4話 神竜ゼノンの試練
俺はメシアに案内されるまま、地底洞窟の奥深くまでやって来た。その奥深くにあるのは神竜ゼノンの神殿、通称【ゼノンの祠】、神話でもゼノンの魂が祀られた場所として書かれている。
俺も神話で聞いたことがある。その昔、地上の七大陸全てを支配したという神竜ゼノン、そのゼノンの力を継いだ人間の戦士を【竜騎士】と呼び、神話においても最強の戦士として知られる。
だが現在の世界では【竜騎士】と呼ばれる戦士は存在しない。というのも、【竜騎士】になるには、『ゼノンの祠』に行き、そこで『神竜の試練』を受けることが条件になるからだ。
その肝心かなめの『ゼノンの祠』がどこにあるかがわからない。世界中の考古学者、冒険家が何度となく調査したが誰一人見つけられない。なんでもその昔、【竜騎士】の存在を忌み嫌った魔法師達により地底奥深くに封印された、ということなのだ。
しかし俺達がいるのは、その『ゼノンの祠』に直結している地底洞窟、つまり奥深くまで進めばいずれ辿り着けるようになっている。
これは偶然ではなかった。実はラティア火山に最近目撃の報告があった魔竜、もちろんメシアのことだが、実は俺達人間がこの地に住み着く前、なんと数百年も前から住んでいたのだ。
その最大の理由は、『ゼノンの祠』に直結する地底洞窟があるにほかならない。つまり、メシアはその地底洞窟に侵入する人間がいないかどうか監視していた。
その監視と言うのも、本来は人間の姿で行うようにしていた。だから、本来ラティアの都市の人間にも気づかれることはない。
そうなると不可解な点がある。なぜラティアの都市から魔竜の目撃情報があったのか。確かに都市に訪れた際にも、人々の表情に不安な色はあまり見られなかった。現地住民と極力会話をしないよう命じられていたのも、こう考えたら納得できる。
メシアが言うには、恐らくラティアの都市の中にニコラスと共謀している連中がいるとのこと。つまり奴らの目的は最初から卵を奪うことにあった。観光産業に打撃があるからという理由で、魔竜を討伐するのは建前に過ぎない。どこまで腐っているんだ、軍の連中は。
と、ここまでの説明が『ゼノンの祠』の前まで着くまでにメシアから聞かされた内容だ。俺自身もそんなに頭がよくなく、今いち納得がいかない。
兎にも角にも俺は『ゼノンの祠』に辿り着き、そこから『竜神界』へ旅立った。メシアは静かに見守っていたが、俺が試練を追えるのはこっちの世界で一日後らしい。
10年間の試練は正直あっという間だった。来た当初は本当に俺に達成できるのかどうか不安だったが、終わってみれば本当にあっという間だ。神竜ゼノンも俺が予想した通り、まさに神の竜と言うべき姿そのものだったし、試練というのも過酷そのものだった。
死にかけたことも何度もある。その旅にゼノンが回復魔法を俺にかけ、休ませず戦いを強要する。それの繰り返しだった。来る日も来る日も戦い続けた。
試練が終わる10年目、ようやくゼノンに一矢報いるようにもなった。そこまで成長した俺を見て、ゼノンは一言「もう君に教えることはなにもない、よく頑張ったよ」とだけ告げて、その場から消えた。
そして【竜装の授与】という儀式を行い、俺は全身【竜騎士】の鎧を身に着け、ゼノンが愛用していた武器を数種類頂戴した。
この10年間ゼノンとゼノンが召喚した魔物以外と戦ってもいないので、自分がどれだけ成長したかはわからない。ただ一つ言えることは、10年目でようやくゼノンの動きが読めるようになったこと。そしてゼノンの魔法攻撃にも耐え抜くことができるようにもなった。
もちろんそれは10年間も戦い続けているだけだと思う。同じ相手と10年戦い続けたら、そりゃいつかは勝てるだろという単純な理屈だ。ゼノンは言っていた、「私に勝てるようになれば、地上の人間など恐るるに足らぬよ」と。
勝てたことは一度もないが、それでも自分の成長は実感できた。身に着けた【竜騎士】の鎧と武器は決して飾りではない。俺の真の実力その物を語ってくれることは間違いない。
【竜騎士】になった俺は、ゼノンから「メシアのこと、よろしくな」と告げられ、淡い光とともに現実世界へ舞い戻った。10年間という月日が経過しているはずだったが、神殿内の様子は本当に何も変わっていない。確かにそれほど時間は経過していないようだ。
現実世界では、ほんの一日前までただの二等兵に過ぎなかった俺が、【竜騎士】の姿で戻ってきた俺を見てメシアはどう思うだろうか。そんなことを考えながら、俺は神殿の外へ足を踏み出す。
「ただいま、メシア!」
俺は高らかに声を上げた。しかしそこに本来いるはずのメシアは、どこにもいなかった。
10年前のことだが、確かに俺は覚えている。「試練が終わるまでちゃんとここで待ってろよ」という一言をメシアに告げたことを。
メシアにとっては、一日前のことだから忘れているわけがないわけだが。だが、それは俺の思い込みだけかもしれない。
「まさか……本当に10年も?」
経過しているのだろうか。確かに神殿内は特に変わりはなかったが、よく考えたらこんな場所に人など来るわけがない。だから誰からも荒らされようがないはず。それにここは地底洞窟の奥深く、猶更変化など起こりようがない。
そう考えたら、本当に10年も経っていてもおかしくない。
あのメシアが嘘をついたのか?
一瞬そんな思考も過った。兎にも角にもここにいても仕方ない。そう判断した俺は、洞窟を抜けようと歩みだした。
しかしその時だった。修行中に身に着けたスキル【気配探知】が早くも反応する。かなり強い魔物の類が近くにいる。左前方にある巨大な落石の影から感じた。
「……何でこんな場所に? しかしこの気配、只者じゃないな」
その直後、岩陰から黒い影が飛び出した。やはり案の定魔物はいた。いや、違った。正確にはそいつは魔物じゃなかった。
「なに、まさか……?」
人間だ。細い手足、透き通るような白い肌、長い茶髪で目は隠れているが、間違いなく女性だ。服装は全身簡素な茶色い布、頭にはこれまた同じく茶色のフードを被っていて、構えている武器は短剣のみ。
一体全体なんでこんな場所に女性がいるんだ?
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