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6.武闘大会①

ルーシーたちはフローウェイ王国を後にして、北東にあるディーバレイスへと到着していた。国から国への旅はかなりの長旅であったが、彼らにとっては良いことだったかもしれない。旅の間はカルムが剣の指導を、ルーシーはティーナに護身術を教えた。また、仲間同士の連携も良くなり、旅の後半には、かなりスムーズにモンスターを倒すことが出来るようになっていた。

そして、ここディーバレイスでもこのスキルアップが役に立ちそうだったのだ。

ディーバレイスで武闘大会が開催される予定なのだが、優勝賞品が魔光石(まこうせき)だということだった。カルムの情報が間違っているのではないかと、チェルが国の住人に話を聞いてみると、本当のようだった。


何はともあれ、魔光石を手に入れ、ロージーから守る必要があると考えたルーシーたちは、大会に参加することにしたのだった。

試合当日、会場へとルーシーたちはやって来た。試合会場は国郊外に設置されており、かなりの広さを有していた。ドームに覆われた施設が全部で5つあり、それぞれが試合会場となっているようだ。試合はトーナメント戦で3回勝ち進むと決勝戦になる形だった。


「会場広いねー。」

ライトは上機嫌で場内を駆け回っていた。

「おい、あんまりはしゃぐなよ!」

「あんたもねっ!」

ライトに叱咤しながらも、観客席の女性を順々に見て鼻を伸ばすチェルに、ルーシーがチェルの耳を引っ張りつつ、観客席を見渡す。

「でも、本当に広いわね。それにすごい観客。」

「こんな人が見ている中で戦うなんて…。」

「大丈夫だよ。普段通りにすれば大抵の相手には勝てるさ。」

そうね。と、微笑むティーナにルーシーはニッと笑いかける。


「でもさぁ、観客の人は大丈夫かな?魔法とか武器とか飛んでいかない?」

前を走っていたライトが戻ってきて、観客席を眺めながら問う。魔法を扱えないライトは、魔力を感知することも難しいようだった。カルムが飽きれたようにため息を漏らし、ティーナが慌てて説明をした。


「ここの会場ね、魔法がかかっていて、観客席には絶対当たらないようになってるの。それに、特別な術がかけられているみたいで、フィールド内では刃で人は切れず、どんな魔法も致命傷は与えられないようになっているわ。」

「へぇ、そうなんだ!すごいねっ!」

「ライト、これは開会式で話してたわ。」

困ったように言うティーナに、開会式でずっと居眠りしていたライトは頭を搔いた。


「馬鹿やってないで行くぞ。」

しびれを切らせたカルムが先頭を切って、会場の真ん中に広く設けられた、ティーナがフィールドと呼んだ場所に上がるための階段を上る。すでに対戦相手はフィールド内に並んでいた。早くしろ!とカルムに叱咤されて、ライトとチェルも慌てて並んだのだった。

ルーシーたちの1試合目の相手は剣士が3人と魔導士2人の全員男の5人チームだった。試合のルールは2人1組で対戦をして2勝した方の勝ち。組み合わせはランダムで決められる。最大で3試合なので5人チームは1人で2回戦うこともある。


1戦目はティーナとカルムのペアで相手は片手剣と盾を持った騎士と黒のローブ姿でいかにも魔導士と誰もが思う格好をしている男だった。1試合目の4人と1人の審判だけがフィールドに残り、あとはフィールドを降りての観戦となる。

審判がフィールドの端に移動し「始めっ!!」と叫ぶのを合図に試合が始まったのだった。

その合図と同時にカルムは駆け出すと、目にも止まらない速さで騎士へと一撃を入れる。装備が頑丈とはいえ今の一撃は、相手に片膝をつかせるのに十分だった。

「ティーナ!!」

「凍てつけ!!」

呼ばれた声に反応するようにティーナは魔法を発動させる。騎士は立ち上がろうとしたところを氷づけにされてしまった。カルムは騎士を切りつけた足で、魔導士の方へと駆け出していた。だが先に魔導士の魔法が完成する。炎の矢を数本発現し、カルムへと向けて放った。

「遅い。氷よ!」

カルムの力強い声とともに、生まれた氷の矢が炎の矢を打ち消した。そして、相手より魔力の強いカルムの矢は勢いを失わず、魔導士へと直撃した。一瞬の怯みを見逃すことなく、カルムは一気に距離を詰めると剣を一閃させて相手は気絶した。

