29話 巨大スライム爆発!
周りにいた部下達は次から次へ、ホークの二の舞になり、ウォードもかろうじて躱しているが、やはり【重戦士】であるためか、徐々に疲れが出てきた。回避に関してはそこまで優れていないのが、【重戦士】の弱点だ。
「くそぉ、今からでも遅くねぇ! リデルを呼んでくるぜ、お前らそれまで辛抱しろ!」
ウォードが遂に意を決した発言をする。確かにあのスライムを倒すには、それしか方法がないようにも思える。だが俺がいることも忘れないでほしいな。
「ウォードさん、残念だがその提案は却下だ」
「な、何言ってやがる? アイツに炎攻撃なしでどうやって対抗すんだ?」
「……別に炎攻撃だけが弱点ってわけじゃない」
「なんだと、ランディさん? というかさっきの巨獣との戦いの直後じゃないか、まだ戦えるのか?」
「さっきも言ったろ、心配無用だって。俺のことを疑っているのか?」
「いや、そんなことはねぇが……」
「ら、ランディさん。本当に勝てんのか?」
ウォード、そしてホークとその他大勢の部下達の熱い視線を感じる。俺の言葉に、一縷の希望を感じているんだな。
俺も何もハッタリで言ってるんじゃない。【竜騎士】である俺には魔法による攻撃は不可能。あくまで竜気を駆使した攻撃だけだ。
だがここでオリバーとの戦いで、用いたのと同じ戦法が有効になる。
俺も竜神界で巨大スライムとの戦闘は何度も重ねた。奴の弱点、そして倒し方全て知り尽くしている。俺は竜剣を鞘から抜き、バラエノプテラ戦と同じように、刀身に竜気を集中させた。
「おい。あんたその剣で攻撃するつもりか?」
「いやいや魔法は? 相手はスライムだぜ?」
「心配すんな、スライムの弱点はあの核だろ?」
「それはそうだが……」
スライムは分厚いぶよぶよとしたゼリー状の液体をした魔物だ。その体の中心部には、うっすらとだが赤黒い核がある。
キングゴーレムやバラエノプテラに埋め込まれた呪核ではない。正真正銘、魔物スライムの核だから破壊すれば間違いなく奴は倒せる。
しかしその核を覆っている分厚い体が厄介だ。半透明だから、やや透けて見えて核の位置までわかるが、普通の威力しか誇らない戦士の武器では、仮に攻撃しても中の核にまで届かない。
スライムの魔法力は実は桁違いに大きい。純粋な魔力量だけなら、それこそランクSの魔法師に匹敵するとも言われている。
もちろんその桁違いな魔力の大半は、そのスライムの防御、すなわち核を防護するゼリー状の体に集中されている。
だからこそ、単なる力任せの武器の攻撃では絶対に核にまで到達しない。ある意味、超高度な金属を【重戦士】が破壊するよりも難易度が高いだろう。
それを打破するには、奴の魔力を打ち消すしかない。俺はわざと、スライムの攻撃が当たりやすい位置に移動し、奴の攻撃を立ち止まってじっと待つ。
「お、おい! そんな場所で止まるなよ」
「ランディさん、何考えてんだ? 正気か?」
俺は確かに正気だ、心配しなくていい。俺は今わざとスライムの注意を引き付けている。そしてスライムも俺を捉えたのか、すかさず体の一部を次から次へ投げ飛ばした。
俺は飛んできたゼリーを全て竜剣の刀身で受け止めた。その刀身はすっかりスライムのゼリーで覆われたが、直後俺は刀身に竜気を溜め込む。
そしてその直後、俺の竜剣からゼリーは花火のように飛び散った。
「な?」
「えぇ、一体どうなって……」
ウォード達は驚く。まぁ、そうだろうな。竜気というのは、普通の戦闘職の人間が見ても何も見えない。だから一見何も魔法が発動していない剣で、スライムの体が弾き飛ばされるのは奇異にしか見えないだろう。
スライムはそれを見て、明らかに反応を変えた。まんまと俺の挑発に乗ってくれたようだ。
