18話 ランディ対オリバー①
「気が変わった」
「え、なんだ?」
「あんたら二人で6000ルペクだな。俺もやはり3000ルペクの報酬、つまりウォードさん。あんたは合計で、9000ルペクまでなら出せる余裕があるってことだろ?」
「あぁ、そうだが……」
「ふふ、それなら俺に名案がある」
「名案だと?」
「簡単さ、俺とあんたらで勝負をする。俺があんたらに勝ったら、俺に6000ルペク支払ってもらうぞ!」
「な、なんだと!?」
「逆にあんたらが勝ったら、今のままの金額で変更なしだ。別に構わねぇだろ。それでウォードさんの支払う金額は減るわけじゃねぇ」
「確かにそうだが……」
「それに、おたくらの実力も同時に図れるしな」
オリバーの突然の案に俺達も驚く。もちろん筋は通っているが、こんな提案受ける必要あるだろうか。
よく考えたら、俺達はただ『マロトリス島』へ行ければそれだけでいい。報酬が云々と言うのは正直どうでもいいんだ。
もちろん、ウォードが高額な金額を請求してくる可能性もなくはないが、それでもメリットは少ないように感じる。だがアマンダは俺の意に反した返事をした。
「いいだろう、受けて立つ!」
「はぁ、アマンダ?」
「いいではないか、ランディ。彼の言う通り私達、いやお前の実力を試すにはそれしかない」
「だけど……」
「それに……盗賊団に金を支払うのも気が引けるしな」
「ふふ、そうこなくっちゃな」
「ちょ、ちょっと! 勝手に話を進めないでよ、いくらなんでも戦士同士で戦い合うって」
「お嬢ちゃん、あんたは黙ってな。これは戦士のプライドを賭けた話だ」
「戦士のプライドが何よ! 言っておくけど、あなた達貴重な戦力なんだから。ねぇ、ウォードも何か言ってよ」
だがリデルの反論にウォードは釘を刺さない。
「リデル、気持ちはわかるが、確かに奴の言う通りだ。俺達はあの二人の実力がわからねぇ、俺も早計だった」
「そ、そんな……」
「ふふ、ウォードさん。話がわかるじゃねぇか」
「だが、あんたら二人は貴重な戦力になる。間違っても殺すんじゃねぇぞ」
「それはご尤もだが……俺に簡単に殺される程度じゃ、そもそも戦力にならねぇだろ」
そう言いながらオリバーは俺達を鋭く睨む。まぁ確かにそうかもしれない。と言っても、試す相手を間違えているとは、口が裂けても言えないな。
「心配するな、お前ごときに殺されるような男ではない」
「ほう、言うじゃないか」
「逆にお前が私達に殺されないかどうか、心配なくらいだ」
アマンダのその言葉に、思わずオリバーは固まる。もちろん、素直に受け入れる内容じゃない。しばらくして、笑い出した。
「……ふふふ、何というか。おたくら冗談は顔だけにしろよ」
「冗談ではない、そのままの意味だ」
「ふざけるのもいい加減にしろよ! さっきも見せたが、俺はランクAの【魔槍術士】だぞ!」
「それがどうしたと言うんだ? 私達だってお前が実際に戦ったところを見ていないからな、そうだろウォードさん?」
「あぁ、そうだな」
確かにアマンダの言う通りだな。奴は確かにプレートを持っていたが、それ自体証明力はあるものの、単に身分と実績を示すだけに過ぎない。今ここで彼が、本当に実力があるかどうかの証明にはならない。
「……いいだろう。後悔するなよ」
「それはそうと、私達の内どっちと戦うつもりだ?」
「なんだと?」
「どっちと戦うつもりだと聞いたんだ。まさか私達二人まとめて相手するつもりか?」
オリバーは悩んでいるようだ。まさか、本当に俺達二人まとめて相手するつもりだったのか。さすがに実力者とはいえ、無茶があるぞ。
「オリバーさん。本当に一人で二人まとめて相手するの?」
「そうじゃなかったら、こんな提案出したりはしない」
「ふふ、安心しろ。私達とて、二人で相手するつもりはない」
「なんだと?」
「お前の相手はランディだけで十分だ」
「おい、勝手に決めるな」
いきなりアマンダに指名された。まぁ、だが仕方ないか。
今この状況で、逆に俺がオリバーと戦わないでっていうのも気が引ける。本当にあの重い剣を持って戦えるのかの証明も必要だからな。
「一応言っておくが、今『降参』を宣言してもいいぞ」
「おいおい、誰にもの言ってるんだよ」
オリバーは俺に対して槍の刃先を俺に向け、戦闘態勢に入った。中腰で槍を構えたその本格的な体勢から、歴戦の戦士に並ぶほどの風格と気迫が確かに感じられる。そして驚くほど隙が無い。
なるほど、確かにランクAの【魔槍術士】の肩書は嘘じゃないようだ。ウォードも真剣な眼差しでオリバーを見つめている。
するとアマンダはこっそりと俺に耳打ちした。
「ちゃんと、手加減しろよ。出来るだけ互角だと思わせるんだ」
いや難しい注文するな。しかしアマンダの意図はわかっている。一応ランクAの【魔槍術士】だから、その顔に泥を塗ってはまずいと思ったのだろう。
確かに俺がその気になれば、一瞬で決着がつきそうだからな。
そして俺も剣を鞘から抜いて、戦闘態勢に入った。
「どこからでもどうぞ」
オリバーは余裕の表情で俺を挑発する。その余裕はいつまで続くかな。
だがアマンダの言う通りに彼の面目も保たせなければいけない。となると、相手がどれだけの力量かまず図る必要があるな。
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
「なんだと?」
「だから、あんたから攻めてきたらどうだ?」
相手から攻めてもらわねば、俺もどこまで加減すればいいかわからないからな。
オリバーはその言葉を無視できなかったようだ。
「そうか、お前さんそんなに死に急ぎたいのか?」
「いや、死に急ぐつもりはないが……」
「ならば、避けてみろよ!」
その直後、オリバーは一気に俺の間合いまで踏み込んできた。そして強烈な突き攻撃を俺に見せつける。
俺は問題なくその攻撃を開始したが、オリバーは間髪入れず槍で真横に切り払いを入れた。俺はジャンプし、後退して躱す。
「ほほう、身のこなしだけはいいな」
身のこなしがいいと言われたか。正直、今のオリバーの攻撃は俺にとってなんてことはない攻撃だ。これで本当にランクAなのか。修行中に嫌というほど浴びたゼノンの攻撃に比べたら、あくびが出るレベルなんだよ。
あまりに遅すぎて、相手も絶対手加減してると思うな。もう少し挑発してみるか。
「あんた、大分手加減してるね」
「なにぃ?」
「だから、手加減してるって言ったんだ。もっと本気出したらどうだ?」
やはりオリバーは聞き捨てならないようだ。外野で眺めているリデルが凄く不安げな表情を浮かべている、「そんなに怒らせて大丈夫?」って言いたげだな。
「……となると、あんたはよっぽど死に急ぎたいと見た」
あぁ、またその言葉か。だがこれでオリバーはまだ手加減していることが判明した。さぁ、次にどんな攻撃を繰り出すか。
「はぁああああ!!」
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