンビニで買ったおつまみが広げられていて、テレビは深夜帯のバラエティ番組が流れていた。

「佐川っちの家初めて来た」

「だろうね」

「お酒飲んでる佐川っちも初めて見た」

「だろうね」

こっちを見て笑顔で言う大沢さんに、アルコールが理由じゃなく、顔が熱くなるのが分かった。もう、可愛い顔して!

「…良かったの?家きて」

「フリーだし大丈夫でしょー」

あ、やっぱりそこは気にしていたんだ?

「3パーセントってほぼジュースじゃん」

「こないだ4パー飲んだら死ぬかと思ったから良いの!」

「えーこれ飲んて見てよ」

はい、と渡してくるそれは今の今までは大沢さんが飲んでいたお酒。いったい何パーセントのアルコールが含まれているのか、近づくだけでお酒の匂いがする。

この状況で、気になっている人から進められた飲みかけのお酒を飲まない私ではないので、絶対に口に合わないと分かっていながら、受け取ったお酒をひと口飲む。

「…う」

「どう?」

「無理…」

ひと口で頭がくらくらしてくるように感じる。間接キスだ!とか騒げる状態じゃない。無理。

アルコール無理と項垂れるように横になったが、それがまたいけなかった。横になったらアルコール回るの分かってたじゃん、私!何で横になった。これだから飲み慣れてない奴は…!

「佐川っち、大丈夫?」

「…駄目。無理」

「吐く?」

「吐かない」

自分の摂取出来る絶対量は知らないけれど、これ以上摂取してはいけないラインは分かっているつもりだ。だから、お酒で吐いたことはない。

「んー少し大人しくしてれば大丈夫」

「…ね、もう一口飲む?」

「佐川の話聞いてた?無理だって」

「大丈夫、飲ませてあげる」

「は…?」

何を、どう、飲ませるというのか。驚いて大沢さんを見てると、さっき私が飲んだ大沢さんのお酒に口を付け、そのままキスされた。

「んーっ!!」

閉じたそれを舌でこじ開けられ、お酒を流し込まれる。私に移ってくる量よりも、溢れる量の方が圧倒的に多いんじゃないかって思うほど、下手くそな口移しをされた。


「何してるの…!」

「口移しで飲ませてる」

「そういう事を聞いてるんじゃない!!」

キスされた。いや、それよりハードなことされた。どうしよう。え、照れる。いや、照れている場合ではない。

そう、キスも口移しも問題ではないのだ。むしろ嬉しい。

ただ、何を思って大沢さんがそうしたのかが分からなくて不安なだけ。

お酒の勢い?誰にでもしてる?私で遊んでるだけ?

このまま流されたら、どうなるの。

「嫌だった?」

「…その聞き方は狡い」

嫌じゃないから。もしかして分かってて言ってるのか。

「俺は愛奈(あいな)としたかったから」

「…呼び方」

「いいでしょ、愛奈」

呼ばれたことない。大沢さんに、そんな呼ばれ方したことなかったんですが。

「俺の名前も呼んで」

「…けいちゃん」

「違うでしょ」

けいちゃん呼びはたまに職場でしていたから、普通に呼べる。それで誤魔化すことは出来なかったけど。

「呼んで、慶太(けいた)って」

目を合わせて頬に手を添えられる。

触れられたところから熱が広がる。絶対に、絶対にお酒じゃない。この熱は全部大沢さんのせい。

「…慶太」

「うん、愛奈」

「何、佐川の事、好きなの?彼女と別れたばっかりでしょ」

早口になったと思った。照れ隠しに何を口走った私は。

ああ、もう、顔見れない。添えられたままの手を無視して下を向く。本当に、限界。

「好きだよ」

「…嘘」

「嘘じゃない。別れたばっかりなのは認めるけど、多少酔いも冷めてるし。本気」


どうしよう、この状況。好きと言われて、本気と言われて嬉しいけれど、信じられるかって言われたらちょっと難しい。アルコールが完全に抜けたらなにそれ?って言われないかな。上げて落とされたら暫く仕事行ける気がしないのだけれど。

「好き」

そう言って額にキスをされた。

身体がびくりと反応するけれど、顔をあげることも、何か言うこともできない。

「酒の勢いは認めるけど、部屋にあげてくれた時点でそうかなって。両想い?」

「…なに、それ」

宅飲みを提案したのは確信犯ですか。下心は私だけじゃなかったということですか。

「意味、分かんない。分かんないけど、私は、大沢さん、好き」

「嬉しい」

ぎゅって抱き締められて、大沢さんの匂いに包まれる。近づいた時に感じていたその匂いが、濃く私に纏わりついて、それだけでおかしくなりそう。


「酔った愛奈見たいから、もっと飲ませてあげるね。溢しちゃったから、一緒にお風呂も入ろうね」

私を腕に閉じ込めたまま、そういう大沢さん。家の主導権すら握られているような気がするし、追加の口移しとお風呂が決められてるし。それでも良いかと思えるのは好きと言われたからか、ただの惚れた弱みなのか。

考えている隙もなく、2回目の口移しをされた。今回は大人しく自分からお酒を貰うように少し口を開けて、1回目よりも多めに入ってきたそれを飲み飲む。

「普通にキスしていい?」

「…今更なんの確認なの、それ」

顔を背けて言い返したけれど、なんの抵抗にもならず、今度はお酒なしのキスをされた。

「んっ…!」

アルコールが入っているせいなのか、それとも、段々と深くなっていくキスのせいなのか、声が漏れる。

「可愛い」

キスの合間に呟かれた言葉はちゃんと私に届いていて、そんな言葉1つでまた顔を見れなくなる。

もう、何なの。私をどうしたいの。

これ以上好き勝手にされたら最後まで流されて、そのまま朝を迎えてしまう。それを望んでいたのだろうと言われればそうなんだけれど、可愛いとか好きとか言われれば、やっぱり気持ちの確認をしたくなる。これからの関係性とか。

休憩なくされるキスを一度止めるべく、唇が離れた隙に大沢さんの口を手で塞ぐ。

「出来ないじゃん」

「その前に、あの、その…、これ、何?セフレにでもなる流れ…?」

なんとも可愛くない言い方をしてしまった。だって、恋人になれるのか、なんて聞けない。

「何でセフレ?俺は付き合いたいんだけど」

「〜〜っ!私だって…!…お付き合いしたいです」

私の勝手な葛藤は何処へ…!さらりと言われたそれに、自分の気持ちを吐き出す。

「今日だって、あわよくば部屋にとか。そんでもって、その先も、とか。色々考えてて…。なのに、大沢さん、普通にキスしてくるし…!遊びかなとか、色々…!」

あ、酔ってる。そう自分で分かったけれど、口から出る言葉は止まらないし、自分でも何言ってるか分からなくなってきた。記憶もあるし、考えることも出来るけど、それが行動を抑制するかと言われれば出来ない。そう、完全に酔ってる、私。


「遊びじゃないので、続きしよ。ちょっと待てない」

「は…い!?」

「愛奈、慶太って呼んでね」

「え…?え…!?ちょ、ちょっと…!待っ…!」

静止の声も意味がなく。押し倒されて、そのまま甘やかされ、これでもかってほど、愛された。

勿論、宣言通りに、お酒を飲まされたし、お風呂にも一緒に入りましたよ…!




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