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7.武闘大会②

2試合目の相手は失礼な言い方だが、まるで夜盗が集まったような6人のグループだった。1戦目はライトとチェル。相手は片手剣を持った男とククリを手にした、かなりがたいの良い男。全員がフィールドに入ると審判が「始め」と叫んだ。


ライトは片手剣を持った男へと駆け出し、チェルは相手の出方を見ている。ククリの男が魔法を完成させ、風魔法がチェルを襲うが手にした槍で受け流す。見た目に似合わず魔力が高いようで、思っていたより力強い魔法にチェルは体勢を崩した。


'っ!?'


いつの間にか間合いを詰めるククリの男の剣戟(けんげき)を、何とか槍でしのぐ。チェルは何が起こったのか、理解できていなかった。ククリの男とチェルの距離は、フィールドの端と端だった。そんな一気に、距離を詰めるなど物理的に不可能だ。

だが、それを可能にするのが魔法。ライトが狙った片手剣を持った男が放った空間移動の魔法で、ククリの男はチェルの目の前に移動したのだった。


体力には自信のあったチェルだったが、間合いに入られると槍は圧倒的不利だった。チェルが押されてフィールドのギリギリに立つ。そこにまさかの風魔法がチェルを襲った。目の前の男が詠唱している様子は、全くなかったので油断していた。

もう一人の男の放った魔法により、チェルは吹き飛ばされて、場外へと出てしまった。


この試合、フィールドから少しでも体が出ると失格になっている。あとは、勝負がつくのにそんなに時間はかからなかった。ライトは何とか片手剣の男を倒していたが、ククリの男に力と技術で負けてしまった。思っていたよりも相手の戦闘能力が高く、控えていたティーナは驚いているようだった。


「相手の技量も見極められないのか?」

と、戻った2人をカルムの嫌味が待っていた。普段なら言い返すチェルだが、今日は正論過ぎて何も言えなかった。それから、ライトとチェルへの説教が始まったが、2戦目がカルムだったので、強制的に終了となり、2人は少しだけほっとしていたのだった。


「私、魔術戦で良いよね?前衛は任せるよっ。」

「あぁ。」

ルーシーが言って、フィールドに上がるとカルムは前に出る。相手は片手剣を持った男と細身で短剣を持った男だった。始め、という合図とともにカルムは片手剣を持った男へと駆け出す。

細身の男が魔法を唱え始めたのを見てから、ルーシーは合わせて詠唱を始める。


先に、男の魔法が完成し、カルムへと水の魔法を解き放った。しかし、ルーシーは予想済みで唱え終えた防御魔法をカルムへと解き放つ。ルーシーの魔法の方が早くカルムに届き、防御魔法が水の攻撃から彼を守る。魔法を跳ね返し、ダメージを受けなかったカルムは、勢いを落とさずに片手剣を持った男との距離を詰めた。双剣を振るってあっさりとカルムは男を倒す。そのままの勢いで、カルムはもう一人の細い男へと突進するが、男はニヤリと笑っていた。


男は唱え終えた魔法を解き放つと、炎の珠が出現した。それは中級の魔法でそこそこの威力がある。相手の詠唱の速さに、さすがのカルムも驚いたようだったが、ルーシーの方をチラリと確認すると、彼は駆ける速さを落とすことなく間合いを詰める。男は驚くが、やけになったのだと思ったのだろう、カルムを迎え撃つ姿勢を取らず余裕の笑みを浮かべていた。そこへルーシーの完成させた魔法が発動し出現する。こちらは詠唱の速さを考えて水の低級魔法だ。矢の形をした水は、男の出現させた火の珠へと勢いよくぶつかった。すると、小さな水の矢はあっさりと炎の前に蒸発した...ように見えた。


「バカめ!」

勝ちを確信したのか、男は次の詠唱もせずニヤニヤと笑っている。


ボコッ…


火の珠が歪んで見えた。見間違いかと目を擦る男だったが、それは気のせいではなかった。ボコボコとまるで沸騰した水のように、火の珠が膨らんでいきパンッと、弾けるように突然大量の水蒸気を発生させた。そして、フィールド内の視界を悪くした。


「相殺しただと!?」


パニックになった男の声が聞こえるが、水蒸気のせいで姿は全く見えなかった。中級魔法に低級魔法が上回ることはまずない。だから男は水が炎に飲まれると考えていたのだろう。だが、それは魔力が同等の魔法の場合の話だ。ルーシーはいくら封印して隠しているとはいえ、水月の民であるため魔力は相当高い。もちろん、人間でもこのくらいの魔力差はあるので、これで彼女の正体がばれることもなかった。


