13話 【剣士】と【魔剣士】
しかし俺はしばらくして、二人が驚いた理由を察した。
「あぁ、そうか。この剣は……」
「あんた、何者だ!?」
「何者って?」
突然ウォードが話しかけてきた。しかも「何者」って言ったか今の?
「とぼけても無駄だぜ、その剣を片手で楽々持ててしまうなんてなぁ。最初見た時から、並の戦士じゃないとは思っていたが……」
まずいな、これじゃ俺の正体がバレてしまう。このウォードも人を見る目があるようだ。せっかくアマンダにしつこく忠告されていたのに、これじゃ台無しだ。
「あぁ、その……なんというか……」
俺の浅はかな頭脳じゃ誤魔化しきれない。アマンダなら切り抜けられるだろうが、彼女は何をしてる?
まさかさっきの睡眠薬が効いているのだろうか。それじゃ、魔竜らしくないじゃないか。
だが俺の予想に反して、ウォードからは意外な言葉が飛び出した。
「あんた、【魔剣士】だろ?」
「……え?」
その言葉は俺も聞いたことがある。文字通り剣を扱った戦闘職が【剣士】にあたるわけだが、それよりさらに上に位置する職が【魔剣士】だ。
しかし【魔剣士】は、ただ【剣士】をマスターすればなれる戦闘職でもない。実は、もう一つ【魔法師】としても、それなりの熟練を重ねなければいけない。
つまり【魔剣士】は数ある戦闘職の中でも、一握りの人間しかなれない、この世界では選ばれた戦闘職だ。
「……あぁ、そうだな」
「やっぱりか、俺の目に狂いはなかった」
「嘘でしょ、あなた本当に【魔剣士】?」
残念だがウォードさん、あんたの目に狂いはあるよ。と言っても、【竜騎士】という戦闘職自体、伝説というか神話の中しか知られていないから、言っても信じないだろうが。まぁ俺にとっても【魔剣士】と誤魔化せば、わざわざ正体を明かす必要もない。
だが今の俺は剣が盗まれた身、こんなことをアマンダに知られたらまた叱られる。
「今回のこと大目に見てやるから。もうこれ以上悪事は働くんじゃないぞ」
「あ、あぁ悪かった。つい出来心で……」
「ごめんなさい、珍しそうな剣だったから……」
ウォードは反省しているみたいだ。リデルの方はかなり不満気だな。大方、この剣を盗んで売って大金を得ようと考えてたところだろうが、生憎だがそうはいかない。
選ばれた【竜騎士】だけが装備し扱える竜剣だ。そんじょそこらの騎士の剣とは次元が違うし、何より俺以外の人間が握ったって鞘から抜けない。まぁ彼らも抜こうと試したんだろうな。
「それじゃ俺は眠いからこれで。もう起こしたりするなよ」
「残念だが、ランディ。まだ寝るわけにはいかんぞ」
突如アマンダの声が背後から聞こえた。振り返ると、アマンダが何と小柄な坊主頭を拘束していた。一体何がどうしたっていうんだ。
「あ、アマンダ。一体、そいつは?」
「盗みを働こうとしてな。警戒していたが、案の定だった」
「え? あんたホークじゃない、いつの間に?」
「はは、すまねぇ。ウォードの旦那、へまこいた」
「……なんてこった」
俺は状況を掴み切れない。ウォードとリデルが俺の剣を盗もうとしたのはわかる。そして目の前でアマンダに拘束されているホークという男も、どうやら彼らの仲間らしい。そしてホークについては、アマンダの部屋で盗みを働こうとしていた。つまり3人で盗賊の真似事をしていたわけだ、何というか出来心にしてはあまりに用意周到だ。
ということは、こいつらはもしかして?
