8話 古代遺跡へ
ラティアの都市に辿り着いた。俺は改めて、ここの都市が10年前となんら変わっていないことを確認する。
「あの銅像の前に、飴細工売り場があったのを覚えていたが……」
その予想通り、確かに飴細工売り場があった。まだ二等兵だった頃、少ない所持金で買った花形の飴細工が、とろける様なうまさだったのを覚えている。俺は昔を思い出しつつ、その売り場の前にやってきた。
「いらっしゃいませ、どうぞ見てらっしゃいな!」
売り場の前に立っていた若い女性が声を掛けた。見たところ、やはり変わっていない。本当に一日くらいしか経っていないな。黒い髪にポニーテール、青い瞳、小柄な体型だが露出した臍の部分を見ると、少しだが腹筋が割れている。そして大きな青いバンダナが何よりの特徴だ。
間違いない、俺はこの女性にナンパしたのを覚えている、もちろん無視されたが。
正直あの頃の俺は本当に馬鹿丸出しだった。10年前とはいえ、当時で既に成人していたにも関わらず、何やってたんだと後悔している。
「お兄さん、よかったらお一つどうです?」
女性は俺のことなど覚えていない。いや、そうじゃないな。顔が別人になっているから、気づくわけないか。
「そうだな、頂こうか……」
だが飴細工はもう一度食べてみたい。俺はそう思いながら、腰に下げていたポーチの中身を確認する。だがその時アマンダの左手が俺の右手に触れる。
「ランディ、その前に」
アマンダの右手が地面を指していた。さっき言っていた、古代遺跡のことだな。昔を懐かしむ気持ちに浸っている場合じゃなかったな。
「あぁ、すまない。今時間がないんだ、また今度な」
「そうなの。では、またのお越しを」
女性店員は不満そうな顔を隠せない。いや、本当は買ってあげたいんだがな、隣にいるアマンダが怒ったら、多分この都市が吹っ飛んでしまう。
「そうは言っても、一体その遺跡の入り口って……」
「ここから南に500メートルほど歩くと、地下トンネルへの入り口がある」
アマンダが言うには、その地下トンネルは鉱石採掘場に続いている。そのトンネルの途中に大きく陥没した穴があり、そこをさらに下に潜っていけば辿り着けるらしい。子供が悪戯気分で侵入しかねないが、どうなんだろうか。
まぁそんな疑問は置いておいて、俺達はそのまま南に向かい、地下トンネルの入り口の前に立った。
「こんな場所あったんだな。って、この気配は?」
俺の【気配探知】が反応した。神殿を出た直後、アマンダの時と同じように巨大な力を保持した魔物の気配がする。数的に一体だけだが、明らかにこのトンネル内のどこかに潜んでいる。
「やはり、私の睨んだ通りか」
「なるほど、これなら悪戯で入ってきた連中にも探られないわけか」
その言葉通り、入り口の右手に、『強大な魔物出現可能性大、入るべからず!』という警告文が書かれた大きな看板がある。それでも入る奴らはいるだろうが、恐らくどれだけ手練れの良い戦士が入っても、対処できるほどの強い魔物には違いない。が、そんな奴がいても、俺の敵ではないと思うが。
「では、行くか……」
トンネルに入った。暗かったが、【竜騎士】の俺には関係ない。【暗視】のスキルのおかげで、暗い場所でも問題なく見える。それはアマンダも同じようだ。
幾多の戦士を葬ったかもしれない魔物の正体は確かに気になるが、それ以上にこのトンネル内のどこに古代遺跡への道があるというのだろうか。アマンダの案内で進んでいくが、普通の一本道が続く。
「確か、このあたりだったが……」
トンネルに入って5分ほど経って、ようやくアマンダが止まった。途中に大きく陥没した穴があると言っていたが、そんなものどこにも見つからない。いやよく考えたら、簡単に見つかるだろうか。仮に侵入者を排除する魔物を配置しても、それ以前に見つからなければ何も問題ないからだ。
その俺の予想は当たっていた。アマンダが何度も探すも見つかる気配はない。俺はさすがに腰掛けた。
すると俺の座った場所の右側にあった岩場の中央に、妙な窪みがあった。その窪みは全体的に長方形をしており、深さは俺の握り拳程度、幅と奥行きの長さは俺の肩幅ほどもあり、まるで何かを置くような作りになっている。
「なぁ、アマンダこれ見てみろよ」
さすがにアマンダに尋ねた。彼女も不思議がっていたが、仕掛けを理解したのか俺に提案した。
「ちょっと、その剣をここに置いてみろ」
「え、どういう?」
「いいから、置いてみろ」
俺は言われるがまま、背中に掛けていた剣をその窪みに置いてみた。すると、その岩が急にガクンと沈み出し、真横に移動していった。
「な、これは?」
「やはりな」
なんと下から現れたのは、地下へ続く階段だった。道理で見つからないわけだ。ニコラス達もこの階段を下っていったのだろう。だが、一つだけ問題が生じた。
「ちょっと待て、これじゃ俺の剣は……」
「また取れば仕掛けは解除される、この下には別の武器で挑む必要があるな。【武器召喚】は問題ないだろ」
「そうだな」
アマンダの言う通り、俺には【武器召喚】スキルも使える。そのスキルなら、別に剣をここに置いても問題ない。別の武器を召喚できるからな。
「武器召喚、槍!」
「おい、ちょっと待て!」
アマンダが徐に叫ぶが、俺の右手には俺の身長ほどの長さを誇る竜槍が出現した。が、その刃先が危うくアマンダの胴体に触れそうになった。また俺の軽率ぶりを露呈してしまったな。
「す、すまない!」
「街中では決してするなよ」
なんというか、正体は魔竜ということもあって、怒った時の顔つきは【竜騎士】の俺ですら怖く感じる。もちろんアマンダの警告は素直に受け入れる。
そのまま俺達は階段を下りて行った。すると、徐々に明るさが増してきた。誰かが壁の松明に灯したのだろうか。100メートルほど階段を下りると、案の定そこには古代遺跡の残骸があった。
古代遺跡、古代の魔法師達が建設した遺跡。そもそも建設した目的は明らかにされていない。一説には、古代に虚空から飛来した巨大な悪魔の化身に対抗するために建設された、とも言われている。
古代の魔法師が設計した特殊な魔法建造物が並ぶ。この中にはアマンダが話していたように、別の場所へ瞬時に移動できる【転移魔法陣】が敷かれた建造物もあるはずだ。アマンダはその手の知識に詳しく、古代遺跡に踏み入り目当ての建造物を探し回った。
俺もアマンダと一緒に探した。【転移魔法陣】は並の魔法師では発動できない超高度な魔法とされ、出発地点と目的地に同じ程度の魔力を込めた魔法陣を敷く必要がある。単に念じれば好きな場所へ瞬間移動できる、なんて簡単な話じゃないわけだ。
その【転移魔法陣】の建造物は、古代の魔法師の中でも最も重大な建築物とされていた。外敵に備える意味でも、数多の建造物の中で特に目立たないような見た目をしている。正直ほかの建造物と見分けがつかないらしい。一点を除けば。
「ここだ」
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