54話 ヒースの奇策
ようやく会えたな。もう一人の宿敵が。
なんとかアマンダの思念波の声を頼りに、ここまで来れた。といっても、地下にいるからその間、俺は地竜形態になっていた。地中の中も楽々移動できた。それでも探すのに苦労したが、ヒースは【隠密】のスキルを使用していたみたいだ。
しかしもう逃がしはしないぞ。
「うぉおおおお、ランディさんだ! ランディさんが来てくれた!」
「ありがてぇ! あんたが来てくれたら百人力だ!」
「みんな、大丈夫か? 怪我はないか?」
「俺達は大丈夫だ。それより、親方が……」
「あぁ、わかっている、アマンダから聞いた。奴の左手だな」
俺にもはっきり見えている。ヒースの左手の上に黒紫色の球体がゆらゆらと、上下運動しながら浮いているのが見て取れた。
最初はアマンダの言っていることが信じられなかったが、なんということだ。ヒースの奴、本当にウォードをあの中に閉じ込めたのか。相変わらず恐ろしい魔法師だ。
「遅いぞ、ランディ。道草を食っていたのか?」
「すまない、気配を探るのに手間取ってな」
「ランディさん、来ていきなりで悪いんだけど。大ピンチなの!」
「わかっている。だがもう安心しろ、俺が来たからには好きにはさせない」
「……失礼ですが、どちら様で?」
俺はヒースのことを知っている。以前と同じ姿ならわかっていただろうが、奴にとってもやはり俺の変わりぶりは見抜けなかったようだな。一応、本名はふせておくか。
「ランディ・マクラーレンだ。ただの【魔剣士】さ……」
「なに? マクラーレン……だと?」
なんだ、その反応は。まさか俺のことを知っているのか。ヒースは明らかに動揺しているように見える。そのヒースにさらにアマンダは追い打ちをかける。
「一応知らせておくが、お前の大事な仲間はもういないぞ」
「なんのことでしょう?」
「いや勘違いだったらいいんだが、ニコラスと言う帝国の新しい将軍は、もうランディによって始末されたよ」
「な!?」
その言葉を聞いて、さらにヒースは目を見開いて動揺する。さすがのヒースもそればかりは予想外だったようだ。
「……やはりあなた方も盗賊団に協力する戦士、そしてこの遺跡の財宝を狙っていると?」
「違うな、財宝なんかじゃないよ。お前と同じさ、ヒース」
「財宝じゃない、となると?」
「とぼけるな、お前達の真の狙いがわからないほど、我々も愚かじゃない。もちろんこの先に行けても、恐ろしい守護者が控えているが」
「なるほど。どうやら鉄壁の守りのようですね、参りましたよ。ニコラスだけじゃなく、私まで追い詰めるとは」
「ランディ、やるべきことは……わかっているな?」
「あぁ、わかっている」
俺はアマンダに言われ、背中にかけていた竜槍を右手に持った。その槍を見て、リデル達も動揺する。
「え? ランディさん、あなたいつの間に槍なんか?」
「え、あぁこれは……そうだな、なんというべきか」
「それはまさか、伝説の竜槍? ば、馬鹿な? ということは……お前は本当に……」
まさか、ヒースは【竜騎士】の存在を知っていたのか。俺は思わずアマンダの方を見た。アマンダは何も言わず、ヒースを睨みつける。
「私達は、お前ら魔法師が最も忌むべき存在だ」
「馬鹿な、そんな馬鹿な! あり得ない! 伝説の【竜騎士】など、もうこの世には……」
「り、【竜騎士】ってどういうこと? ねぇ、ランディさん、あなたの戦闘職は……」
さすがのリデルも不思議がった。だがアマンダの口振りを見てみると、もう隠す必要はなさそうだ。俺は潔く喋ることにした。
「リデル、すまんな。今まで黙っていたんだが、俺は【魔剣士】じゃない。こいつの言う通り【竜騎士】だ」
「なんですって? いや……でもその槍は確かに」
「なんだ、見たことあるのかこの槍を?」
俺はリデルに槍のことを聞こうとした。だが、その時だった。突如、ヒースの足元に青紫色の魔法陣が円を描いた。そしてその魔法陣から、やはり同じ青紫色をした気流が奴を包み込んだ。
奴の姿ははっきり見えるものの、髪が逆立ち目の色が変わった。どうやら、自己強化系の魔法を唱えたようだ。
「な、なんて魔力? ランディさん、離れて! そいつは……」
「いいや、離れる必要はないさ。それよりリデルこそ、危ないから下がっていろ」
「ぐぅ!! すまない、ランディ。想像以上の魔力だ、お前に任せてもいいか?」
どうやらアマンダでも手に負えないような強さなんだな。確かにさっきのニコラスと違う怖さを秘めている。だてに一流の魔法師と呼ばれているわけじゃないか。
「ふふふ、まさか私の前に忌むべき【竜騎士】が現れるとは。あなた方は私の想像を遥かに超えていたようですね。にわかには信じがたいが、もしそうなら私も全力を出さなければいけないようだ」
どうやら本気のようだな。俺は竜気のバリアを周囲に張り巡らした。リデル達もその気になればかばうことができる。
これまでにないほどの総力戦になりそうだ。だが、ここで俺は妙な違和感を覚えた。
(妙だな。全力で魔力を出しているように見えるが、奴から殺気を感じない。どういうことだ?)
その俺の勘は当たっていた。なんと次の瞬間、青紫色の気流の中心から眩い光が放たれ、その気流が完全にニコラスを包み込んだ。
しばらくしてその気流が完全に消えた。だが俺達の目の前にいた人間は、ヒースではなかった。
帝国軍の制服を来た男性がヒースが立っていた段に、横たわっていた。その男性を見て、アマンダが思わず叫んだ。
「馬鹿な……こいつは潜水艇の操舵手?」
「おいおい、一体どうなっている? アマンダ、説明してくれ」
「私に言われても、こればかりは……」
信じられない光景に、俺を含めた全員がその現実をしばらく受け入れずにいた。その重い沈黙を破ったのはリデルの一言だった。
「恐らくこれは【座標交換】の術ね!」
「な、【座標交換】?」
「そうよ。ある場所へ瞬間移動する術なんだけど……」
「それって、転移魔法の一種か? 馬鹿な、転移魔法は【転移魔法陣】がないと発動しないはずだ、なぁアマンダ?」
「あぁ、私もその認識だ」
「違うわ! 確かに転移魔法とも似てるけど、原理はまるで違うの!」
「どういうことだよ?」
リデルの言っていることがよくわからない。当の本人も困った顔をして、うまく説明するのが難しいみたいだ。
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