「……あんたら、一体何者だ?」
「いや、その……何というか、俺達は……」
「ランディ。私の記憶が正しければ、そのウォードという男は、指名手配犯だ」
「何だって?」
アマンダの口から、信じられない言葉が飛び出す。ウォードは指名手配中の盗賊団の一味のリーダー。そしてその取り巻きが、リデルとホークということだ。
ウォードとリデル、ホークも別に驚いていない。まるで正体がバレたと言わんばかりの表情だ。
何てこった。確かに一泊10ルペクだけの宿なんて話がうますぎると思った、ぼろい宿だったから、何も不審に思わなかった。
というか、ウォードも今は素顔を曝しているが、俺達が受付で会ったときは帽子を目深に被ってた。あれは顔を曝したくなかったからにほかならない。
最初に気づくべきだった。危うく所持金全て盗まれるところだった、アマンダにまた一つ借りが出来たな。
「いや、リデル。黙っててすまん。なんというか、保険でホークも呼んだんだが」
「そうだったの。だけど、その当の本人も捕まって……あぁ、もう最悪!」
「へへ、俺が言うのもなんだが。オタクらの【気配探知】スキルは見事だぜ、俺の【隠密】まで見抜くとはな」
「ホーク、何呑気に誉めてんのよ?」
「いやいや見事だって。この10年間、一度も見抜かれることなかったのによ」
「全くだ。俺達はとんでもない戦士達を相手にしてしまったな」
「アマンダさん、あなたも【魔剣士】なの?」
その質問にアマンダは思わず面食らう。あまりに突拍子もない質問だったが、俺がなぜ彼女がそんな質問したのか簡単に説明した。
「……まぁ、そんなところだ」
アマンダも理解してくれた。確かに【魔剣士】ということにしておけば、俺が【竜騎士】とバレる心配もない。
しかし俺はともかく、アマンダの本当の戦闘職は何だろうか。正体が魔竜だから、戦闘職とかないのだろうか。いずれにせよ、並外れた戦士なのは間違いないが、まぁもしかしたら、彼女こそ本当に【魔剣士】かもしれない。剣の腕前は確かだし。
「……こんなこと言いたくはないが、宿泊代は返してもらおうか」
突然アマンダが変なことを言い出す。俺はその真意が気になった。
「おいおい、アマンダ。何言い出すんだよ?」
「私達の物品を窃盗しようとした盗賊団だぞ。まさか、お前まだここで寝るつもりか?」
「あ、そうか……」
言われてみればアマンダの言う通りだ。俺達は盗賊団が仕切っている宿で、寝泊まりしていた。これじゃ「どうぞ盗んでください」と言っているようなもんだ。
「もし言うこと聞かなかければ……」
「わ、わかったよ、ほら!」
アマンダは鬼のような表情で、剣を向けて言い放つ。ウォードは宿泊代20ルペク分の硬貨をアマンダに渡した。
「お前達のことは見逃してやる。だからこれ以上私達に付きまとうな、もし尾行などしようものなら……」
「わかってるよ。さっさと行ってくれ!」
アマンダは部屋を出ていった。本当にこの宿を後にするつもりだろうか。
「アマンダ、待ってくれよ!」
「別の宿を探す、最悪今日は野宿だな」
「まさか……」
彼女の気持ちもわからなくはないが、この時間に泊めてくれる宿などありそうもないが。
“野宿”という言葉を聞いて、【竜騎士】である俺もへこむ。そりゃ竜神界でもまともなベッドで寝た記憶はない、ほとんど茣蓙の上で寝ていた。
下界に戻ってきて、ようやくふかふかのベッドの上で寝れると思った初日にこれか。正直やってられないな。
「ランディ、安心しろ。私がいい宿を知っている」
「は、何で今更それを?」
「一人50ルペクもかかるがな。それでもいいなら……」
「あぁ、わかったよ」
さっき泊まった宿の5倍か、だが今の所持金からしたら10ルペクだろうが50ルペクだろうが、関係ない。宿代ケチってしまったのが、裏目に出たな。
「そういえば、さっきの奴ら……」
「まだ気にしているのか……」
「いや、何というかリデルって言ったっけ、あの女の子。あんな見た目で盗賊団の一味だなんて、信じられないよな……」
「ランディ、人は見かけによらないと言うだろ」
「まぁそりゃそうだが……」
「なんだ、あの娘のことが気に入ったのか?」
「はぁ? 別にそんな……」
いや図星なんだよな。10年前彼女にナンパしたのはアマンダも知らないだろうが、俺の好みのタイプなんだ。しかし俺の好みなんか話題にしたって仕方ないのは、アマンダも同じだ。
「まぁいい。明日も早いからな、気を取り直して宿に向かうぞ」
「お、おう」
その後、アマンダが案内してくれた宿になんとか泊まることができた。だがアマンダは明日も早いと言っていたが、正直これから俺達が向かうべきところはまだ聞いていない。一体どこに向かうのか、そして何が待ち受けているのか。気になるが、とにかく今日はぐっすり休もう。【竜騎士】と言えども、体力の回復は怠ってはならない。
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