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100話 巨大な山の主

「その時から君は魔法師達に操られるようになったわけか」

「その通りです。今はもう消えましたが、私の胸の中央辺りに奴らは強力な『魔操印』を刻み込みました。とてつもなく強大な魔力の思念で、私はどうすることもできず、ただ彼らの操り人形となっていたのです」

「……外道にもほどがあるな。まさかその魔法師は、ヒースと言う名前じゃないのか?」

「ヒース? いえ、それはわかりません。ただ全員特徴的な群青色のローブを纏っていました」


 ヒースじゃないのか。思えば奴は黒色のローブだった。だが何らかの関係はありそうだ。


「両親はその後に記憶を消され、何事もないかのように過ごしています。それはそれでいいのですが、時々悪夢を見るといいます。恐らくその時の禁呪の魔法の後遺症が残っているのでしょう。

 彼らの魔法も完全ではなかった証拠ですが、兄はそれを黙って見過ごすことはできませんでした。私以外で唯一真実を知っているのは兄だけでしたが、正義感が強い性格で何としても両親と私を救うと心に誓ったのです。そして兄の思惑通り、何とか厳しい入隊試験を合格して入隊を果たしました」


 まさかジードにそんな過去があったなんて。思えば奴は確かに宿舎にいた時も、妹と家族の写真だけは手放さなかった。そして芯の強さだけは俺もわかっていた。


 そんな重い過去話を延々と話し続けていたファティマだが、ここにきてさらに表情が曇る。


「……兄が入隊したのが一年ほど前です。最後に兄から連絡があったのが一か月前ですが、一体今頃どうしているのか……」


 なるほど、兄の動静が気になっているのか。無理もないが、それについて一番よく知っている人物が隣にいるんだ。


 俺はどうすべきか真剣に悩んだ。


(真実を話すべきか……というか、そもそも俺がグラハムだと彼女は知らない……いや、待てよ?)


 俺はここで大事なことを思い出す。思えば彼女と再会したのは、ディオルベーダの祠だった。あの時俺は彼女に会って開口一番何と言ったか。


 そうだった。俺はあの時、彼女の前で確かにグラハム・スターロードの名前を言った。間違いない。だが今の彼女の様子を見て、俺の本名は明らかに知っていないようだ。


「……なぁ、一つ聞いていいか?」

「はい、何でしょう?」

「君は操られていたと言ったが、その間の記憶は……」

「そうですね。彼らが私の精神をのっとり、代わりに神力を発動させることもあるのですが……」

「ということは、この前のディオルベーダの召喚の時の記憶は?」

「ごめんなさい、あの時の記憶が本当になくて……確かに祭壇の間でかろうじて私を呼ぶ声がしたのだけは覚えているのですが……」


 その声の主は俺なんだが、この様子だと恐らく俺が何を話したのかまではハッキリ覚えていないようだな。


「そうか。それがわかればいいんだが……」

「あの、何か問題でも……」

「ファティマ、実は君に今こそ明かさなければいけない重大な事実があるんだ」

「な、なんでしょう?」


 俺の唐突な言葉にファティマも動揺している。さらに悲しみを増大させてしまいかねないが、いつまでも真実を伏せているわけにはいかない。


 彼女にとっては三年も前にジードの友人であるグラハムと言う男と出会っているのは覚えているはずだ。だからここで俺が本名を明かせば、絶対にジードのことも聞いてくるのは明らかだ。


 勇気を出せ、俺。


「まず、俺の本名だけど……実は……」


 その時だった。


「わぉおおおん!」


 突如森の外れまで行っていたリュートの吠える声が聞こえてきた。彼女との会話で全然気づかなかったが、足跡の臭いを嗅ぎ続けて、かなり遠くまで行っていた。


「リュートが何か見つけようです……な、まさか?」

「どうした、ファティマ?」


 ファティマは俺の言葉を聞かず、突如走り出した。走った方向は当然リュートがいた方角、俺も彼女の後を急いで追いかける。


 しばらくして、木々が生えていない開けた場所へ足を踏み入れた。すると、突如血生臭い異臭が漂っているのに気づく。


 さらに地面を見渡すと、さっきのと同じ足跡もいくつかあったが、違うのは血溜まりまで落ちていたことだ。その血の跡を辿った先に、さらに衝撃的な光景を目の当たりにした。


「こ、これは……」

「そんな……どうして……」


 ファティマが震えながら崩れ落ちた。そこで横たわっていたのは、巨大な白い狼だった。


 俺はまずその体の大きさに圧倒された。さっき俺と戦ったリュートが可愛く見えるほどの体格、リュートよりもさらに倍以上の大きさだ。


 その巨大な狼がこれまた大きな口を広げたまま、倒れている。身動き一つしていない。横腹に深く刻まれた傷跡が、間違いなく致命傷になったんだな。


 並の冒険者や戦士にできる芸当ではない。今は俺の【気配探知】スキルでも反応しないが、この島のどこかに俺に並ぶほどの戦士がいるということなのか。


「こいつがジェヴォーダン、で間違いないんだな」

「そうです。だけど、どうして? どうしてこんなひどいことを……」

「ファティマ、悲しむ気持ちはわかるが、こいつだって凶悪な魔物に違いない。俺達がしてやれるのは、こいつを殺した犯人を捜すこととだ」


 俺のその言葉で納得したのか、ファティマは頷き立ち上がった。そしてゆっくりとジェヴォーダンの口元へ近づく。


「せめて墓は作ってやらないとな。ただ、とんでもなくデカい穴になりそうだが……」

「その必要は……ない」


 突如低く唸るような声が響き渡った。俺は不意に周囲を見渡した。どこにも人影はいない。


 リュートがまさか人語を喋ったのかと一瞬思ったが、それも違ったようだ。リュートの視線はジェヴォーダンを向いたまま、そして歯を剥き出しにして身構えている。


 その声の主も俺は察した。俺は咄嗟に竜剣を鞘から抜いた。

第100話ご覧いただきありがとうございます。ようやく三桁まで行きました、ここまで読んでくださった方本当に感謝いたします!


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