声や息づかいから男の位置を把握したカルムは、こちらもあっさりと剣で倒したのだった。


「よっしゃー!!」

フィールド外から観戦していたチェルがこぶしを突き上げて喜ぶ。ライトとティーナも手を合わせて喜び飛び跳ねていた。戻ってきたカルムに浮かれ過ぎだ。と、怒られたのは言われるまでもない。


「次はティーナだね。ペアは…」

「お前だ。」

「えっ!?私!?」

カルムの言葉に対戦表を確認すると、係の人がルーシーと名前を刻んでいた。3戦目のペアだけは4人や5人のチームでは2戦目が終わった後に発表される。おそらくは観客を盛り上げるためだろう。


ティーナはちょっぴり不安そうな顔をしていた。ティーナが不安に思うのも無理はない。ルーシーやティーナは魔法を中心とした戦いが多い。しかし、対戦相手の戦い方を見ていると、武術や剣術に長けたうえに魔法も使える者が多かった。いくらルーシーが接近戦も出来るとはいえ、男の力には勝てない。はっきり言って不利な状況だった。それでも、ルーシーはティーナの肩をポンッと叩いてニッと笑う。

「やってみなきゃ分かんないよ♪」

ティーナは不安なことばかり考えちゃダメだと、頭を振り考えるのを止めて少しだけ顔をあげた。

「ほらほら、行くよっ!」

そう言って、ティーナの気持ちを上げるために、背中を押して一緒にフィールドへと上がった。


「大丈夫かなぁ。」

「お前らと違って、ルーシーなら何か策を考えるだろう。」

心配そうなライトと対照的に、カルムは心配などしていない様子だった。


「お嬢ちゃん達もついてないね。最後の最後に俺たちと当たるなんてなぁ。」

「そうだっ!あんな弱い奴らなんか放っておいて俺たちのチームに入らねぇか?」

「手厚く歓迎するぜぇ」とニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべている。

片手剣を持った男と、ナックルをはめた男は格闘家なのだろう、チームの中で一番大柄だった。


審判の合図があり、試合が始まった。だが、ナックルの男は話を止めない。

「なぁ、ちゃんと聞いてる?お嬢ちゃん。あぁ怖くて声も…」

「風よ!!」

ルーシーは男の言葉を遮るように魔法を発動させる。放った魔法は強風を生み出すと、あっさりと2人の男を吹き飛ばした。だが、フィールドの外まで飛ばす威力はなく、男たちは不意を突かれたにもかかわらずちゃんと受け身を取り着地する。やはり実力はあるようだ。


「あのバカが!なんで、一撃でやっつけられる魔法じゃねーんだよっ!挑発してどうするつもりなんだよっ!!」

と、チェルは手で頭を強く搔いて怒鳴る。ライトも不安そうな表情で試合を眺めている。カルムだけは表情を変えず、黙ったまま試合を眺めていた。


「何しやがる!!」

チェルの言葉通り、吹き飛ばされた男2人は怒鳴り声を上げる。それに対してルーシーは、にこりと笑って見せる。しかし、その顔とは裏腹に冷たい声で言葉を続けた。

「何って?もう試合始まってるから。」

「貴様!女だと思って人が優しくしてやったってのに!」

「うーん…あんたらみたいな雑魚に私が負けると思えないんだよねー。」

ルーシーの言葉に、男は頭から湯気が立つのではないかと思うくらいに怒り狂った。

「女だろうと容赦しねーー!!俺様にそんなこと言ったこと後悔させてやる!!」

やれやれとため息をつき、左右に首を振るルーシーの態度に、怒鳴りつけていた片手剣を持った男がブチ切れたように突進してきた。その後ろにナックルの男も続く。


ルーシーはティーナに手前の男を攻撃するように言ってから、短剣2本を手にして呪文を唱えながら駆け出した。呪文が完成するとともに、右手に持っていた短剣をナックルの男へと投げる。男の脇を通り過ぎ短剣は地面へと刺さった。

「残念だが外…!?」

男の言葉は途中で止まる。体が動かないことに気が付いたからだと分かる。ルーシーの放った魔法は影縛りと言って、呪をかけた物を影に突き刺すことで相手の動きを止める初歩的な魔法だった。ルーシーは駆ける速さを落とすことなく、もう一人の男へと間合いを詰めた。


「馬鹿め。そんな短剣で何ができる!!」

「おしゃべりが多い男はモテないよ。」

ルーシーの言葉にカチンと来た男は、間合いギリギリで剣を横に一閃した。が、それは空を切るだけに終わる。


ルーシーは跳躍して剣を躱し、男の頭に手をついて反対側へとさらに飛んだ。男は何が起きたのか分からないといった様子で、気が逸れたところをティーナの放った雷の魔法が直撃したのだった。倒れて動かなくなる男を見て、ティーナがホッとしたのもつかの間、ナックルの男が魔法を放った。


