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11話 怪しい二人組

 俺達が辿り着いたのは、こざっぱりとした民宿だ。市中心部にある高級感溢れるホテルとは次元が違う。リデルとは入口の前で別れたが、彼女が言うにはここの宿は、このラティア屈指の安さを誇る。受付の男性は帽子を被っていて、素顔がよく見れなかったが、快く対応してくれた。


 といっても、その安さ通りの質ではあった。まぁ本当に高いホテルは、平気で1000ルペクかかるのがこの世界の怖いところだ。反面この宿の宿泊費用は、たった10ルペクでいいとのこと。逆に安すぎるくらいだ。


 もちろん安いことに越したことはない。ラティアご自慢の温泉はないが、風呂は問題なくある。部屋は狭いが、ベッドは一人用。そして俺達は二人だから、部屋も二人分用意された。


「……まぁ都合よくいかないわな」


 いや、別に都合よく相部屋になってほしいと願っていたわけではない。安っぽい宿だったから、そうなるんじゃないかと思っていたが、アマンダが問答無用で二人分の部屋を用意しろと言ったのだ。それを反対する理由はないからな。


 料金が20ルペクかかるが、元々安い宿だからこれでも端金だ。男二人の旅ならともかく、男女の旅で部屋が別々になるのは、悔やまれる。仮にも俺は男だからな。


 だが悔やんでも仕方ない。ベッドに腰かけた俺は、今日一日の疲れを癒すため、装備を剥がした。


「慎重に置かないとな」


 俺は仮にも【竜騎士】だ。装備している武具と防具は、かなりの重量がある。無造作に置いたら、それこそ宿全体が振動する、アマンダからしつこく注意された。俺にとってはどうってことない重さだが、これが強くなりすぎた弊害だろうな。


 兎にも角にも今日は疲れた。【竜騎士】になっても疲れは溜まるもんだな。いや、想像以上に竜気は消費していたようだ。地下から地上に出る際に【飛竜地斬】を発動させ、古代遺跡でキングゴーレムとの戦いなど、今日一日だけでいろいろあったが、改めて俺は自分自身の強さを実感した。


 間違っても、キングゴーレムなど二等兵時代の俺には到底叶うような相手ではない。ましてや今日戦ったそれは、通常のキングゴーレムと違い強化されていた。だがそんな相手でも、俺は全く苦戦することなく倒せてしまった。


 俺は改めてゼノンに感謝した。いや、ゼノンだけではない。なんといっても俺をあそこまで案内してくれた、アマンダに対してだ。


 あの後聞いた話だと、俺があの時落下した際、アマンダが俺の体を尻尾で支え落下の衝撃を和らげていたようだ。つまり俺が生き残っていたのは、アマンダのおかげなのだ。


 こんなにも人に感謝するのは生まれて初めてかもしれない。親の愛すら知らない俺にとって、アマンダは母親同然の存在か。いや、これはもしかしたら……


 何変なこと考えているんだ。それにアマンダには既に子供がいる。俺が変なこと考えてどうする。ましてやアマンダは人間じゃないんだ。それを忘れるな、俺よ。


 隣の部屋で寝ているであろうアマンダは、俺をどう思っているのか。正直気になる。命の恩人だと考えたら、今度は俺がアマンダを必死で守らなければならない。


 そんなことを考えながら、俺も深々と眠りについた。何か部屋の外で物音がしたような気がしたが、多分鼠でもいるんだろうな。安っぽい宿だから仕方ない。





 グラハムが泊まった部屋の外に、一人の若い女性が立っていた。ドアの隙間に小さい穴が空いており、そこから中の様子を探る。そしてグラハムがベッドの中で寝静まったのを見計らい、彼女は音を立てず下の階へ下りて行った。


 女性は宿の管理室に入り、宿の受付をしていた男性と言葉を交わす。


「二人とも、寝たか?」

「バッチリよ。そうは言っても、睡眠薬入れる必要あった?」

「二人とも見た限りかなりの戦士だ。単に寝落ちしただけじゃ気づかれる」

「はぁ、用心深いこと」

「それよりリデル、お前の目は節穴じゃないだろうな」

「バッチリだって、ウォード。あいつらエリントン出身って言ってたけど、あの剣は間違いなく上等品だね」

「上等品って言える証拠は?」

「なんか、剣の柄の部分かな? 妙な竜の紋章が描かれてたよ」

「それだけじゃ上等かは判断できないな」


 ウォードと言われた金髪で筋肉質の男性は、リデルの言葉に疑いの目を向ける。二人とも、グラハムが携えていた剣の話題でもちきりだ。


「剣のことはあんたに任せるよ。私はこっちがあるからね」

「それは、ポーチか? 穴が空いてるぞ」

「私には関係ないよ。ちょうど上等の布もあることだし……」


 直後リデルはグラハムからもらったポーチに、一枚の布を被せた。そして二つを魔法陣の上に乗せ、彼女が魔法を唱えた。


「これで高級品に早変わりよ」

「じゃあ、行ってくる」

「しっかりね」


 ウォードが部屋の外を出ていった。リデルはただそれを待つだけだが、暇を持て余すわけではない。


 布に掛けた魔法の効果が表れるまで、彼女は鞄から一冊のメモ帳を取り出しそれを眺め続けた。そこには彼女の本業である飴細工の売り上げ金額と売上本数が、毎日記録されていた。


「はぁー、今日の売り上げも駄目駄目。ちっとも景気回復してないじゃん」


 リデルはため息交じりの声を漏らす。いつものことだが、相方のウォードには話せない。


「あの剣に賭けるしかないな。私の見た感じだと3000ルペクくらいの価値はありそう、ウォードへましないでよ」

第11話ご覧いただきありがとうございます。


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