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81話 巫女の神力

「き……君は……?」


 最初見た時は目を疑った。


 だが彼女は間違いなく、俺の今までの記憶の中にいた一人の女性とそっくりだった。いや正確には、昔会った時と多少成長はしているが、それでもその姿は見間違えたりはしない。


「ファティマ……やっぱり君だったのか!」


 俺の方を向いて、膝まづき両手を胸の間に組み合わせ目を閉じて祈っていたその金髪の少女は、間違いなく俺のかつての同僚ジードの妹だ。


 長い金髪、透き通るような白い肌、純白のドレスに身を包んだその女性は、確かに誰もが一目見たら惚れてしまうような美貌の持ち主だ。最後に彼女に会ったのは確か三年も前だが、その時から多少成長したものの、大きく変わってはいない。


 思わず俺はその美しい外見に見とれ動きを止めてしまった。しかし俺の声に気づいたのか、彼女は目を開き青く美しい瞳を俺の前に見せた。


「ファティマ! 俺だよ、ラ……じゃなくてグラハムだ。グラハム・スターロード!」

「……」


 彼女は目を開けたまま、無言だ。だが俺は大事なことを忘れていた。


「そうか、しまった。顔が変わっていたんだ。うっかりしてたよ。でも、本当なんだ。俺はグラハム・スターロード、君の兄ジードの同僚だ。三年前に会ったが、覚えてないか? その時は俺は黒い短髪だった。いろいろと訳があって、こんな顔と姿になってしまったが、本当にグラハムだ。信じてくれ!」

「……」


 やはり彼女は無言のままだ。どうやらまだ俺を信じてもらえないらしい。無理もないか、彼女からしたら大事な儀式の最中に現れた不審者にしか見えないはずだ。


 このままじゃ埒が明かないから、もう強硬策に出るしかない。


「ファティマ、単刀直入に言うと今ここを狙っている奴らがいる。ズバリ言うと帝国軍だ。そいつらは既に魔竜メシアの卵を盗んでいる。魔竜ゴードンの卵も狙われた。そしてここには魔竜ディオルベーダの卵があるだろうが、すぐに奴らが来るだろう。それに何だか巨大な魔物の気配もするんだ。すぐにここを離れよう! 俺の言うことが信じられないかもしれないだろうが、今は取り敢えず言う通りにしてくれないか?」


 俺は彼女に懇願する。だがそれでも彼女は無表情のままだ。俺の正体どころか、俺の話を聞いているのかどうかすら怪しい。


 さすがの俺も不安になった。


「おい、ファティマ。大丈夫か? 俺が見えているか? 話は聞こえているか? 頼むから返事だけでもしてくれないか?」


 すると彼女は再び目を閉じた。代わりにそれまでは開く気配がなかった口が、ようやくゆっくりと開いた。


「……罪深き者よ」

「え?」

「罪深き戦士よ……汝に問う。なぜ我が力を欲するのか?」

「な、何言ってんだ? ファティマ、大丈夫か? しっかりしろ!」


 彼女の口から飛び出したその声は、祭壇の間に大きく反響した。美しい女性の声のほかに、低く恐ろし気な声まで混じっていた。


「答えよ、戦士。なにゆえに我が力を欲する?」

「俺の話を聞いてなかったのか、別に力が欲しいだなんて言ってないだろ。ただ君の命に危険が迫っていることを告げただけだ、変な勘違いしないでくれ!」


 どうやら話が通じていないらしい。あろうことか彼女に変な誤解を与えてしまったようだ。


 魔法師と言っていたが、さすがに俺も彼女と戦いたくはない。しかしほかに手段はないかもしれない。


「……ファティマ、こんなことは言いたくないが、どうやら力づくでも君をここから連れ出さないといけないらしいな」


 すると彼女は今度はゆっくりと立ち上がり、両手を広げた。


「か弱き人間ども、我が前に平伏すべし……そして我を崇めよ」

「おいおい、どこまで傲慢なんだお前は!?」

「万物は神である我無ければすべて塵となる運命、崇めよ」

「……まさか、お前は……」

「神の御前に刃向かうはまさに冒涜なり、その身をもって……己の浅はかさを思い知るがよい」


 直後ファティマの全身から神々しく眩い光が溢れ出した。そのあまりの光の強さに俺ですら目を閉じた。うっすらとだが目を開け、彼女を見ると、彼女の長い髪は逆立ちその青く美しい瞳も怪しげな光を放ちながら俺を見つめていた。