そしてスライムは今度は体全体を異様な勢いで震わせ、さらに巨大なバネのようにして、その全身ごとジャンプし、俺に体当たりを仕掛けてきた。
「うわぁあああ、ランディさん!?」
「危ねぇ、避けろ!!」
だが俺は避けるつもりはない。むしろこれを待っていた。
スライムが全体重を俺に乗せ、体全体で俺の体をすっぽり包んだ。ウォードとホークの声も、二人が口を開けているのはわかるが、何を話しているのかはさっぱりわからない。
感覚的には深海を泳いでいる気分だ、息ができないだけでなく凄まじい圧力までかかっている。もちろん普通の戦士なら、こんな攻撃されたら息もできずすぐに窒息死してしまうだろう。そうでなくても、スライムの粘り気の強い液状の体全体で圧迫死されてしまうな。
だがこんな攻撃、俺には全く無意味だった。【竜騎士】である俺の力の源は竜気、スライムの力の源は魔気で魔法師と全く同じ。
オリバーと戦った時と全く同じだ。あの時、奴が放った奥義【鬼神豪破弾】は恐らく【魔槍術師】の究極奥義、恐らくだが奴は槍の矛先に自身の魔気を最大限まで集中させ俺に向って突進していった。
本来この手の魔力を膨大に溜め込んだ射撃攻撃に対しては、それ以上の魔気の量で分厚いバリアを生成し防ぐ、より多い魔気を込めた魔力弾で応戦するのが一般的だ。しかし俺がその時とった戦法は、奴の魔力を打ち消すことだ。
そうでもしないと倉庫だけでなく、潜水艇にも甚大な被害が出ていたに違いないが、なぜそんな芸当ができたのか。
答えは、【竜騎士】の竜気は魔気と相反する性質を持つ。つまり、二つの力は互いに激突すれば、お互いの力を相殺してしまうのだ。
俺がスライムに体全体を包まれたのも、これを狙ってのことだ。今の俺の体の全表面には竜気で包まれている、膨大な量だ。スライムの魔力は必然的に俺の竜気と相殺してしまう。
俺の予想通りスライムの体全体が震え出した。口や顔すらないスライムだが、その震え具合からスライムが恐れおののいているのがわかるようだ。
そして次の瞬間、バァアアアアアアンという強烈な爆発音とともに、スライムは四方八方に爆散した。スライムの体の破片が動力室内のあちこちに零れ落ちる。相殺されたスライムの魔力は必然的にゼロになる、当然スライムはその液状の体を維持することもできなくなってしまうわけだ。
俺の目の前の地面に赤黒い球体が落ちた。まごうことなきスライムの核、俺は剣先から竜気弾を放って破壊した。
どうやらこいつには呪核はなかったらしい。核を破壊されあちこちに散らばったスライムの肉片は、消滅していった。
「もう大丈夫だぞ、みんな! 片付いた」
俺はウォードとホーク、そしてその他の盗賊団達に声を掛けた。盗賊団からは歓喜の声が上がった。
だが全員が喜んでいるのとは対照的に、ウォードは口を開けたまま唖然とした表情で俺を見つめている。
「どうしたんだ、ウォード?」
「あ、あんた……今のは一体?」
何を驚いているのか。最初は俺も一瞬わからなかったが、すぐに悟った。
「あぁ、今の戦い方か?」
「スライムが爆発したぞ! さっきの剣といい、お前さんの体、一体何がどうなって……」
確かに言われてみれば、驚くな。恐らく世界中を探したって、体をスライムに包ませた後でスライムの体を爆発させ、核を剥き出しにした後で破壊するという芸当ができる戦士はいないはずだ。これは説明に苦慮せざるを得ないな。
「へへ、親分。いいじゃないっすか、結果倒せたんだし」
「……まぁ、そうだな」
「そ、それより操舵室行きましょう! リデルの様子も気になるし」
「そうだな。よし、ランディさんよ、あんたも来てくれ!」
ホークさん、うまく誤魔化してくれた。あんたには感謝するよ。
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