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35話 マロトリスの大地へ

 その言葉に思わず俺達は閉口する。ウォードは溜まらず聞き返した。


「行き止まりだと、どういうことだ?」

「そのままの意味よ。前方に巨大な壁があるだけで、どこにも浮上できそうな場所がないわ!」

「何だって、これじゃ話が違うぞ!」


 地下水路を抜けた先はさっきウォードに見せてもらった地図通りなら、『マロトリスの大魔窟』になっているはずだ。念のためウォードに確認するか。


「なぁ、ウォードさん。さっきの地図なんだが……」

「……」

「ん、どうしたんだ。ウォードさん?」


 ウォードが黙っている。そしてずっとケヴィンの方を見つめている。なるほど、そういうことか。俺もその意図を察した。


「な、なんだよ、あんた。さっきからジロジロ見て……」

「てめぇ、やっぱり帝国のスパイだったのか!?」

「まさかウォードさん、その地図は……」

「くそっ! 一杯食わされたぜ、スパイを潜り込ませるだけじゃなく、俺達に偽の地図まで持たせるなんてよ!」

「はぁ、偽の地図? マジですか親方!?」


 地図通りなら、俺達はとっくに『マロトリスの大魔窟』に辿り着いているはずだ。やはり偽の地図だったのか。


 こうなると引き返すしかないが、気になるのは帝国軍の動きだ。さっきのアマンダとの会話でニコラスもこの島に来ている。恐らくだが、もう遺跡に向かっているだろう。となると、グズグズするわけにはいかない。


 そして最も憂慮すべきはリデルの魔力だ。実はさっき彼女の顔色には疲労の色が見えていた。ここまでかなりの距離航行したからな。魔力補給薬の備蓄も残り少ないから、彼女に無理な負担をさせるわけにはいかない。


 となれば、俺だけでも水竜形態になって。


 しかしここでアマンダが俺の心の動きを読んでいたかのように、思念で話しかけて来た。


(ランディ、どうやら困っているようだな)

(アマンダか。ちょうどいい、俺が今から水竜形態になって、壁を【飛竜地斬】で破壊する)

(ランディ、はやまるな。お前の究極奥義をこんな場所で使わせるわけにはいかない。力は温存せねば。魚雷があるだろ?)

(馬鹿な? リデルの魔力は無限じゃないんだぞ。さすがにこれ以上無理なお願いはできない)

(魚雷は魔力さえあれば、誰でも発射できる。こっちには操舵手がまだいるからな)

(あっ、そうか)


 そうだった、忘れていた。アマンダの乗っている潜水艇には、操舵手がいるんだ。その操舵手に魚雷を発射させればいいわけだ。


(その操舵手で威力はどれだけ出る?)

(安心しろ。足りない分は私で補う)


