21話 マロトリス島の秘密
『マロトリス島』に着くまでの暫くの間、俺は船内を適当に散策することにした。しかし船長室、というかリーダー室に明かりが灯っていて気になって入ったが、そこに案の定ウォードが座っていた。
「おうよく来たな、まぁ座ってくれ!」
ウォードは椅子に俺を座らせた。そしてガラス張りの棚から、酒場顔負けの高級感溢れる瓶に入った酒を取り出し、コップ一杯に注いでくれた。
「低度数だが、味は保証するぜ」
「ありがとう」
うん、うまい。俺が二等兵時代に飲んでいた酒よりは間違いなくうまい。だが、ここで俺は一つ気になった。
「あのさ、ここにある酒って……」
「安心してくれ、金で買ったもんだ!」
俺が聞きたいことは予想していたようだ。危うく、俺も盗賊団の本当の仲間入りをするところだった。だが、まだ少し気になる。
「金で買ったと言ったが、その金は……」
「へへ、俺達だってまともな商売もしてるんだよ」
あぁ、そういえば宿を経営してたな。それにリデルも飴細工を売っていた。確かにそれらがまともな商売なら、まだ許容範囲内か。
だがウォードは興味津々な目で俺を見る。
「あんたには、聞きたいことが山ほどあるんだ」
その後はウォードから質問攻めにあった。さっきのオリバーとの戦いの件もそうだが、そしてどうして俺が【魔剣士】になったのか、今までどんな修行を積んできたのか、どうして5万ルペクもの大金を所持しているのか。
ウォードの立場になれば、なるほど確かに聞きたくなるような事柄ばかりだ。ウォードは最初から俺のことを並の戦士でないと見抜いていた。人を見る目は確かにあるようだな。敢えて【魔剣士】として貫き通しているが、どこまで誤魔化せるか。
俺はアマンダほど冴えていない。聞かれた質問にはとにかく適当に誤魔化しぬいた。
特に返答に困ったのは、オリバーとの戦い。あの時、オリバーの放った【鬼神豪破弾】を俺が剣で受け止め奴の魔気を消滅させた。当然並の戦士にできる芸当ではなく、それどころかランクAの【魔剣士】ですら、同じ芸当はできないとまで言われた。
となると、ウォードは俺をランクAの【魔剣士】とはみなさない。
「間違いなく、ランクSなんだろ?」
「……」
俺は何も言えなかった。いや、本当は【竜騎士】だから肯定もできない。【竜騎士】にランクがあるのかどうか、俺は知らないが、そもそも【魔剣士】ですらないのだ。なぜなら【魔剣士】ではオリバーの【鬼神豪破弾】を打ち消す芸当はできない。仮にランクがSでも。
下手に否定したら、怪しまれる。だがそんな俺の事情も、ウォードは斟酌してくれたようだ。
「わかってるよ、ランディさん。言えないってこと……」
「えっ? いや、そんなことは……」
「ははは、無理して肯定なんてできねぇさ。だって世の中本当のランクSの戦士は、自分のことをランクSと素直に肯定したりない」
「そ、そうなのか」
「自分の実力は最後までひた隠しにするってもんさ、それが本当の戦士」
なんかウォードには申し訳ない気持ちになる。自分が正直に【竜騎士】と言えないことが、こんなにももどかしいものか。
いや、何を悩んでいるんだ。
そうだ、言えばいいじゃないか。俺は改めて、どうして自分が【竜騎士】であることを秘匿しなければいけないか考えた。
それは俺達の正体を帝国軍に知られないためだ。そのために、俺は“ランディ”という偽名まで用いている。
だが目の前にいるウォードはどうだ。盗賊団だが、少なくとも帝国の味方ではないことは間違いない。
そういう点では、ウォードは信頼できる。なら打ち明けてもいいじゃないか、俺の正体を。
「……ウォードさん、実は」
「ん? なんだ急に畏まって」
「いや、実は……その……」
「……ははは! なんだよ、そうだったのか。いや俺もすまねぇな!」
「え?」
ウォードは急に笑い出した。だが、その理由は俺が持っていた空のコップにあった。
「俺としたことが、うっかりしてたぜ! 何でもっと早く気づかない、いや本当にすまねぇ!」
「あ、ありがとう」
ウォードは俺のコップに二杯目の酒を注いだ。いつの間にか俺も飲み干していた。別に二杯目はいらなかったんだが。
「おかわりは遠慮なく言ってくれよ、俺達もう仲間なんだからよ!」
仲間、か。ウォードは別に悪気があってそんなことを言ったわけじゃないんだが、あくまで俺達は雇われの身に過ぎない。
だがウォードも酔いが気が大きくなっているのだろう。ここで変に否定したら、逆に彼の気を悪くする。
「へへ、あんたとアマンダさん、そしてオリバー、これだけの戦士が揃ったら、あの島の秘宝はもう……」
「え、秘宝って?」
俺は思わずその言葉に喰いついた。
「今、秘宝って言ったのか?」
「おう、そうだけど……」
「いや、そんなの初耳なんだが。秘宝とは、一体何のことだ?」
「はぁ? なんだ、ランディさん。まさか本当に知らねぇのか、あの島に何があるか?」
「う、実は……そうなんだ」
「本当に……知らねぇのかい?」
ウォードはやや真剣な表情に変わって、また聞き返した。そんなこと言われても、まるでピンと来ない。知っていそうな本人はダンマリだからな。
「そうかい。まぁ話せば長くなるが、あの島には見渡すほどの大森林が広がっていてな」
「大森林?」
「大森林って言っても、ただの森林じゃねぇ。なんでも古代の魔法師が人工的に木々を生い茂らせたんだ。ある物を隠す意図で」
「そのある物が秘宝ってやつか、一体何なんだそれは?」
「正確には秘宝じゃない。いや秘宝もあるが、もっと大事なものもあるという……」
「ど、どういうことだ?」
酔っていたウォードも、これまでにないほどの真剣な顔つきを見せ言った。
「あそこには、『魔竜ゴードンの遺跡』があるのさ……」
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