「そこまで!」審判が叫ぶと、会場は一瞬静まり返ったがすぐ歓喜の声であふれた。あまりの早い決着にも関わらず、とても盛り上がったようだった。


「ちょっと、プレッシャーかけないでよね。次、私の番なのにぃ。」

「こんな雑魚相手に時間をかける方が難しい。」

カルムの返事にむぅと、拗ねて見せると隣に並んだカルムがルーシーにだけ聞こえる声で続けた。

「まぁ、お前とライトなら大丈夫だろう。あいつも、成長しているからな。」

「ふーん、お優しい先生だこと。」

「なっ!そんなんじゃないっ!」

珍しくライトのことを褒めるカルムにルーシーは悪戯(いたずら)っぽくいうと、早く行けと怒られてしまった。


ルーシーはライトとともにフィールドへと上がるとすぐに「始め!」と合図があった。今度の相手は両方とも剣士。1人はライトと同じ片手剣を構えており、もう一人の武器は斧で体格も良かった。片手剣を持った男の方が、合図とともにこちらに向かって駆け出す。合わせるようにライトが動いて相手を迎え撃つ形をとった。何でも突っ込むスタイルだったライトが相手を見極められるようになったのは、ここまでの旅での修行のおかげだろうとルーシーは呪文を唱えながら感じていた。ライトは相手の剣を躱そうと少し後ろに飛ぶ。すると、片手剣を持った男の上にルーシーの放った雷撃が直撃した。鎧は電気をよく通し、一撃で戦闘不能となった。慌てたのは斧を持った男。まさか、一撃で倒れるなど思ってもいなかったのだろう。慌てて唱えていた呪文を放ったが、慌て過ぎていたせいでライトの横を氷の矢が通り抜けていった。すでに駆け出していたライトの剣技で男は気絶したのだった。


1試合目は2連勝でルーシーたちの勝ちで終わった。次の試合まで時間があると、まだ昼前だというのに、ライトとチェルはお腹がすいたと食堂へと行ってしまった。ティーナもお腹がすいていたのだろう、恥ずかしそうにしながらも2人の後を追って行った。残されたルーシーとカルムは観戦席へと移動した。


観戦席へ着くと、さっきの試合を見ていたのだろう観客たちに「さっきの試合すごかったな!!」「最高だったぜ!!」「次の試合も楽しみにしてるよ。」などと声をかけられた。ルーシーは別にその場所でも構わなかったが、カルムは騒がしいのが嫌だったのだろう。席から少し離れた人が少ない場所に移動した。


「お嬢ちゃん、ちょっとどいてね。」


と言って、背中に鎖鎌(くさりがま)を吊った、スタイルが良い女性が、ルーシーを押しのけてカルムの横に陣取る。その30代くらいの女性は、戦闘に向いているとは到底思えない露出した服を着ていた。寒くないのだろうかなどと、ルーシーが思っていると、その女がカルムの腕に自分の腕をすっと絡めた。思わずギョッとしてしまうルーシー。だが、そんなことなど気にもしていない様子で、女は話しかける。

「ねぇ、坊や。お姉さんたちのチームに入る気はないかしら?お子ちゃまチームより、私たちのチームに入った方が色々と良いと思うんだけどぉ。」

「生憎だが、負けるチームには興味ない。」

パシッと腕を振り払い、冷たい言葉を投げるカルムに、女はまさか振られるなんて考えてもいなかったのだろう。驚いた顔をしてから、フンとそっぽを向くと、わざわざルーシーの肩にドンっとぶつかってからその場を立ち去った。


「何かすごいね。こういう人ばっかり集まってるのかなぁ…」

やだなぁと、ポリポリと困った様子で頬を搔くルーシーは、カルムの横に並びなおす。

「なぜ、避けなかった?あれくらい避けられただろう。」

肩がぶつかったことを言っているのだろう、ルーシーはあぁと頭を搔いて苦笑いした。

「若いお姉さんに、お嬢ちゃんって言われたのがね…気になっちゃって。」

ルーシーの問いに珍しくカルムが不思議そうな、言っている意味が分からないという表情をした。カルムがそう感じるのも無理はない。ルーシーはどう見ても20代前半の風貌(ふうぼう)で、ヘタしたら10代にも見える。先ほどの女性はそれよりも年上に見えたのだから、何が気になったのか分からないのも当然だった。

「いやぁ、もうお嬢ちゃんて年齢じゃないからさぁ。」

ルーシーの言葉に水月の民は年の取り方が人間とは違うことを思い出し、カルムは納得した様子だった。そして、ふと疑問に思ったことを口にする。

「ルーシーは何歳なんだ?」

「女性に年齢を尋ねるのはマナー違反じゃない?」

腰に手を当てて怒るルーシーにカルムはすまない。と素直に謝った。それを見てルーシーは、まさかあのカルムが素直に謝った!?と驚き笑ったのだった。

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