24話 水竜形態、展開!
「じゃあ、頼んだぜ。この部屋を出て廊下をまっすぐ行いけば、突き当りに梯子がある。そこから降りて、最下層のフロアで目の前にある円形のドアを開けた先が、脱出用ハッチがある部屋だ」
ウォードは丁寧に口頭で部屋までの道のりを教えてくれたが、正直そのままウォードが先導してくれた方が早かった。
しかしウォードには、俺達と協力できない理由があったようだ。
「すまねぇな、俺は仮にも【重戦士】だ。根っからの金槌でな……」
「そうか、だが俺達だけで十分だ。ウォード、リデルのことしっかり頼んだぞ」
「三人ともハッチを開ける前に、必ず排水口も開けておいてね! じゃないと海水が入ったままになっちゃうから」
「アドバイスありがとう、リデル!」
俺とアマンダ、そしてオリバーは三人とも操舵室を出た。ウォードの言われた通りの場所に、確かに円形のドアがある。
強烈な力がないと開けられないバルブ式の扉だ。しかし俺達にかかれば、片手で開けられる。むしろ力を入れすぎて、根元から折れないかどうか心配なくらいだ。
「私に任せろ」
アマンダが率先してバルブを操作する。彼女はバルブに手を触れず、魔法の念力で動かした。なるほど考えたな。
ドアが開いた途端、オリバーが一目散に入って行った。彼は彼なりのこだわりがあるらしい、ハッチを開ける前に俺達に念押しした。
「お前さん方。言っておくが、俺の邪魔はするなよ」
「数的には100匹以上はくだらないぞ。協力しようという気すらないのか?」
「雑魚が何匹集まろうが所詮雑魚だ、そもそも俺一人でも十分だってのに……」
オリバーは俺達まで討伐に加わるのが気に喰わないようだ。
「はいはい、わかったよ。オタクは好きに戦ってな」
何を言ってもどうせ聞かないだろう、オリバーは容赦なくハッチを開けようとした。その前にアマンダが警告する。
「おい、リデルが言ってたこと忘れたのか?」
「……おっと、そうだったな。すまねぇ」
リデルが言っていた排水口のスイッチ、オリバーはそれを押す前にハッチを開けようとした。
これを事前に押しておかないと、ハッチを開け海水が入った後もこの室内に海水が入ったままになる。危うく潜水艇を沈没させてしまうところだったぞ。
「俺だって潜水艇にあまり乗ったことなくてねぇ、設備関係は疎いんだ。悪く思うな」
もちろんオリバーのセリフに俺達も反論はできない。しかしそれにしては、あまりに軽率ではないだろうか。戦いに関してはプロかもしれないが、やはりそれ以外となると、からっきしというタイプかもしれない。
オリバーは壁にでかでかと書かれていた“排水口”の文字が記載された、大きな円形のスイッチを押した。これを押せば、ハッチに水が入った後も、この排水口から海水は排出される。一体どういう仕組みになっているんだろうな。
そして直後、オリバーはハッチをこじ開けた。海水が勢いよく流れ込む。これから海中戦が始まるかと思うと、少し緊張がこみ上げてきた。
「ランディ、確認するが、あのモードは問題ないな?」
「あぁ、大丈夫だ……」
アマンダが海水を浴びる俺に、こっそりと耳打ちする。もちろんアマンダの言うことは理解している。
さっきもウォードから言われた【潜水】スキル、水中での戦いには必須なスキルだ。文字通りこのスキルで深い海中の中でも問題なく泳ぐことができ、水中の敵とも問題なく渡り合える。
しかし、俺には使えなかった。
竜神界の修行でも、とうとう会得することができなかった。そもそも水中での戦いも少なかったから仕方ないが、俺の数少ない心残りの一つ。ほかの戦士が会得できるスキルもほぼ全て会得していたが、この【潜水】スキルだけは例外だ。
子供の頃から泳ぐの大の苦手だったが、ゼノンが言うには何も心配はないということだ。
ではここで問題。【潜水】スキルがない俺が、水中で戦うにはどうすればいいか?