 さらにそれだけではなく、何やら口を動かし、聞いたこともないような言葉で魔法を詠唱しているのも聞き取れた。その詠唱の言葉に反応するかのように、彼女の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり光り出した。


 今度は外が急に騒がしくなった。祭壇の間の壁に空いた穴から外の風景が見えた。嵐と見紛うような暴風が吹きすさび、海面も荒々しく高い波を立てている。


 直後に俺は再び巨大な魔の気配を感じた。さっき祠に向かう途中で感じたのとほぼ同じ大きさを誇る。ここまで来たらさすがの俺でも、魔物の正体を悟ってしまった。


 そして俺の予想は当たっていた。


 ファティマの背後の壁に巨大な穴が空いた、そしてそこから海面がハッキリと見えた。その海面から膨大な水しぶきを上げながら出現したのは、巨大な蛇の怪物だ。その怪物は自身の頭部を空高くまで伸ばし、背中から生えていた巨大な鰭は剣先のように鋭く、空の雲を覆い隠すほどの大きさだ。そして奴は身体の正面と巨大な眼光を俺へと向けた。


 改めて俺は、その巨大さに圧倒されてしまう。さっき『ロマーヌフェルジュ』の中央の噴水で見た像と、完全に姿形が一致した。もう魔物の正体は奴しかいない。


「ディオルベーダ……お前だったのか!」




 かつて五つの魔竜が世界を統べていた時代があった。


 雷の魔竜エレキス、氷の魔竜フリージス、水の魔竜ディオルベーダ、土の魔竜ゴードン、火の魔竜メシア


 人類が二本足で歩き始めた原始の時代より存在し、この世界の万物、自然、生命全てを支配し君臨していた。 


 魔竜が世界を統べる時代は長く続いた。魔竜に見つからぬよう世界中をくまなく旅し、安住の地を無事に見つけた一部の人類のみで作られた国家は、後に『イルスミラーン聖王国』と呼ばれた。


 世界で最初に文明を築いた国家であり、世界で最初に魔竜を討伐したことで知られる【竜騎士】もここに誕生した。


 エレキスとフリージスは伝説の【竜騎士】によって討伐され、さらに大賢者フォーゲルの助力も合わさり、ゴードンとメシアまで討伐されたという。五大魔竜の内唯一討伐から逃れたのはディオルベーダだけであったが、その姿は古今東西ついぞ確認されたことはないという。


 これが後世に広まる『竜騎士伝説』、またの名を『レギオス戦記』ともいう。




 薄暗い個室の中で淡々と独り言を呟いていたのは、魔法師のジェイコブだった。彼はさっきまで内相室にいたが、集中力を高めるため魔気が満ち足りている特殊な地下の個室に移動していた。


 個室内で彼はしゃがみこみ、両手で翳したオーブの中に映る水の魔竜ディオルベーダの全身を眺めながら、自信の見聞を振り返っていた。


「……あれから数千年。世の人々は全て忘れかけている。魔竜が滅んだことすら知る人は少ない。神話とされているが、全て史実だ。エレキスとフリージス、ゴードン、さらにメシア、五大魔竜の内四体も一人の竜騎士と大魔法師によって葬られた。まさに神への反逆そのものだ。人間如きに万物の理を狂わされてたまるか。ディオルベーダ様、舞台は整いました。今こそ憎き【竜騎士】の力を受け継ぐ者に、裁きを!」


 ジェイコブはさらに強烈な魔の波動をオーブに向けて放出する。それに呼応するかのように、ディオルベーダはその巨体をさらに唸らせ、巨大な鰭を拡げ、咆哮を虚空まで響かせた。その咆哮の大きさで、海面に巨大な波紋を形成させた。


「あの男がどんな方法で【竜騎士】になったのかは、正直どうでもよい。神竜ゼノンの導きがあったのだろうが、奴の力はまだ完全ではないはずだ。十分に勝機はある」

第81話ご覧いただきありがとうございます。


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