『!?』


次の詠唱を始めたティーナの動きが止まる。ルーシーものどに手を当てて少し驚いた表情をする。

「沈黙の魔法だぜ。これで頼りの魔法が使えねぇなぁ。」

沈黙の魔法がかかったために、ルーシーの魔法が解けたナックルの男がティーナへと駆け出した。そして、ティーナへと拳を振るった。しかし、それは先ほどと同じように空を切る。ティーナは跳躍ではなく半身だけ引いて、相手の拳を躱したのだ。ニッと笑ったルーシーは、ティーナに教えた護身術の成果を嬉しく感じていた。まさか魔導士に、躱されると思っていなかった男はさらに続けて2発拳を突き出したが、ティーナはあっさりと躱す。


実は、焦った男の攻撃が単調になっていたために、ティーナにも動きが追えて躱すことが出来ていた。そんなことに男は気がついていなかった。


しかし、ティーナも後ろに下がり続けながら躱していたため、場外まであと一歩というところまで追い詰められた。

「へへ、これで終わりだなっ!」

と、最後の一撃と拳を勢いよく突き出す男。ティーナはそれを屈んで躱し、そのまま横へと飛んで男の目の前から除ける。この時を待っていましたと、一気に距離を詰めたルーシーの回し蹴りが男の背中へと決まった。男は場外へと落ちていったのだった。


「よっしゃー!!」

チェルがガッツポーズをして喜び、対照的にカルムは当然だと言わんばかりの様子だった。


「ティーナすごいねっ!」

「ありがとう。」

ティーナがフィールドから降りるとライトが駆け寄り、瞳をキラキラさせて興奮気味に言って、手を拳に握り、目の前でぶんぶんと振っている。ティーナは照れているのだろう頬を赤らめていたが、彼女がにこりと笑顔でライトにお礼を言うと、今度はライトが頬を赤らめる番となった。見てらんねー。と、チェルはさっさと観戦席へと向かう。ルーシーとカルムもそのあとに続き、ライトが置いてきぼりになったことに気が付いて、慌ててティーナと後を追ったのだった。


その後、3試合目も順調に勝ち進み、後は明日の決勝戦を残すのみとなった。


ルーシーたちは動いてお腹が空いたと、宿屋の隣にあった酒場兼食堂にやって来ていた。武闘大会で盛り上がっているせいか、すでに出来上がった客が多くいた。そして、やたらと声をかけられた。カルムは数人の女性から声をかけられては、不機嫌そうにしていた。チェルはしばらくカルムを羨ましそうに眺めていたのだが、ご飯をかき込んで早々に済ませると、他の席に座る女性たちに声をかけに行っては振られているようだった。

「すごい賑やかね。」

「この武闘大会の景品が、世界の命運のかかった魔光石じゃなきゃ、楽しめたのにね。」

ティーナが賑やかな店内を見渡して発した言葉に、ルーシーが苦笑交じりに言った。

「そう?俺は結構楽しいよ。」

「良いねぇ。ライトはお気楽で。」

ルーシーが皮肉(ひにく)っぽく言うと、ぷくーっと頬を膨らませて抗議するライト。そこへ、追加で頼んだ料理が運ばれてきて、その不機嫌はどこへやらといった様子で、勢いよく食べ始める。その横で、カルムが3度目くらいの女性からのナンパを断っていた。正確には冷たくあしらうと言った方が正しいが…。その様子を見ていたルーシーがふと疑問に思ったことを口にした。

「カルムはさ、ああいうの興味ないの?大会場でもそうだったけど…チェルだったら、女性に声かけられた時点で瞬殺じゃん。」


確かに、大会場で出会った鎖鎌の女はあからさまで嫌な感じはあったが、今、声をかけているのは全部が全部ひどい雰囲気の女性ではなかった。試合でのカルムの戦う姿を見て、気になって声をかけた人もいたようだったが、彼は一様に冷たくあしらうだけだった。チェルだったらすぐにでも飛びつきそうな、美女ばかりが声をかけていたのでルーシーは気になったのだった。


「あいつと一緒にするな。」

チェルと同じにされそうになったカルムは、不満を顕にして答える。


「僕たちはロージーの企みを阻止する目的がある。そんなことしている暇などない。」

「ルーシー?なんで気になるの?」

「えっ!?そ、そうだよね。ごめんごめん。気にしないでっ。」

ご飯をかき込んでいたライトが不思議そうな顔でルーシーを見ると、ルーシーはハッとなり、自分でも分からないといった様子で慌てて答えたのだった。


“なんで気になったんだろう?”と、ルーシーは疑問が拭えなかった。


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