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14話 ニコラスの昇進

 エイリーク帝国、首都イシュランダの中心部に異様な高さと、広大な面積を誇る物々しい建造物が聳え立つ。


 通称“魔将の巣窟”とも言われている城塞は、エイリーク帝国軍の総本部だ。軍のトップである、レオナルド・ロドリゲス総督のお膝元としても知られている。黒髪のオールバック、威厳のある堀の深い顔立ちで着ていた群青色の軍服によって、彼のオーラを存分に引き立たせていた。


 ロドリゲス総督に面会の許可が許された一人の副将軍が本部を訪れていた。副将軍だけでなく、魔法師と部下数名も引き連れている。総督の部屋の前に立つ見張りの兵士に、身分証と身なりを確認させ部屋の中へ入って行った。


「副将軍ニコラス・トラボルタ、入ります」

「魔法師のヒース・ドルトムントです。お初にお目にかかれて光栄です」


 部屋の大机に座っていたロドリゲス総督は立ち上がり、彼らに近寄り握手を交わす。


「よく来てくれたな、ニコラス。それに君が、帝国随一の実力を誇る魔法師のヒース君か」

「私のことをご存じでいらっしゃいましたか」

「君の名は軍部の間でも高名だよ、知らない方が恥ずかしい」

「それはそれは、大変光栄でございます」

「それよりも、ニコラス。例のものは……」

「ははっ! こちらに」


 ニコラスの背後にいた部下数名が巨大な直方体の金属製の箱を、慎重にテーブルの上に置いた。


 そしてニコラスが合図をし、部下達が箱の蓋を慎重に開ける。


「おお! これは……」

「魔竜メシアの卵でございます」


 箱の中にはガラスの筒で覆われた中に、巨大な楕円形の金色の物体が立っていた。その荘厳な外見に総督も思わず言葉が出てこない。


「何とも美しい。我がエイリーク帝国もこれでさらに安泰だな。ニコラスよ、本当によくやってくれた」

「有り難きお言葉です、総督!」

「それと、ヒース。君の助力にも感謝するよ」

「勿体なきお言葉です、総督!」


 ニコラスとヒースは深々と礼をした。ニコラスは顔を上げるが、どこか物申したげな表情を浮かべている。


「どうした、ニコラスよ。何か質問か?」

「いえ、質問というより、その……」

「おお、そうか! うっかりしていた、私としたことが……」


 ロドリゲスもニコラスの心中を察した。奥にあった棚の一番上の引き出しから、何やら一枚の分厚い用紙を取り出した。そしてその用紙の文章を読み上げる。そして騎士の盾の形をした金色のバッジをニコラスに手渡した。


「ニコラス・トラボルタ、貴公の功績を認め、本日より正将軍に昇格する」


 その瞬間、ニコラスは目を見開き、再び深々と礼をした。


「ははぁっ! 有り難き幸せでございます、総督!」

「本当によくやってくれたよ、改めて礼を言う。だがニコラスよ、今回の任務で一つだけ懸念点があるな……」

「えっ? な、なんのことでしょうか?」


 次に総督から出た言葉は、ニコラスがロドリゲスに知られたくない事実だった。


「エドガー将軍から聞いたが、貴公は今回の任務で大多数の兵士を失ったようだな」

「!!」

「しかも、エドガーが言うには、貴公は二等兵どもを囮にしたそうではないか……」

「い、いえ、そのようなことは……」


 もちろんそれは事実だ。だがニコラスが信じられなかったのは、エドガーがまさかそれ以上の洞察をしていた、ということだ。エドガーの明晰ぶりはニコラスも知っていたが、まさか囮作戦すら看破していたとは想定外だった。


「ふふ、安心しろ、ニコラス。その件、黙認しておいてやる」

「え、そ……総督?」


 ロドリゲスの口から出た言葉は意外な内容だった。思いもよらぬロドリゲスの配慮にニコラスも動揺する。


「エドガーは頭が硬すぎるが、お前は忠実に私の命令に従ってくれる。まさに理想的な部下だ。こんなところでお前を失いたくない……というのは私の独り言だぞ」

「そ、総督! 本当に有難うございます!」


 その言葉をヒースは黙って聞いていた。内心はニコラスを哀れんだ。


(ニコラス、哀れな男よ。ただ利用されていると知らずに。その気になれば、総督はいつでもお前を切り捨てることはつもりだ)


