43話 迫りくる帝国軍
「アマンダ、感じたか?」
「あぁ、わかっている。まだかなり遠いが、奴らが来たな」
「なるほど。どうやら、侵入者はお前達だけじゃないようだな」
ガルシアも奴らの気配を感じ、立ち上がった。俺から受けた傷はまだ完治していないが、来るなら来いと言わんばかりの態度だ。
「ガルシア、聞いてくれ。帝国の奴らを排除せねばならぬ、狙いは……」
「そんなことは無論わかっている。この奥の間には絶対に行かせはしない。もちろん、お前達も……」
二人のやり取りを聞いて、俺は質問してみた。
「まさか、この奥にあるのか? 魔竜ゴードンの卵が?」
その言葉を聞き、ガルシアが強烈な睨みを俺に投げつけた。どうやら図星のようだが、明らかに俺への敵意を剥き出しにしている。
「貴様も奴らの仲間か? 【竜騎士】に選ばれた人間なのに、我らを裏切るというのか?」
「はぁ? 何でそうなるんだよ?」
一体全体、ガルシアはどんな考えを抱いているんだ。どこをどう解釈したら、俺が帝国の奴らの仲間と言う結論に至るのか。正直早とちりにも程がある。
「アマンダ、何とか言ってくれ。俺は奴らの仲間じゃ……」
「残念だが、奴の使命はこの遺跡の奥に誰一人行かせないこと。それが、主との契りだから」
「あの……何わけわかんないこと、言ってるんだ?」
二人のやり取りは俺には意味不明すぎる。何やらガルシアは、重大な使命を背負っているのはわかる。この遺跡の守護竜なのだから、俺達を侵入者と認識した以上、たとえ俺が【竜騎士】だったとしても、敵扱いということか。頭が固すぎるな。
「誰であろうと、この奥には行かせん!」
「わかった。ガルシア、お前の言う通りにしよう」
「お、おい……アマンダ、それじゃ」
「心配するな。ニコラス達はお前が倒せばいい。元々それが目的だろ?」
その言葉を聞いて、ガルシアも平静を取り戻したようだ。
「……ほう、お前達が帝国軍を排除すると?」
「口で言っても理解されないなら、行動で示すしかない。ガルシア、奴らを倒せば信じてもらえるか?」
「それは、結果を示してからだ」
ガルシアは右手を前方に出した。そして掌を地面に向けて、何やら念じる。すると地面から、突如半透明な不気味な色を呈した球体が出現した。
「それは……一体?」
「オーブだな。遠方の状況を映し出してくれる」
ガルシアがオーブを宙に浮かし、両手を翳して魔法を詠唱した。特殊な詠唱文だろうが、俺にはどんな言葉を言ってるかはわからない。
しかしその直後、オーブに木々に覆われた密林の中を行進する帝国の兵士達の姿が映し出された。
「これは……やはり帝国軍だったか……?」
「やはりあの預言は本当だった。帝国の薄汚い連中めが、お前らの好きなようにはさせん!」
「ランディ、見ろ!」
「こいつは……?」
アマンダが一人の金髪の男性を指差した。ほかの兵士達とは違い、随分と立派な鎧の姿に包まれているだけでなく、これまた立派な深紅色の鎧を身に着けた大きな馬に跨っていた。
間違いない、ニコラスだ。だが、さらに驚きの違いを見つけてしまった。
「胸に金色の竜の徽章がある。ってことは……あいつ正将軍になったのか?」
「まさか? だが、あり得るな。帝国軍からしたら、ラティアの火山で奴は大手柄を立てたんだから」
「くそ! どこまでもふざけてやがる野郎だ! 奴もそうだが、軍のトップは何考えてやがる?」
奴が俺達の同僚にした無慈悲な行為を考えたら、怒りに震えて我を忘れてしまいそうだった。そんな俺をアマンダが冷静になって抑えてくれる。
「ランディよ、冷静になれ。私だって同じ気持ちだ」
「アマンダ、嬉しいが今の俺に平静を保てという方が無理な話だ」
だがそんな言葉に、今度はガルシアからも忠告が入る。
「分を弁えろ、人間。そんな体では【竜騎士】の鎧を身に着ける資格はない」
「な、なんだと? 貴様に何がわかる!?」
「アマンダよ、確認するが本当にこの人間は、ゼノン様の試練を乗り越えたのか?」
アマンダは即答してくれた。
「ガルシア、心配ない。私がしっかりと見届けた。それにこの男の根本となる気質は、ほかの人間と全く異なる。独特な固有スキルも持っていてな……」
アマンダの自信に満ちた回答を聞いて、ガルシアもようやく俺への敵意を薄めてくれた。
「……いいだろう、人間。いや、ランディと呼ぶべきか?」
「別にどっちでもいい。因みに本名はグラハムだ」
「では、グラハムよ。お前が本当に我ら魔竜族の味方たるに相応しいか、証明してみろ!」
「言われなくてもそのつもりだったさ。だがその前に、聞きたいことがあるんだが……」
「なんだ?」
「地上に出るには、どうしたらいい?」
俺の質問は少し意外だったのだろう。ガルシアは少し苦笑いをし、右手を伸ばして歪な形の魔法陣を空中に描いた。
すると、俺から見て大広間の左側の最奥部に、螺旋状の長い階段が出現した。どうやら、地上まで続いているようだな。
「ありがとう、ガルシア!」
「ランディよ、奴を倒すのもそうだが、最も守るべきものを忘れるな!」
「わかってるよ、アマンダ。奴らの好きにはさせない」
ガルシアに礼を言って、俺はその螺旋階段に向かいひたすら地上へ向った。ニコラスの気が徐々に近づきつつあるのを感じた。待っていろ、お前に待ち受けているのは栄誉ではなく地獄だ。
だが、その時だった。
「なに、また別の気が? こいつは誰だ?」
階段を上っている最中に、やはり遠方から近づきつつある別の大きな気配を感じた。
ニコラスとは全然違う。いや、それだけじゃない。ニコラスとは比べ物にならないほどの、巨大な気の持ち主だ。
ヒースともまた違う。一体誰かはわからないが、かなりの強戦士なのは間違いない。恐らくランクSか。
と、思っていたらアマンダから思念で言葉が飛んできた。
(ランディ、お前も気づいたか? 敵はニコラスとヒースだけじゃないようだ。帝国軍は、この遺跡の攻略に本腰を入れたのだろう。間違いなく総力戦になるな)
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