この問題に正解できる人間は、恐らくほぼいないと断言できる。少なくとも俺とアマンダの二人だけが知っている。もちろんオリバーだって知らないはずだ。
ハッチを開けて数分経過、海水はいよいよ俺達の顔まで迫ってきた。さぁ、潜る準備だ。
俺とアマンダ、そしてオリバーも一斉に潜った。アマンダとオリバーはここで【潜水】スキルを発動したみたいで、勢いよく、ハッチから飛び出していった。
それを見た俺は、この機を逃さなかった。俺は心の中である形態をイメージした。
「水竜形態、展開!」
直後、俺の両手両足に魚の鰭のようなものがくっついた。さらに、新たに耳の裏側に出来た魚特有の鰓によって呼吸をすることも問題ない。全く息苦しくないどころか、むしろ心地よくも感じる。
俺の体がどうなったのか、俺自身が不思議に思う。勢いよくハッチから抜け出すと、まるで自分が魚にでも変身したかのように、滑らかな動きができた。
いや魚ではない。これこそ竜騎士のモード変化の一つ水竜形態だ。文字通り海中を自在に動き回る水竜形態に変身することができて、これで【潜水】スキル顔負けの戦い方ができるわけだ。
未だに自分でも驚く、竜神界でもそれほど試していないが、まさかこれほど早く水竜形態で戦うことになるとは思わなかった。
しかしここで問題が一つある。
【潜水】スキルを発動して、潜行中だったアマンダと合流したがオリバーの姿はない。彼は一早くデビルシャークの群れに突貫していた。無論それで構わないが、何よりマズいのは、俺のこの姿を凝視されることだ。
さっきまでの軽装備と違い、今の俺は両手両足に鰭がくっついている。こんな姿を見られたら、ただの【魔剣士】と誤魔化すのも無理がある。
幸い水中だからあまり視界はよくない。ある程度オリバーと距離を話して、奴に気づかれないよう俺も戦いに参加するしかない。
すると早速一匹のデビルシャークが、俺達に襲い掛かってきた。群れから離れ先行して潜水艇に突進してきたのだろう。
デビルシャークは間近で見たら、成人男性を軽く飲み込むほどの巨大な口、そして大人数人が乗るボートと同じくらいの体長を誇る。これまでに幾多の漁師を、その胃袋の中に入れてきたのだろう。その眼光から殺気が嫌というほど滲み出る。
昔の俺なら目の前にこんな化け物が迫られたら、身動き一つすらできなかった。ましてや俺自身も泳ぐのは大の苦手だった。
だが今の俺にそんな恐怖感などない。むしろある種のワクワク感すら漲る。水竜形態になった俺の力、とくと味合わせてやろう。
デビルシャークは巨大な口を大きく開き、突進してきた。俺は竜剣を鞘から抜き、デビルシャークの噛みつき攻撃を難なく躱した。デビルシャークも確実に仕留めたと思ったのか、しばらく俺が避けたことに全く気付かない。
そんな隙だらけの状態で攻撃するのは気が引けるが、相手は魔物だ。俺は容赦なく、デビルシャークのはらわたを横一文字に綺麗に裂いた。俺の目の前が真っ赤に染まる、血の味は好きじゃないんだが。
水中だというのに自分でも驚くほど体がよく動く、両手両足の鰭は飾りではなく水中での動きの自由度を極限まで上げてくれる、さすがは水竜形態だ。正直普通の【竜騎士】なら、ちょっと苦戦してたかもしれない。
そんな俺の様子を見て、アマンダは「油断するなよ」と顔で合図する。言われなくてもわかっているよ。というか、アマンダも人のこと言えないだろ。
そのアマンダの背後から、デビルシャークが静かに迫ってきていた。俺は彼女の後ろを指差したが、アマンダは既に気づいていたようだ。後ろを振りむことなく、右手を後ろに向け攻撃魔法を放ち、そのデビルシャークを難なく仕留めた。さすがは魔竜だ、俺が心配する必要はない。
その後も次から次にデビルシャークの群れは襲い掛かってきた。数的に十体以上はくだらない。どうやら当初の想定以上の数はいたようだ。もちろん何十体来ようが、俺達の敵ではない。
オリバーも遠くで善戦していた。ランクAの【魔槍術士】だから当然だが、気のせいか俺と戦っていた時と比べると、動きにムラがあるように見える。
だが考えればそれも無理もないことだ。なぜならここは水中、【潜水士】という特殊な職に就いている人間ならともかく、本来戦士系の戦闘職は陸上で戦うものだ。
いくら【潜水】スキルが使えるとはいえ、やはり不慣れな水中ということもあって、どうしても本領を発揮できない。あれだけ強気な態度だったのに、あの戦いぶりじゃ情けなくなってくるよ。
といっても、奴は相当前衛に立って戦っているのも事実、奴が取り逃がした相手は俺達が潜水艇の前で仕留める。これなら潜水艇もほぼ無傷でやり過ごせる。
そのはずだった。
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