勇者パーティーを追放された聖女は幼馴染の勇者と幸せな人生を目指す
「お前はもうこのパーティーにはいらない」
私、ミア・グランミリアは本日、勇者パーティーを追放されました。
うすうすそんな雰囲気は感じてたが、いざ面と向かってそういわれると意外と心に来るものであった。
周りからの視線も痛かった。
「かわいそうに」とか「妥当だろ」とか「うちのパーティーに来てくれないかな」とかそんな勝手な言葉も聞こえてきて、今すぐにこのギルドから出ていきたかった。
しかし私には勇者パーティーで成し遂げなければならないことがあった。そしてまだその目標は成し遂げられていなかった。だから何もせずにその場から逃げ出すことは出来なかった。
「どうしても私ではいけないのでしょうか」
「そうだ。お前は確かに聖女候補であり普通の回復術師よりはまだましではあるが、新しい聖女候補であり百年に一度の逸材と言われるデルフィーヌとは比べ物にならん」
パーティーリーダーであり勇者候補であるクロードは迷うことなくそう言った。
わかっていたことではあった。確かに私は聖女候補としてはデルフィーヌとは天と地ほどの実力のある。ほかのパーティーメンバーも特に私が抜けることに対する異論はなさそうだった。
これはもう諦めるしかないのかもしれない。そう思い、私はすぐに席を立ち、まっすぐにギルドから出た。
きっともうここに来ることはないだろう。
きっともう私の復讐は成し遂げられないのだろう。
いろんな気持ちが頭の中に渦巻いていたが、今はただ悲しかった。三年前に初めて今のメンバーが集まって冒険をしたとき私は本当楽しかった。その時は久しぶりに心から笑えていた。
でもいつからだろうか。パーティーが大きくなるにつれて、クロードはだんだんと変わっていってしまった。人間というものは弱い生き物なのだろう。
そんなことを考えながら歩くこの街はどこか空気が重かった。
この先どうしようか。どうやって生きていこうか。
きっとこのまま歩いていたらどこまででも歩いて行ってしまう気がした。
「いらっしゃい」
そう思った私は初めて入る酒場に入った。
酒場のおじさんがそう言って迎える声が聞こえるくらいには冒険者の数は少なく静かな雰囲気で今の私にはちょうど良かった。
あまり食欲はないので飲み物だけを頼み、ただボーっとしていた。
ボーっとしていると思い出したくないことばかり思い出してしまう。あのパーティーで楽しく冒険をしていた時のこと思い出してばかりだった。私のそれまでの人生にはいいことなんてほとんどなかった。
8歳の時に村が魔王軍に襲われた。理由は母がかつての聖女であったからだった。いくら聖女だったとはいえ一人では村を守り切ることはできなかった母は犠牲になって殺された。
私は聖女になって勇者パーティーの一員として魔王への復讐を目的に生きてきた。
しかし今日私は勇者パーティーから追放されたのだ。
「なんで私の人生はこうなっちゃうんだろうな……」
きっと今の私は泣いてこそいないものの、さぞひどい顔をしているのだろう。
はぁ、これからどうしようかな。
家族もいなくて、やりたいこともなくて、生きる理由だった復讐もできなくなった私がこの世界で生きる意味ってなんだろう。
生きる意味ってーー
「お嬢さん、隣いいかい」
「どちら様でーー」
きっと今じゃなければすぐには気づかなかったかもしれない。
「久しぶりだな、ミア」
隣を見るとそこには村が襲われる日まで共に幼少期を過ごした親友がいた。
「ルイ? ルイなの?」
「『ルイなの?』とは失礼だな。あんなに遊んでやってたのに」
そう言って茶化してくる様子は昔から変わっていなかった。
「別に遊んでもらってたわけじゃないでしょ!」
そんな言い合いにも懐かしさが感じられた。きっとルイは今も昔も変わっていないのだろう。そんなルイを見ていると変わってしまった自分のことが嫌に思えてしまった。
そう考えてしまう自分も嫌いだ。
「どうしたんだ? そんなにひどい顔して」
「ひどい顔なんて失礼ね。ルイこそ何でこんなところにいるのよ」
ルイとはあの日からは一度も会っていなかった。保護された場所も違って、きっともう会うことはないと思っていた。
「俺はまぁ……冒険者になろうと思ってな」
「そうなんだ。冒険者なんてやめておいた方がいいよ」
きっと私のその言葉は自分に向けて言った言葉だったのだと思う。つくづく自分のことが嫌いになる。
「そうか、じゃあやめとくよ」
「えっ……」
ルイの言葉に思わず声が出てしまった。そんなルイに何を言ったらいいのかわからない私にルイは続けて話した。
「俺も本当は冒険者になりたいなんて思ったことはなかった。でもこの前勇者候補になったんだ」
「勇者候補? ルイが?」
「失礼な。俺だってあの日から毎日結構鍛えてたんだぞ」
そう言ってルイは腕を曲げてポーズをとって見せた。
なんだかこんななんでもない会話が久しぶりでつい笑ってしまった。
「なによその細い腕は」
「なんだと」
ルイはそんなたわいもない会話を続けてくれた。きっとそれほどまでに私がひどい顔をしてたのだろう。
そんなところも昔と変わっていない。
「はぁ、久しぶりにこんなに話したわ」
「俺で良ければいくらでも話を聞くぜ」
きっとルイになら話してもいいと思えた。
おそらくこんな状態でなければ誰かに話すなんてことはなかったと思う。
ただ今の私は色んな意味で限界を迎えていた。
「私ね、勇者パーティーをクビになっちゃったの。前からそうなるかもしれないとは思っていたけどいざ言われるとやっぱり悔しくてね」
話し始めると自分の中で堪えていたものが崩れていった。
「どうせこんなことになるなら中途半端なこんな力なんて無ければよかった。そうしたらもっと自分の人生に諦めがついたのに」
「なぁミア、俺がここに来た本当の目的はお前を助けることだ」
「え……」
「なんてことはない」
「こんな時まで冗談言わなーー」
「ただ、お前の涙はもう見たくない。あの日みたいに涙を流したままお前と別れることは絶対にしない。だから俺がお前を助けてやる」
「本当に? 本当に助けてくれるの?」
きっと心のどこかではいつも助けを求めていたのかもしれない。ただそんな自分を無かったことにして生きてきた。だからそんなルイの言葉に思わずそう返してしまった。
「あぁ、助けてやる」
今の私にはその言葉だけでよかった。本当に助けてくれなくてもそう言ってくれるだけで救われた。
「やっぱりルイは変わってないね。昔からいつもそうやって私のことを助けてくれてた」
「俺も変わってるよ。ただミアの前だけでは昔と変わらない俺でいたいと思ってる」
「ありがとう」
そう言ってくれたのが本当に嬉しかった。
「だからーー」
ルイはもう一度しっかりと私の目を見てから言った。
「だから俺ともう一度復讐の続きをしよう。俺が勇者でミアが聖女だ」
「うん!」
迷うことはなかった。ルイなら私のことを救ってくれると確信していた。
その日から私はルイとパーティーを組んでもう一度冒険者としての道を歩み始めた。
もう一度幸せな人生を目指します。