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7話 グラハム改め『ランディ』へ

 思えば確かに10年も前、奴が張ったという【呪縛陣】で俺だけでなく、アマンダも拘束された。仮にも魔竜の中で頂点の存在とされるアマンダを拘束してしまうほどの威力、そう考えたら確かにヒースは恐るべき相手かもしれない。


「あぁ、わかった。取り敢えず今からでも速攻で行けばいいだろう。いたらいたでラッキーだし、それにほかに行くべき場所もない」

「そうだな、では!」

「まだだ、グラハム。まだするべきことがある」

「はぁ、何だよ?」

「お前、その格好のままで行くつもりか?」


 俺を指差しながらアマンダは言った。俺は自分の体を眺める。そう言えば、神殿から出てずっと全身鎧の姿だった。


「……確かに目立つな。だがそれならどうしたらいい?」

「【軽装備】に切り替えろ、それなら大丈夫だ」

「ど、どうやればいいんだ?」

「……まず目を閉じて心の中で【軽装備】をしている自分の姿を想像しろ。なんなら、一般兵の姿格好でも構わん。そしてそれを想像したまま、『装備変更、軽装備』と詠唱すればよい」


 彼女の言う通り、それっぽい格好を頭の中で想像したまま、俺は詠唱した。


「装備変更、軽装備!」


 すると、俺の全身にはまっていた鎧の一部が自動的に外され消滅した。全てではなく、あくまで部分的に防具は身についているので、確かに【軽装備】モードだ。


「……凄いな」


 俺は我ながら感心した。初めて試したが、正直【竜騎士】はなんでもできるのではないかと、錯覚してしまう。


「しばらくはその格好のままで十分だろう。よほどの強敵でない限りは、【重装備】モードになる必要はない」


 アマンダは軽く言ったが、その「よほどの強敵」というのは一体どういった奴らなのか、この時の俺は微塵にも想像できなかった。


 兎にも角にも、これでようやく準備が整った。今度こそラティアへ。だが、またもアマンダが俺を制止する。


「ちょっと待て、グラハム!」

「こ、今度は何だよ!?」


 まだ行かせようとしないのか。正直じれったい。


「何度もすまない、大事なことを忘れていた。これを飲め」


 アマンダは腰に掛けていたポーチから、何やら一枚の木の葉を取り出した。それは薄汚れた茶色を呈しており、俺は思わず渋い顔をした。


「なんだこれは?」

「それを今すぐ飲み込め」


 突然発したアマンダの言葉に、俺は思わず聞き返す。


「な、なんだって?」

「いいから飲み込め。毒ではない」


 いや、毒ではないとかそういう問題ではないだろ。


 と、言いたかったが、もちろんアマンダがここで俺に毒入りの葉を渡す理由なんかない。だが彼女の様子からして、俺がこれを飲み込まなければいけない理由はあるはずだ。


 俺は騙されたと思って、木の葉を小さく畳み口の中へ押し込んだ。見るからに汚らしい茶色をしていたが、不思議と何も味はしない。それがかえって不気味だったが。


「……飲み込んだぞ」

「ありがとう、グラハム。それと……」


 アマンダもどことなく安心した様子だ。そしてまだ何か言いたげな様子だ。


「グラハム、ではなくお前のことは、これから『ランディ』と呼ばせてもらう」


 突然の名前変更、いや一体彼女は何を言い出すんだろうか。


「はぁ、どういうことだよ? 何変な名前勝手につけてんだ?」

「私もアマンダと呼ぶように言った。それと同じことだ」

「いや、お前は人間としての名前だろ。まさか、俺が【竜騎士】になったから、改名しろと言いたいのか?」


「そういうことではない。これを見ろ」


 アマンダはまた同じポーチから、今度は小さな手鏡を渡した。そしてその鏡に映った俺の顔を見て、俺は言葉を失った。


「な、なんだ……この顔?」


 俺が俺でなくなっていた。髪の色は黒、ショートヘアと平凡な顔立ちで、まさに特徴がなかったのに、鏡に映っていたのは茶髪な美男子、彫りもやや深め、自分で言うのも気持ち悪いが、独身女性が速攻で惚れてしまうような顔立ちになっていた。


「気に入らないか、その顔は?」

「な、なにをしたんだ、アマンダ?」

「さっきお前が食べた木の葉、あれが答えだ」


 あぁ、そういうことか。確かに何も味はしなかったが、あの瞬間に俺の顔と髪の色が変化したというわけか。


「要するに、お前は今日からグラハム・スターロードではない。ランディ・マクラーレンと名乗ってもらう」

「なんで、急にこんなこと?」

「まだ気づかないのか。お前は死んだということになってるんだぞ」


 言われてみれば、その通りだな。帝国の連中を出し抜くには、確かにこのやり方は効果的だ。だがそれならそうと、最初に言ってくれればいいのに。


 が、この顔は正直悪くない。アマンダには感謝せねば。俺がまじまじと鏡を見つめるのを見て、アマンダも嬉しそうだ。


「どうやら、気に入ってくれたみたいだな」

「なんというか、何から何まですまないな。でも、別に俺が生きていたってバレてもよくないか?」

「お前は別に困りはしないが、私にとって困るのだ」

「え、それってどういう……?」


 俺の言葉にアマンダは強烈な睨みを返す。何か俺は言ってはいけないことを言ったのだろうか。相変わらず俺の勘の悪さを恨む。


「お前の正体がバレれば、お前と一緒にいる私の正体も探られる」

「……それで?」

「帝国には私の同胞が捕らえられていると、さっき言ったな」

「あっ! ということは……」


 そのまさかだ。俺の正体がバレる。それはすなわち、俺と一緒にいるアマンダの正体も奴らは気になり、探り始める。そうなればいずれ奴らは彼女の正体を、魔竜メシアと勘づいてしまう可能性もあるわけだ。そして、同胞達はその瞬間人質となってしまう。


 なんという入念深さ、さすが魔竜の中でも頂点と言われるだけあって、頭脳明晰っぷりは俺の比じゃない。俺は彼女を尊敬したい。


「すっかり話が長くなった。すまない」

「いや、いいんだよ。俺の方こそ不注意で」

「わかってくれたらいい。それでは今度こそ」

「あぁ、行くか!」


 俺達はようやくここを離れることができた。まず最初の目的地は、すぐ先にあるラティアの都市だ。こうして俺とアマンダの長い復讐物語が今幕を開ける。絶対に約束を果たすと、心の中で友に誓った。

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