51話 魔竜族とマスター
「ふふふ。見たかガルシア、今の戦いを?」
「あぁ、目に焼き付けたよ。なんということだ、まさか究極奥義さえも……」
「ゼノン様は彼のことがよほど気に入っていたようだ。私も下界から少しばかり見ていたが、あそこまで目を輝かせて人間を鍛え上げたのは、いつ以来だろうか……」
「50年前の、あの男の再来か。久しいな」
地下の神殿内で半透明なオーブからアマンダとガルシアが、グラハムの勇姿を見届けていた。さらに、その様子を意識が戻ったオリバーも、遠くから眺めていた。
あまりの戦いぶりに感無量だったのか、オリバーは拍手を送っていた。
「……こいつは、とんでもなくヤバい戦士だな。ははは、かなわねぇよ」
「さて、ガルシア。これでグラハムの実力と言動に偽りはないと、わかっただろう?」
「……あぁ、そうだな。確かにお前達は信用できる。だが、まだ一人……」
ガルシアはオリバーを睨みつける。向けられたのは、敵意だった。
「あの男は……?」
「彼も仲間だ。戦力的にはランクAの【魔槍術士】だから、それなりには戦えるぞ」
「それなりには戦えるだと? はっ、偉大なる【竜騎士】の前じゃ、高らかに自慢出来やしねぇ」
「敵でなければそれでいい。だが、秘宝を奪うつもりなら……」
「わかってるよ、こう見えて勝てない戦に突っ込むほど馬鹿じゃない。というか、勝手に仲間認定されても困るぜ。俺はあんたらに協力するとは言っていないし、そもそもあんたらだけで十分だろうが」
オリバーは完全に自分の力を至らなさを認めたように、グラハムが上った階段に向かっていった。だが、そんなオリバーをアマンダが呼び止める。
「オリバーよ、お前には大事な役割がある」
「急にそんな下手に出て何のつもりだ?」
「下手に出てはいない。代わりとなる潜水艇の操舵手を探していてな。オリバーも並みの魔法師以上の魔力が備わっているから、適任だと思うが」
「却下だ! というか、俺の本職は戦闘職だ。運転手だなんて御免被る! そんなのは盗賊団のリデルに頼めばいいだろう」
「そうか、それは残念だ。遺跡の財宝を分けてやろうと思っていたのに」
最後のアマンダの言葉にオリバーも足を止めざるを得ない。
「……なんだと?」
「そのままの意味だ。この遺跡の財宝は、全て集めると現在の帝国の貨幣価値で、1000万ルペクほどはあるだろう」
「私も守護すべきは、この神殿の祭壇の間にある秘宝ただ一つ。大昔に我が“マスター”が人間から頂戴した財宝の数々は、自由に持って行ってもらって構わんぞ」
オリバーは真剣に考える。しばらく考えたのち、アマンダに質問した。
「一つ聞いていいか? アマンダとガルシア、あんたら一体何者なんだ?」
「何者って?」
「最初はランディと同じ【竜騎士】だと思っていたが、どうも俺の勘はそれを否定しているんだ。それに“マスター”ってのは、魔竜ゴードンのことか? ってことは、ガルシアさんよ。あんたとゴードンとの関係も気になるね」
アマンダとガルシアはその質問に考え込む。そしてガルシアがしばらくの沈黙の後、重い口を開いた。
「……我々は魔竜族だ」
「ま、魔竜族?」
「魔竜族とは、魔竜に仕える種族。その特徴としては、魔竜と人間、二つの形態を併せ持つこと」
「なんだと? ってことは、やはりお前がさっきの守護竜か?」
「そうじゃなかったら、どうだと言うんだ?」
オリバーもガルシアの言葉に面食らう。だが今のこの状況で、ガルシアの言葉を嘘だと捉えるのも無理があると、オリバーは悟る。
さらにアマンダが付け加えた。
「魔竜族には各々“マスター”となる魔竜の下に仕える。そして、そのマスターに忠義を尽くし、命の限り戦う」
「……まさか、アマンダ。お前もか?」
その質問にアマンダは無言のままだったが、オリバーは察した。
「なるほどな。【竜騎士】といい、魔竜族といい、俺はとんでもない奴らと関わっちまったようだ」
「別に逃げたいのなら、逃げてもいいんだぞ。そうしたら、財宝は諦めてもらうしかないが」
「誰が逃げるって? 全く呆れるぜ。いいか、俺の今の雇い主はウォードだ。まずは奴からこれまでの報酬分をもらう、お前達との契約はそれからだ」
「それは……協力してくれると受け取ってよいということか?」
今度はオリバーがアマンダの質問に黙り込んだ。
「……1000万ルペクと言ったな? 保証は?」
「お前がそこまで疑うなら、連れてってやろう。この神殿の『貯蔵庫』へ」
「ふふ、そいつは楽しみだ」
「と、言いたいところだが、生憎それは後回しになりそうだ」
「な、なんだと? お前達俺を弄ぶつもりか?」
「弄ぶつもりなどない。むしろ早く連れて行ってやりたいが、まだ敵は残っているようだ」
「な、それは……どういう?」
その時三人の顔が一気に強張った。三人ともに感じたのは、強烈な戦士の気配だ。
「やはり、また現れたようだな」
「さっきは一時引き返したようだが、奴もニコラスがやられたのを感じたようだな。オリバーよ、お前も感じただろうが、ニコラス以外にも敵は……」
アマンダがオリバーの顔に視線を配るも、彼の様子は明らかにおかしかった。何か考え事をしているのか、俯いて固まっている。
「おいおい、オリバー。まさか怖気づいたというのか?」
「……怖気づいてはない、安心しろ」
「そうか、それならいいが、明らかにニコラスより強敵だろう。わかっているな?」
オリバーの気分は晴れない。それは無理もないことだった。なぜなら、今感じている気配の持ち主はオリバーにとって、忘れられない相手なのだから。
(そうか、あいつもここに来ていたのか。となれば、今度こそ……決着をつける!)
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