「ニコラス、改めて今日からは正将軍だ。気持ちを改めて、職務を全うしろよ」

「ハハッ! このニコラス。喜んで総督と帝国の発展と栄誉のため、邁進いたします」

「それでは、ニコラス将軍。早速だが、将軍としての初仕事をお前に依頼する」

「え? わ、私にございますか?」

「なんだ、嫌なのか?」

「いえ、そのようなことはございませぬ。で、ですが……まずはエドガー将軍に取次ぎを」


 その言葉にロドリゲスは思わず笑った。どうやらまだニコラスは将軍としての自覚がなかったようだ。


「ふふ、ニコラス。なぜそんな必要がある? お前はもう正将軍なのだぞ」

「あ、そうでした! 失敬いたしました。それでは改めてご命令をお願いいたします」

「お前達にはこれから、帝国最北東部に位置する『マロトリス島』に行ってもらう」

「『マロトリス島』……ですか?」

「そこには……」





 あぁ、よく寝たな。


 【竜騎士】になって初めて一夜を明かした。やや高い宿ということもあって、ウォードが経営していた激安宿に比べたら、ベッドのフカフカ感が最高だった。体力と竜気も問題なく回復している。しかし起きたのも束の間、俺達はゆっくりしている暇はない。


 アマンダが言うには、俺達は次に船に乗らなければいけない。昨晩の内に聞いていたが、次の目的地は遠すぎるな。


 しかも単に遠いだけではない。帝国の首都イシュランダからも遠く離れた、いわば帝国の領域の中で最も端の方に位置する島だ。島の名前は『マロトリス島』、なぜ俺達がそこに行かなければいけないか。


 アマンダは詳しく事情を説明してくれなかった。ただ「ニコラス達が次に姿を現すとしたら、恐らくそこだろう」ということだけしか言わない。


 無論それならそれで問題ない。早いとこ帝国の本拠地に乗り込みたい気分は山々だが、敵の方からわざわざ出向いてくれる上に、その行き先を事前に把握できるなんて素晴らしいじゃないか。


 ニコラス達も俺達がそこに向かっているだろうだなんて、微塵にも思っていないだろう。不意を突ける。もちろんアマンダの言うことが正しければの話だが。


 しかし俺達が船が出ている港に向かうと、雲行きが怪しくなった。


「あれ、何でこんなに人が……」


 少ない。明らかに少なすぎる。俺もここの港に足を踏み入れたのは今回が初めてだが、明らかに都市の中心部とその周辺に比べて、人気がなさすぎる。


 だがその答えは、港の入り口の看板に書かれていた。


『出向禁止措置発令中 支払い済みの船舶代の返金等は本日の日没まで受け付けます』


 何ということか、今ここにいるのは事前に船舶代を支払っていた客が返金のために訪れていただけだ。一体全体、なぜ船の出向が停止されているのだろうか。


「これは誤算だったな……」


 アマンダも予想外な展開だったろう。これじゃ港の関係者に聞くしかないな。


「実は……今日の朝、凶悪な魔物どもが北の海域に出現しているという報告が帝国軍から入ってな」

「凶悪な魔物、今日の朝からですか?」

「俺達も急な報せで驚いたよ。近場でたまたま漁をしていた漁師達も目撃していたらしく、なんでもデビルシャークの群れだってよ」


 デビルシャーク、俺もその言葉に一瞬戦慄を覚えた。海に潜む魔物の代表格、個体のランクはCと低級だが、基本群れで行動するため、ランクBの魔物一体を相手にするよりも苦戦を強いられる。


 俺も昔遭遇したことがある。まだガキの頃だったが、巨大な体もさることながら、成人男性すら簡単に飲み込むような巨大な口、そして無数に生えている剣先のように尖った牙、遠くからだったが恐怖で動けなくなった経験がある。


 そのデビルシャークは度々群れを成して、漁師や客船の脅威となる。昔から“海の脅威”として知られていて、決して珍しいことではないが、アマンダはなぜか不審がる。


「ラティアの件の直後に、これか。もしかしたら……」

「もしかしたらって、一体何が怪しいんだ?」

「ますます、ニコラス達の行先は確定だな。何としてもマロトリスに行かねば!」

「なんでそう言い切れるよ?」


 アマンダは意を決したような強い表情だ。正直俺はすぐにピンと来なかったが、徐々にわかってきた。

第14話ご覧いただきありがとうございます。


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[一言] 主人公、頭の回転が悪い。イライラする。
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