34話 帝国のスパイ②
「おい、あのケヴィンって奴……」
「ケヴィン、てめぇこれは一体何の真似だ!?」
「親方、駄目だ! こいつに何言ってもまるで言うこと聞かねぇ!」
「っていうか、明らかにこいつ正気じゃないんすよ! 動力室ごと爆発させるつもりだ!」
「殺す! 殺す! 全員皆殺しだ!!」
「くっ!! 駄目だ、本当におかしくなっちまってる!
ケヴィンの背後には、赤々とした光を隙間から発するタンクがある。その内部にあるのは発熱機だが、彼の持った爆弾はまさに船を沈めるのにうってつけだ。一体どうするべきか。
「……お前達のせいだ。お前達があのスライムさえ倒さなければ……こんなことには……」
ケヴィンは発狂しながら、わけのわからないことを言っている。しかし、その言葉でウォード達もハッと気が付く。
「何だって!? じゃあ、あのスライムを放したのは?」
「ケヴィン、てめぇなんてことしてくれるんだ!」
「仲間になった時から怪しいとは思っていたがな、自分がしでかしたことわかってるのか!?」
「どうすりゃいい、ランディさん?」
「どうするって言われても……」
困ったな。これは対処に困る。別に戦い自体は特に苦戦は強いられない相手だ。
しかし相手は片手に爆弾を持っている。下手に攻撃すれば爆発される。俺も二等兵時代に何度か見たことあるが、あれは魔法師が精製した魔力起動型爆弾、恐らく少しでも魔力を込めたら、爆発する仕掛けになっているだろう。となれば、対処する方法は一つ。
「あの爆弾を破壊するしかないが……」
「ど、どうやって……?」
「動くんじゃねぇって言ったろ! 少しでも動いてみろ、この爆弾を後ろのタンクに放り込む!」
まずいな。相手はこちらの僅かな動きでも見逃さないつもりだ。俺はあの爆弾に竜気弾を撃ち込んで消滅させるつもりだったが、ちょうど俺がケヴィンのほぼ真正面に位置したせいで、俺の動きが筒抜けだ。となると、どうにもできないか。
【竜騎士】になってこれまで何度か魔物と戦闘してきたが、まさかこんな非力な相手に苦戦を強いられるとは。
(待てよ?)
俺はここで閃いた。さっきのアマンダとの会話を思い出し、同じ手法を使えばなんとかなりそうだ。
ケヴィンは恐らく魔法師の特殊な洗脳魔法で操られている。となれば、その効果を打ち消してやればいいわけだ。竜騎士の【威圧】で。
「みんな、下がっていてくれ! 俺に任せろ」
「ら、ランディさん? あんたにどうにかできるような状況でも……」
「無茶ですよ! アイツを倒せても、問題なのはあの爆弾……」
「大丈夫だ。俺に考えがある」
俺はケヴィンに近づいた。ケヴィンも俺の顔をまじまじと見た。やはり俺のことはかなり警戒していたようだ。
「てめぇだな。スライムを倒したのは、全くとんでもねぇ化け物だぜ。おかげで計画は大幅に狂った、こんな爆弾使わせるなんてよぉ」
「お前も、辛いだろう。死は怖くないのか?」
「そんなもんとっくに捨てたよ。今の俺は命令を忠実に執行するのみ!」
どうやらかなり強力な洗脳魔法らしいな。並の魔法師では、この洗脳魔法を解くことはできない、恐らくリデルでも。やはりヒースが絡んでいるな。
だがそうなると、なおさら【竜騎士】の力が役に立つ。俺はケヴィンの顔をじっと見つめ続けた。
「な、なんだてめぇ!? じろじろ見やがって…………ん?」
俺は全身の竜気を目力に集中させる。その俺の瞳を見つめたケヴィンは、徐々にだがその顔色を恐怖に染めていった。奴も視認したのだろう、俺の背後にある巨大な竜の影を。
「なんだ? ケヴィンの奴、震え始めたぞ」
「おい、ランディさん。一体アイツはどうなってんだ?」
「さぁ、俺にもわからないな」
話しても理解してはくれまいから、適当に誤魔化そう。今のケヴィンの目には、俺の背後に間違いなく竜の影が映っている。もちろんウォード達には何も見えない。これは俺の瞳を見て、その竜気を介することで、要やく他人にも見えてしまうようになっているのだ。
ケヴィンはガタガタと震えが止まらなくなり、完全に怖気づいた。そして身動きが完全に取れなくなったのか、ケヴィンは片手に持っていた爆弾を手から離した。地面に落下する手前を見計らい、俺は竜気弾を放って消滅させた。
「や、やった。ランディさん、あんた……」
「何が何だがさっぱりわからんが、とにかく感謝するぜ」
一件落着だ。【威圧】スキルがこんな形で役に立つとは、思いもよらなかった。洗脳魔法は魔法師が仕掛けた魔法、もちろん夥しい量の魔気に彼は包まれていたようだが、やはり俺の竜気の前じゃ無力だ。
スライムとの戦い同様、打ち消してしまえば、洗脳も同時に解ける。逆にケヴィンは俺の凄まじい竜気の圧に屈服してしまったというわけだ。
「おい、ケヴィン? 大丈夫か、しっかりしろ?」
これ以上ケヴィンを抑えつけておく必要はないな。
「……え? あれ、ここは一体……どこ?」
「おい、ケヴィン。てめぇ、自分がやったことわかってるよなぁ……?」
「ん? なんだ、あんたらは? ここはどこだ。俺は……一体……?」
「てめぇ、何わけわかんねぇこと言ってやがる!? ふざけるのもいい加減にしろよ!」
どうやらケヴィンは何も覚えていないらしい。ウォードは思わずケヴィンの胸倉を掴んで、尋問する。目の前に筋肉隆々の巨体が、胸倉掴んで尋問してきたら、普通の人間は正気じゃいられないぞ。ここはちゃんと状況を説明するしかないか。
「おいおい、ウォードさん。落ち着いてくれ、彼は操られていただけだ。恐らく洗脳魔法だ」
「操られていた? どういうことだ、こいつはそもそも……」
「いや、親方。こいつ仲間になった時から、なんか挙動がおかしかったっす。俺達も不審に思ってて……」
「なんだと!? そんな大事なこと何で黙っていやがった?」
「まぁ、そうなんすけど。ちょっと変わった奴だなって思ってただけで」
「いたた……あ、あの……どうでもいいけど……頼むから、手をはなして……」
ケヴィンが苦しそうだ。俺はウォードをなんとか説得して、ケヴィンから手を放させた。
とにかくケヴィンには悪いが、事情を説明してもらう義務がある。一体彼と帝国とはどんな繋がりがあるのか。誰に操られていたのか、その全てをな。
が、それを説明してもらう時間もなさそうだった。
「ウォード、聞こえる!? ちょっとこっちに来て!」
「なんだ、どうした!?」
「い、行き止まりなの……」
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