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10話 飴細工売りの少女リデル

 地上に戻った俺達が真っ先に向かったのは、宝石取引鑑定所だ。鑑定所に行けば、さっき拾ったガーネットの破片を換金してもらえる。


 まぁ破片になっていようが、ガーネットという宝石自体希少価値は高い。そしてアマンダの予想を超える金額が呈示された。


「ご、5万ルペクですか?」

「えぇ、それはそれは。もうこの量とサイズであればこれだけの価値はありますよ。我々も驚愕しております。ただこれ以上の金額は我々も厳しいものでして」

「いや、大丈夫だ。5万ルペクで頼む」


 その言葉に鑑定士も安心したような顔だ。どうやら俺達はガーネットの希少価値を甘く見ていたようだ。ガーネットはただの宝石ではない。キングゴーレムの核になっている通り、実は膨大な魔力が込められた魔石としても価値がある。


 そのため見習い魔法師の間では高額で取引される。今や魔法師にとって、魔石が込められた魔法道具、そして魔法武器は必須品だからだ。まぁ【竜騎士】である俺にとっては、無価値に等しいのだが。


 鑑定士が1000ルペク相当の紙幣50枚分を手渡した。これだけの大金などこれまでの人生で手にしたことはない。俺の二等兵時代の年収からしたら考えられない紙幣の量、俺は思わず見とれた。


「ランディ……」


 わかってるよ、アマンダ。俺は我を取り戻し、その紙幣50枚を丁寧に畳み、腰に掛けていたポーチに入れようとした。だが、ここで俺は驚愕な事実に気づく。


「あれ、これは?」

「どうした?」

「金が……ない……」

「いや、手に持っているではないか」

「違う、そうじゃなくて……」

「何を言っている?」


 アマンダも俺の言葉が理解できないようだ。無理もない、なにせ俺が確認したのは、ポーチの中に何も入っていなかったことだ。


 俺の記憶では、このポーチの中に10ルペク分の硬貨が数枚ほどは、入っていたはずなのだ。


 それが今見たらなかった。いや、なかったというよりポーチの底に穴が空いていた。一瞬盗まれたのかと肝を冷やしたが、そうではない。よくよく考えたら、10年も前、地下深くに落ちて、それからお金のことなど一切考えもしなかった。


 恐らく落下した際に穴が出来たのだろうが、今考えると何でもっと早く気づかなかったんだよと。いや修行の時点で気づいていたが、人間界に戻った後で工面しようと考えていただけで、そのまま放置していた。


「たかだか、10ルペクの硬貨数枚なくしただけではないか……」


 確かにアマンダの言う通りだ。俺は呆れ返った。思えば、今俺はそれの500倍近くの資金があるわけだ。


「そのポーチではお前に預けられないな。しばらく私が預かる」


 俺は渋々アマンダに5万ルペクを預けることにした。しかし彼女が言うには、分担して持った方がよいとのことだ。確かに言われてみればその通りだ。一人で5万ルペク持つのは、危険すぎる。


 ということで、俺達は近くにある雑貨屋に足を踏み入れた。そこで同じくらいのサイズのポーチを見つけ、それを手に取ろうとした。


「あれ、あなたは?」


 そこに一人の女性が話しかけてきた。振り返るとそこにいたのは、何と飴細工売りの女性店員だった。


「き、君は?」

「私のこと覚えてる、ほら飴細工売ってた……」

「あぁ覚えてるよ、奇遇だね。こんなところで」


 俺達が地下の古代遺跡に行って戻ってくるまでにかかった時間は2時間程度、その間にすっかり日か暮れ、店仕舞いをしたのだろう、彼女もこの店を訪れていた。


 彼女は俺達のことが気になったのか、やたらと話しかけてくる。


「あなた達、この辺じゃ見ない顔ね。どこから来たの?」

「北部のエリントン出身だ」


 アマンダが瞬時に言い返した。この手の質問に対する答えも用意していたのだろう、全く用意周到だな。もちろん嘘八百だが。


「あぁ、そうなんだ。道理で、どうラティアは気に入った?」

「そうだな。やはり温泉が最高だ」

「そうでしょ! ここの温泉は帝国内で随一の美肌効果があるって有名なんだから! あなたとは気が合いそうね」


 アマンダが普通にほかの女性と話しているのを見ると、なんだか凄く変な気分になる。というか、せめて口調も女らしくしたらいいのに。


 女同士の会話は男である俺には無関係だから、俺は黙って新しいポーチを手に持ち、レジに並んだ。だがそんな俺の後ろに、女性店員も並んだ。


「な、なんだよ?」

「もう、まだ自己紹介してないじゃん。私、リデルって言うの。よろしくね」

「あぁ、そうだったな。俺の名は、グラ……」


 直後アマンダが強烈に俺の脇腹を小突いた。そしてすかさず彼女が俺に代わって自己紹介する。


「私の名はアマンダだ。よろしく、リデル」

「よろしく、アマンダさん」


 俺は改めて自己紹介しようとする。しかし横からアマンダの強烈な睨みが視界に入った。わかっている、彼女が何を言いたいか。さっきは危うく本名をばらすところだった。


「俺は……ランディだ。よろしくな」


 それにしても強烈な一撃だ。【軽装備】だったとはいえ、正体が魔竜の女性の小突きはあんなにも痛いものか、と改めてアマンダを恐ろしく思う。


「どうかした、ランディさん?」

「いや、何でもないよ」


 痛がっている俺の様子を不審がる。アマンダはすかさず話題を変えた。


「そういえば飴細工売っていたな、それ一つ売ってくれないか……」

「ごめんなさい、もう店仕舞いなの。営業時間外で売るのは規則違反だから、また明日来てね」


 アマンダの機転は冴えてるな。俺はなんとか痛みを堪えて、手に持っていたポーチを店員に渡し、会計を済ませた。それを見たリデルは質問した。


「あら、あなたが買ったのはもしかして?」

「うん? ポーチだけど?」

「ってことは、あなたが腰に掛けてるそれの代わり?」

「そうだが、この通り穴が空いちゃってね。それで新しいのを買おうと」

「そうなんだ、ふぅん……そのポーチ私にくれない?」

「え、別に構わないが……」


 リデルが何を考えているのかわからないが、今の俺にとって不要だから素直に渡した。するとリデルはさらに、俺が背中に掛けている剣も物珍しそうな目で見た。


 俺がさすがにそのリデルの目を不審に思い質問する。


「どうかしたか?」

「え? あ、いや、何でもないわ。そ……それよりあなた達、今夜どこに泊まる予定?」


 リデルは聞いてもいないのに、俺達の宿泊先を尋ねた。ちょっと動揺しているように見えたが気のせいか。だがよく考えたら、俺達はまだ今夜の宿泊先を決めていなかったのも事実。


「まぁ、安く泊まれる場所を探しているんだが」


 というのは正直冗談だ。今の俺達は所持金に困っていない。だがこれからの旅のことを考えたら、消費する金額は多少なりとも少ない方がいい。ダメもとでリデルに聞いてみたら、意外な答えが返ってきた。


「安く泊まれる場所、それなら私が絶好の宿知ってるわ!」

「え、本当か?」

「ポーチ譲ってくれたお礼よ。私がそこまで案内してあげるわ」


 いや穴が空いたポーチを譲っただけなんだが。なんというか、少しお人好し過ぎないだろうか。まぁしかし彼女の好意を無駄にするのも憚られるからな。俺達は素直に彼女の案内に付き添い、彼女の指定した宿に向かった。

第10話ご覧いただきありがとうございます。リデルに続いて、次回もまた新キャラが出ます。


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