 アマンダの作戦はかなり強引だが、今はそれが最善のようだな。とにかく、今の会話の内容を簡単に皆に伝えるか。


「みんな、ちょっと聞いてくれないか? アマンダと話したんだが……」

「あぁ、そういえば言ってたな。アマンダとオリバーは、もう一隻の潜水艇に乗っているのか?」

「っていうか、どうやってアマンダと会話してるんだ?」


 そういえば話していなかった。話しても、思念で会話していると言っても理解されくにいだろう。しかし、ここで誤魔化せる自信がない俺は正直に話すことにした。


「実はな、俺とアマンダは特殊な魔法を使って、思念で会話できるんだ」

「あぁ、なるほど。【思念会話】って奴か、驚いたな。あんたまで使えるとは……」


 何とか誤魔化せたな。それよりももう一隻の潜水艇の魚雷で、この際どい状況を打破できるかもしれないから、速攻で戻ってリデルにも報告しよう。


 だがその前に片付けなければいけない問題もある。


「親方、ケヴィンはどうします?」

「ケヴィン、恨むなよ。しばらく、おとなしくしてもらうぜ」





 ケヴィンは潜水艇の寝室に鍵をかけて、監視することにした。とっくに洗脳魔法は解けているのだが、やはり疑い深いのは盗賊団だからか、仲間達は警戒心を緩めない。


 そしてアマンダとの会話の内容を簡潔に伝えたが、ウォード達は顔色を変えた。


「そりゃ、願ってもねぇ。本当に魚雷で破壊できるなら……」

「はは、いろいろあったけど、潜水艇が二隻も手に入って、ある意味嬉しい誤算ですね」

「そうだな。これで戦力的には問題ねぇ! 鬼でも蛇でも出てきやがれ!」

「二人とも、喜ぶのはまだ早いよ。行き止まりってことに変わりないんだから……」

「そうだな。あとはアマンダ達が期待に応えてくれるか……」


 だがその心配は杞憂だった。直後、目の前の潜水艇の底から、巨大な鉄の塊が射出された。それを見たリデルは思わず驚愕する。


「あれは魚雷? なんて魔力の量なの!」

「へぇ、リデルにはわかるのか?」

「当たり前でしょ、私魔法師よ! あの量は尋常じゃない、まさかその操舵手に負けるだなんて……」


 いや、違うなこれは。確かに目の前の潜水艇の操舵手の魔力量は半端ないだろうが、リデルとほぼ互角なんじゃないだろうか。


 さっきアマンダが言っていた通り、足りない分を補給したようだ。どういった方法か知らないが、それなら納得がいく。【竜騎士】である俺には、魔力量は感知できないが、それでもリデルが驚愕するくらいだから、威力は折り紙付きだろうな。


 そしてその威力の高さは証明された。


 壁に衝突した魚雷は大爆発し、潜水艇を大きく揺らした。爆発とともに生じた煙が消えゆくと、巨大な穴がくっきりと現れた。


「た、たまげたなぁ……」

「悔しいけど、なんて威力なのよ……」

「これなら、問題ないな」


 発射された魚雷は、俺達の潜水艇が通れるくらいの洞穴を作り出した。というより壁自体が薄かったのか、その先にもかなり深い洞穴が広がっている。


「よぉし! じゃあ、あの穴の中に突っ込むよ!」

「言われなくても!」

「いろいろあったが、今度こそ本当に魔窟へ辿り着けるな」


 先頭のアマンダ達が乗った潜水艇も穴へ入り込む。続いて、俺達の潜水艇も侵入する。しかしここでウォードがあることに気が付いた。


「あれ、この先も海の中か?」

「そのようだけど……あぁもしかして?」

「まさか、この洞窟もどこかで海に出るのか?」

「そういや地図によれば、この先にも点線が続いているな」


 ウォードがまた地図を取り出して確認する。俺達が今進んでいる地下水路は、『マロトリスの大魔窟』のちょうど真下あたりに位置するに違いない。


 しかしその北側に、別の蛇行した点線が島の北側まで伸びている。俺達がさっきまでいたであろう地下水路とは繋がっていないようだ。地図とは少し違うが、今俺達が進んでいるのは北側の地下水路のようだな。


 まぁ今はそんなことはどうでもいいか。とにかく今はその『マロトリスの大魔窟』に辿り着くこと、それが先決だ。


「ウォードさん、『マロトリスの大魔窟』ってどんな魔物が出るんだ?」

「一応情報じゃ、ソードリザードやサハギン、あとウェアウルフあたりだと聞いているが」

「どれもこれもランクBかCの魔物じゃないか。」

「そうだな。だが、大魔窟の周囲は大森林に囲まれている。大森林に生息する強い魔物が出現してもおかしくねぇ」

「確かに、そうだな」

「あ、見て! 噂をすればだよ!」


 それまで岩肌が無情に続いでいた天井の壁だったが、突然切れ目に差し掛かった。なんと見上げると、水面は遥か上方にまで広がっており、下を見ればそれまで見えなかった水路の地面の岩肌が見始めた。


「ようやく、着いたな!」

「浮上するよ、みんな捕まってね!」


 アマンダの潜水艇も同様に浮上を始める。揺れながらも潜水艇がようやく海面から姿を現し、前方には巨大な鍾乳洞の空間が広がっていた。ここは地下にまで広がっていた大空洞のようだ。


 ようやくマロトリス島の地面を踏むことができる。俺は念のため【気配探知】スキルを展開する。


 この魔窟には、俺達とアマンダの潜水艇の帝国軍以外の気配はない。もちろんニコラスやヒースの気配も感じない。まだ到着していないか、それとも既に先回りされたか。


 正直いてもたってもいられない気分だ。俺は早速アマンダと話す。


(アマンダ、聞こえるか? こっちは準備万端だ。急いで遺跡に向かうぞ!)

(残念だが、ランディ。道案内はここまでだ。我々は別ルートで遺跡に向かう)


 なんとアマンダから予想外な答えが帰ってきた。一体彼女は何を言い出すんだ?


(別ルートって、それはどういう……?)

(とにかく外に出ろ、話はそれからだ)

第35話ご覧いただきありがとうございます。


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