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36話 底冷えの鍾乳洞地下

 潜水艇から降りた俺達は、目の前に広がる大空洞の巨大さに圧倒される。


「どひぇええ! 親方、こんなに広い鍾乳洞は初めて見ますぜ!」

「紫色の鉱石が付着した岩がある。間違いねぇこいつはマロトリス鉱石だ」

「マロトリス鉱石?」

「昔はここから鉄鉱石が大量に採掘できたんすよ。『マロトリス島』の島の名前にもなっているし、『マロトリス王朝』の文明の礎にもなったってわけっす」


 隣にいたホークが丁寧な解説をする。意外な見聞があるんだな。


「あんた、意外と物知りだな」

「へへ、こう見えても盗賊団『ドラゴン・ドリーマーズ』一の情報屋っすからね。まぁ、これくらいしか取柄ないけど」

「ど、『ドラゴン・ドリーマーズ』?」

「あ、そういえば言ってなかったすね。俺達盗賊団の呼び名っすよ!」


 初めて聞く名前だな。というか、よく考えたらウォード達はあくまで盗賊団ということだけはわかっていたが、まさかそんな御大層な名前まであったとは、思いもよらなかった。


「ここにあるマロトリス鉱石を売りさばくだけでも、金になりそうですが……」

「おいおい、こんな安物に目をくれるなよ。俺達の獲物は、まだ先にあるんだぜ」

「うぅ、さ、寒い……」


 脇でリデルが寒がっているのか、ガタガタと震えているのを見た。


「大丈夫か?」

「へ、平気。っていうか、ここ寒くない?」


 確かにその通りだ。全員吐く息が白くなってる。俺ですら寒気を感じる。


「無理もねぇ、ここは鍾乳洞の奥底だ。恐らく外はまだ日が昇っているだろうが、そもそも地上から隔離されているから、気温も上がるわけねぇんだよな」

「だよね。うぅー、こんなことならもっと厚着してくりゃよかった……」

「リデル、それもあるだろうが、恐らく相当魔力を使っただろ?」

「え? だ、大丈夫よ。私は大魔法師よ、これくらいどうってこと……」


 相当に強がっているな。彼女は強引に立ち上がって、姿勢を正したが、若干ふらついた。体は嘘をつかない。


 潜水艇で『ラティア』から『マロトリス島』まで、本当にリデルはよくやってくれた。だが、もちろん帰りもある。ここで彼女を必死に守らねば、男がすたる。


「へ、平気……だから」

「無理をするな、俺に任せろ」

「え? ランディ……」


 体が冷えているなら、俺の竜気が役に立つ。俺は彼女の体に触れ、竜気をリデルの全身に薄く張り巡らした。そしてその竜気の膜に大量の熱エネルギーを流し込む。


「な、なにしたの?」

「熱の衣を作り出した。これで寒さは凌げる」

「本当だ、暖かい……一体どうなってんの?」


 魔法師のリデルですら俺の能力に驚く。当然魔気ではなく竜気だから、魔法師のリデルにもさっぱりわからないだろう。これは俺が竜気で作り出した、熱量を閉じ込めた衣。


 本来竜気は魔気と相殺し、打ち消す作用を働く。だが、今回のように竜気を別の熱の力に変換させれば別。俺は勝手に【竜熱服】と呼んでいるが、要は竜気を熱量にし薄い膜で閉じ込めた作った衣、ということだ。これなら魔法師の魔気とも打ち消されず、リデルは熱の恩恵だけ受ける。


 もちろんこれも竜神界で授かった知識、ゼノンから教わった知識に無駄はないのかもしれない。元々は極寒の地対策で習得したのだが、地上で初めて使用したのが女性になるとは予想外だったな。


「あ、ありがとう、ランディ!」

「礼などいい。これまで操縦してきたのは、あんただろ?」

「はは、ランディさん。どんな原理かわからねぇが、本当に感謝するぜ」


 リデルは立ち上がった。どうやら照れくささを隠さない。あまり人に親切にされる経験が少ないのかな。俺も少し気まずくなった。


 するとそこにアマンダが、もう一隻の潜水艇から降りてきた。


「あぁ、アマンダさん! やっぱりそっちに乗っていたんだな。だが本当に無事でよかった!」


 そういやウォード達はアマンダの声を聞いていなかったな。だが何より、本当に俺もこの目でアマンダの姿を見てほっとした。


「あれ、オリバーは? 一緒じゃないの?」


 潜水艇から降りてきたのは、なんとアマンダだけだった。見ると、オリバーの姿はどこにもいない。まさか。


「まさか、俺達より先に?」

「安心しろ。寝ているだけだ」

「へ? 寝ているって?」

「さっきのバラエノプテラとの戦闘で、思いもよらぬほど力を使っていたらしい。回復させるために、休息している」


 その説明に納得がいくようないかないような。なんというか、あのオリバーらしくない。


 確かにバラエノプテラはかなりの強敵だった。あのオリバーですら、吹き飛ばされたんだからな。しかしよく考えてみれば、オリバーはあのバラエノプテラから攻撃は受けていない。


 もちろん全く疲れていないというわけはないだろうが、それにしては到着直後にする行動としてはどうだろうか。


「親分、ちょうどいいや。ここは俺達もちょっと休憩したほうが……」

「何言ってやがる、帝国軍が来ているんだぞ! このままじゃ先を越される」

「そりゃ、気持ちはわかりますけども……スライムとの戦闘とか、いろいろあったじゃないすか」


 ウォードは【重戦士】だから大丈夫だろうが、特にこれといった大した戦闘力も持たない部下達にはやはり荷が重いんだろうな。


「ウォードよ。彼の言う通りだ、少し休んでからでもいいだろう」

「おい、アマンダさんも何言って……?」


 その直後、ウォードはそれ以上アマンダに反論することができなかった。なんと、アマンダが右手を前に差し出すと、突然灰色の魔法陣が出現した。そして、その直後、ウォードとリデル、そしてホークを含めた盗賊団達が次々と地面に倒れていった。


 俺は何が起きたのか、さっぱりわからなかった。


「お、おい……アマンダ、一体何をしたんだ?」

「やはりランディ、お前には無効だったな。強力な睡眠波を送ったんだが……」

「はぁ? 睡眠波だと、どういうことだ?」


 一瞬アマンダが何を言っているのか、わからなかった。睡眠波、それは睡眠魔法を発動したときに、手先の魔法陣から発せられる人間の脳に作用し睡魔を誘発させる波動だ。


 アマンダが送った魔法陣は、よほど強力なものだったらしい。さっきまで血気盛んだったウォードが、嘘のように眠りについている。


「彼らは魔法耐性が低いから楽だ。唯一リデルは例外だと思ったが、相当力を使ったのだろうな。この程度で眠ってしまうとは……」

「おい、アマンダ説明しろ! 何で彼らを……」

「さっきも話したろ。道案内はここまでだと……」

「一体どういうことだ?」

「ふぅ、全く目的を忘れるな。この島に来れればそれでよい、遺跡までのルートは私が知っているからな」

「……つまり用が済んだら、お払い箱ってわけか。それでも戦力は多い方がいいんじゃないか?」

「別に彼らの助力を請うまでもない。ここからは我々二人で十分だ。人数が少ない方が目立たないし、足手まといにもなる」


 アマンダの言う分にも一理はある。確かに俺達は『マロトリス島』へ行く手段がなかった。俺もすっかり忘れていたが、盗賊団が用意した潜水艇に乗せてもらって解決できた。


 しかしウォード達はともかく、もう一人強力な戦士がいたはずだ。

第36話ご覧いただきありがとうございます。


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