28話 動力室に忍び込んだ魔物
「見たところ、どこも異常はないな」
無事に潜水艇に戻ってきた、俺は潜水艇のあちこちを見て回る。デビルシャークが数体ほど船体に直接攻撃を仕掛けていたようだが、内部はビクともしていない。やはり頑丈性は確かだったな。
ある程度船内を見回り、操舵室に戻ろうとした矢先、俺の【気配探知】スキルが敏感に反応した。
「まさか……この気配は!?」
俺の【気配探知】スキルはあろうことか、魔物の気配を察知した。しかも明らかにこの潜水艇内にいる。
一体なぜだ。そしてどこに潜んでいる?
俺が魔物の場所を探っている最中、ウォードが部下を一人引き連れて俺を出迎えてきてくれた。
「おぉ、あんた! もう戻ったのか!?」
ウォードは駆け足で、俺の前まで駆け付けてくれた。俺は仮にも雇われているだけなのに、偉く気に入られたようだ。
「大丈夫だったか? どこにも怪我はねぇか?」
「ありがとうウォード。心配などしなくていい」
「ふぅ、安心したぜ。こっちでも確認したが、あのバラエノプテラが襲ってきたよな、信じられねぇぜ」
「そうだが……そいつも難なく撃退した」
「……一人でか?」
「そうだが……」
「はは、たまげたね。やっぱり、あんたは……」
「親方、そんなことよりあいつを!」
「あ、あぁ。わかってる!」
「あいつ?」
「それは、説明すると長くなるんだが……」
ウォードと部下の顔色が怪しい。何かあったのだろうか。だがさっき艦内を見て回ったところ、どこも襲われていないように見えたが。
「説明するより見てもらった方が早い。とにかく来てくれ!」
ウォードに言われ案内してもらったのは、船の最深部だ。明らかに向かっている先は動力室だ。
そして、魔物の気配が徐々に大きくなっていることに嫌でも気づいた。居場所も判明したが、まさかそこだったなんて。
「どうやら、あんたも気づいたようだな」
「あぁ、全く一難去ってまた一難だな……」
「そういえばよ、アマンダとオリバーはどうしたんだ?」
ウォードに言われて、俺も大事なことを言うのを忘れていた。
「あぁ、そうだった。あの二人は……」
その時だった。ガターンと突然大きな物音が、動力室の方から聞こえてきた。
「な、なんだ?」
「まさか! やっぱりアイツ動くのか?」
ウォードと部下が血相変えて、勢いよく走り出した。
「おいおい、二人とも待てよ!」
全く何も説明も受けていない状態で、こっちは意味不明だってのに。それほど危険のある魔物なのだろうか。
俺の【気配探知】スキルで正確な強さもある程度判明した。恐らく俺の敵ではない。だが、それはあくまで俺にとっての話。
ウォード達にとっては話は別だ。もしかしたら、手が付けられない次元かもしれない。
俺もウォード達に続き、動力室まで辿り着いた。中に入った俺が目にしたものは、あまりに衝撃的だった。
「まさか……こいつは?」
「お、親方! 全然攻撃が通じねぇですぜ!」
「勘弁してくれよ、ここは動力室だぜ! 炎が使えねぇんじゃ、手も足も出ねぇ!」
「ランディ。コイツは俺様が最も苦手な奴だぜ」
俺が目にしたもの、それは巨大なスライムだった。見た目はドロドロの液状の体をした不定形な魔法生命体だ。
「一体どこから侵入してきたんだ?」
「知らねぇ、さっき見回りに行った部下から報告があって、その時には既にここに入ってた。ちょうどあんたらが潜水艇を出て、5分ほど経った頃だ」
なるほど正直わけがわからないな。もしかしたら、既に潜水艇内に入っていたのか。だがそれなら俺達の【気配探知】スキルが逃さない。
「それを考えるより、今はコイツをどうするかだぜ!」
「あぁ、そうだな」
コイツの弱点はハッキリしている。さっきも部下の一人が叫んだ炎だ。スライムは魔法による炎を浴びせれば、弱まりいずれ消し炭と化す。
必勝法がないわけではないが、肝心の炎攻撃が使える張本人が今ここにいないのだ。
「くそ、リデルは潜水艇を動かす大事な役目があるから、離れられねぇってのに!」
「仮に使えても、ウォードさん。ここは動力室だぜ」
「あぁ、そうだったな……」
ウォードもスライムを撃退する方法は熟知しているが、今この場でスライムを炎で攻撃できない理由ははっきりしている。
ウォードと俺が見つめた先の天井にスライムが張り付いていたが、その真下には巨大な直方体のタンクが設置されていた。そのタンクの隙間から、赤々とした光が漏れて見える。
俺も詳しいことまではわからないが、潜水艇の動力源は間違いなく操縦者の魔力。この潜水艇も例外じゃないが、そもそもなぜ魔力を注入しただけで動かせるのか、それは疑問に思うだろう。
答えは簡単。魔力で生み出しているのは、正確には熱エネルギーになる。そしてその熱エネルギーで外部から取り入れた海水を沸騰させ、発生した蒸気で船の後部にある大型のスクリューを回転させることで、潜水艇が移動できるわけだ。
実は目の前のタンクのさらにその内部にある発熱機に、リデルの魔力が蓄積されていて、今も超高温に加熱されている。そしてこの発熱機により、海水を沸騰させているわけだ。赤々とした光が漏れているのは、発熱機が稼働している証拠だ。
当然この発熱機に炎が少しでも触れたらどうなるか、容易に想像できるだろう。炎魔法に限らず、兎に角引火性の強い攻撃手段は厳禁だ。
動力室全体が爆発し、潜水艇は確実に沈む。もちろん俺は水竜形態になれば何も問題ないが、船員達はそういうわけにはいかない。
それ以前に島から帰る手段を失ってしまう。だから今この巨大なスライムを、どう退治するかはっきり言って、針に穴を通すくらい面倒な作業となるのは確実だ。
そして、さらに状況は悪化してしまう。
「おい、ホーク危ねぇ!」
「え?」
よそ見していて油断していたホークに襲い掛かったのは、スライムの体の一部。自由自在に変形できるだけでなく、自らの体の一部を飛ばすことも攻撃の手段だ。ホークに襲い掛かったスライムの一部はやがて、ホークの全身に纏わりつき、ホークを壁に接着させた。
「う……動かねぇ!」
「しっかりしろ、ホーク!」
「ウォードさん、まだ来るぜ!」
俺達がホークの心配をする間もなく、スライムは次から次へ体の一部をボールのように丸め、飛ばしてくる。
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