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6話 帝国の裏の顔

 そして俺に続いてメシアも地上に出た。やはりというか、魔竜の姿になっている。もちろん飛ぶために仕方なかったが、地上に出てすぐさま再び人間の姿へ戻った。


「やはり見事だな、完璧に奥義まで使いこなすとは……」

「お褒めの言葉ありがとう。それじゃ、行くか!」

「行くって、どこへ?」

「どこへって? 決まってるだろう、俺達が向かうべきは……」

「早まるなグラハムよ、まだ敵地に踏み込むには早い」


 一体メシアは何を言ってるんだ。せっかく【竜騎士】になったのだ。この力さえあれば、恐らくニコラスなど敵ではない。いやそれどころか、七大将軍も今の俺の手にかかれば。


「言っておくが、帝国の力はお前が思っているほど、やわではないぞ」

「何言ってる? ちょっと買い被りすぎじゃないか?」

「買い被りではない。それに本当に敵地に踏み込む気なら、私がとっくに片付けている」

「どういうことだ?」

「帝国の支配領域がここ10年の間で急激に拡大した、そのことはお前も知っておろう」


 メシアの言うことは事実だ。確かに俺も学校の授業で聞かされていた内容だ。ここ10年の間で、エイリーク帝国の支配領域は、隣国のカパトラス王国、そして南に位置するフォーク王国、さらに南東にある小さい島国ビリスン王国を次々と支配していった。


 100年ではない、10年だ。あまりにも短い。


「要するに……お前が言いたいのは」

「明らかに帝国軍の勢力が拡大しただけではない、ここ10年の間で帝国軍の内部で異常なことが起きている。そしてそのことは、私の子供が攫われたこととも関係している」

「……というと?」


 そこからメシアが口にした内容は、にわかには信じ難い内容だ。


「……帝国は、魔竜の軍団を結成しようとしている」

「!!」

「いや、正確にはもう既に出来上がりつつある。実際に3年前のカパトラス王国との戦争の際に、魔竜の軍団が実戦投入されたのだ」

「ま、まさか……」

「帝国側は存在自体を否定しているがな。世論も、野生の魔竜がただ暴走し戦局が有利に傾いた、とだけしか報じてない」


 耳を疑う内容だ。俺は黙って聞いていたが、徐々に帝国への怒りがそれまで以上に膨れ上がる。そこまで聞いたら、なおさら攻めに行かねばいけないのではないか。それでも俺達が迂闊に攻められない事情がある。


「グラハム、今のお前なら帝国の将軍すら相手にならぬほど強いかもしれない。しかし、大量の魔竜の軍団が相手となると、さすがに話は別だ。それに……」

「わかっているよ、メシア。それ以上は言わずとも」

「すまない。わが同胞を救い出したい」


 メシアの言うことはもっともだ。危うく早とちりするところだ。戦闘能力こそ強大になったが、肝心の頭の部分はさっぱりだな。そんな自分を本当に情けなく思う。


「俺の方こそすまない、メシア」

「『アマンダ』と呼べ、私のことは!」

「え、アマンダ?」

「私の人間としての名前だ。メシアはあくまで魔竜としての名だ」

「あぁ、そういうことか。じゃあ、アマンダ改めてよろしくな」

「……」

「どうした?」


 アマンダは俺が手を差し伸べても握手しようとしない。一体どうしたんだろうか。


「……グラハム、お前には謝らなければな」

「謝るって何を?」

「友のことだ」

「!」


 それを言われて俺もようやくハッとした。俺にとっては10年も前のことだったが、確かにこの火山で俺は多くの同僚を失った。思えば、この地下には同僚たちの亡骸がある。そしてその中には最も親しくしていた、ジードの亡骸もあるのだ。


 そしてその同僚達を死に追いやった張本人が、今目の前にいる。正直、辛くなる。このタイミングで、それを言うのか。黙っていれば、俺も気づかなかったのに。


「お前の友のことを思うと、私が私の同胞を救い出すためにお前に協力を申し出るのが、いささか不適当な気がしてな。我が子を守るためであったが、本当にすまない」

「今更、謝ってもらってもな」

「グラハム……」

「過ぎたことはしょうがないさ。アマンダは自分の子を守るために戦おうとしたんだろ、だったら問題ないじゃないか。悪いのは全て帝国(奴ら)だ。それで十分だろ」

「す、すまない!」

「辛気臭いぞ、魔竜らしくもないね」

「……人間の社会に長い間溶け込んでいたからな」

「へぇ、その姿で?」

「そうだ。おかげで人間(お前たち)の行動や考え、価値観も理解できてしまった。これがいいのやら悪いのやら……」

「いいや立派だと思うよ。少なくとも俺よりかは」

「それは誉め言葉ではないだろ」

「確かにな」


 軽く冗談を言い合って、気が和んだ。まさか仮にも魔竜とこれほどまでに、心が通い合う仲になるとは思わなかった。


 だが感傷に浸っている場合ではない。


「さて、じゃあアマンダ。俺達はまずどこへ行ったらいいんだ?」

「そうだな。まず向かうべきは、最も近くにある都市」

「ラティアか…ってか、待てよ!? ひょっとしたら」

「いや、恐らく奴はもういない」

「何言ってんだよ、一日しか経っていないはずだろ?」

「確かにその通りだが、大魔法師ヒースも一緒にいる」

「そういえばそんな奴いたな。それがどうした?」

「あの都市の地下に、大魔法師の一族が建設したという古代遺跡があってな。そこには……」


 アマンダから出た言葉に俺も驚かざるを得ない。


「て、【転移魔法陣】?」

「奴がわざわざ帝国随一の魔法師を今回の作戦に起用したのは、退路までしっかり確保するためだ。仮にも私が相手だからな」

「……古代遺跡って言ったら大昔の建造物だろ、機能しているのか?」

「ヒースを甘く見るな。お前も味わったろう、奴の【呪縛陣】を」

「俺にとっては10年も前のことだから、あまり覚えて……」

「あぁ、そうだったな」


 さすがの魔竜も失念していたみたいだ。ただ確かに俺も思い出した。

第6話ご覧いただきありがとうございます。


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