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2.夜の森

夜の森をルーシーは独り歩いていた。ライトやチェルがついて行くと言うのを断り、足りなくなってしまった薪を拾いに来ていたのだ。歩き慣れた森はルーシーにとって、庭のようなものだった。慣れない人をつれて歩くより、独りの方がすぐ集まると思ったのだ。

「薪、使いすぎたねぇ…」

昼間の後悔を独り呟き、黙々と背負った(かご)に枝を放り込んでいく。やけに静かな森には、ルーシーの歩く音や枝がぶつかる音だけが響いていた。

「今夜はやけに静かすぎないか…」

そう呟いて、屈めていた腰を伸ばし立ち上がった時だった。


「フガアァァァ!!!」


突然背後からモンスターの声。驚き振り向くと、離れた距離に鬼のような姿をしたモンスターの姿があった。モンスターはすぐに何かの呪文を唱え始める。呪文からして炎系だと気付いたルーシーは、その位置から動かずに自分も急ぎ呪文を唱える。先にモンスターの魔法が完成し、炎の矢をルーシーに向けて放った。

ルーシーは飛んでくる炎の矢を、ギリギリの位置で半身を引いて躱す。そして、完成させた雷系の低級魔法を解き放った。魔法を得意とするルーシーが放った雷撃は、初歩的な呪文とは思えない威力で、モンスターに直撃した。その一撃で、モンスターは灰となり消えた。


「ふぅ。なんだったんだろう…っ!?」


と、息を付くルーシーの背後に再びモンスターの気配。慌てて振り向くと、先程のモンスターが今度は二体。しかもこちらは呪文を完成させているようだった。完全に不意を突かれたルーシーは、放たれた炎の矢が直撃するのを覚悟した。意味がないと分かっていたが、咄嗟に腕で顔を覆う。


'…?'


炎がルーシーに振りかかることはなかった。ルーシーは腕を恐る恐る解き前を見ると、そこには闇に溶けてしまいそうな色で見えにくかったが、人の姿があった。

「カルム?」

「無事の様だな。」

「あ、ありがとう。」

「さっさと倒すぞ。」

「えぇ!前衛は任せるよ。」

あぁ、と答えたカルムは呪文を再び唱え始めた一体へと駆け出す。一方、ルーシーは先程と同じ呪文を唱え始めた。

カルムは相手の呪文が完成する前に、一体のモンスターを横薙ぎに斬り倒す。少し遅れて、ルーシーの放った雷撃がもう一体へと振りかかり、二体のモンスターは塵となった。


「ありがとう。カルムがいなかったら危なかったよ。」

「いや…」

ルーシーの言葉にカルムは何か呟いて、視線を逸らせた。


「カルム、足にけがを…」

ごめんと、申し訳なさそうにルーシーは、炎の矢が掠って負ったであろう焦げ跡と血が流れる足を見る。

「問題ない。」

言ってカルムはマントで隠そうとして、ルーシーに止められた。

「そのままじゃダメだよ。ちょっと待って」

ルーシーは呪文を唱えるとカルムの足へと回復呪文をかける。

「回復魔法も使えるのか。」

「まぁね。初歩的な魔法ならほとんど使えるよ。」

「そうか…」


呟くとカルムはそのまま黙ってしまう。何か難しい顔をしている彼を見て、ルーシーはどうしようか悩んでいた。と言うのも、占いで見た、カルムが口にした名前が気になっていたのだ。だから、彼女はかまかけをしてみる。

「カルムってさぁ…ティーナたちとは違う目的で動いてるんじゃない?」

「!?…それも占いか?」

「いやぁ、これは女の勘だね。」

ルーシーはニッと笑って答え、そして続けた。


「さっきのモンスター、何か関係があるんでしょ?」

本来モンスターは自然に存在するもの。だけど、先ほどのは明らかに誰かが召喚したものだった。

誰かが、ルーシーの命を狙って送った、といった方が正しいかもしれない。ルーシーの言葉に、カルムはあきらめたように深いため息をついてから、重たい口を開いた。


「悪魔使いロージーを知っているか?」

「え?あ、あぁ、壮大な魔力を持った魔導師のことでしょ?おとぎ話で出てくるから子供でも知ってる人物だと思うけど?」

聞きたい名前がすぐに出てきて、ルーシーは少し驚いていた。


悪魔使いロージーとは、100年ほど前に生きていたと言われる大魔道師。そして、彼女は人間ではなく水月(すいげつ)の民という種族だった。魔道への研究が熱心なあまり、間違った方向へと行ってしまったロージーは、悪魔を召喚する魔法を編み出したと言われている。召喚した悪魔のせいで、世界を争いの戦火とした。ロージーの非道が過ぎ、彼女は人間たちによって殺されたと言われている。そんな惨劇を繰り返さないために、おとぎ話として語り継がれてきた。だが、そのせいで、水月の民は人間から迫害を受けることとなったのだった。


元々水月の民と人間は違うところが多い。まず、見た目が違う。人間には髪や目の色が様々あるが、水月の民は透き通った水色の髪に、月のような黄金の瞳を持ち、長く尖った耳を持つ。そして寿命が長く、魔力も高い。

ロージーのことが起こる前から、多少敬遠されていることはあったが、その一件で拍車がかかり、ひどい場合には、集団で水月の民を襲ったり殺したりすることすらあった。

そして現在、水月の民は数を減らし、ひっそりと暮らしているという噂はあるが、どこにいるかなどは分からなかった。


「…ロージーは生きている。」

「!?生きてるって…まさかっ!」

「先ほどのモンスターを召喚したのは、おそらく奴だ。」

カルムの言葉にルーシーは難しい顔をしたが、何も言ってこないのでカルムが言葉を続ける。

「僕は奴を止めるために動いている。...それが目障りなのだろう。今回みたいにモンスターを召喚することはよくある。ただ、ティーナたちと行動を共にしてからは、なくなっていたから油断していた。すまない。」

「いや、えっと、ちょっと待って。彼女は100年前に死んだよね?生きてるってどういう…」


ルーシーは手をカルムの前に突き出して待ってと言って、何か難しい顔をして悩み始めた。全く信じないようなら話をやめようと考えていたカルムは、ルーシーの反応が意外だったのか、少し考えてから話を続けた。


「ロージーは水月の民だと言われている。水月の民は、僕ら人間とは違い長い時を生きる。だから、生きていてもおかしくはない。」

「それは分かるけど…そうじゃなくて彼女は確かに死んでるはずなんだよっ。」

「まるで見てきたみたいな言い方だな。」

「…あ、いや、そう知人に聞いたことがあったから。そう思い込んでたんだよねっ。」


カルムが怪訝(けげん)そうに言うと、ハッと我に返るルーシーは苦笑いをして答えたのだった。まぁいい。とカルムはそれ以上は追及せずに話を進める。


「ロージーはおそらく魔光石(まこうせき)を集めようとしている。僕はそれを何としてでも阻止するつもりだ。」


カルムの言葉にルーシーは飽きれたように、ないないと顔を左右に振った。

「魔光石を集めるだって?それは無理だよ。だって、魔光石は悪い輩が盗んだり出来ないようにって、色んな場所で厳重に保管されているんだよ。それに、確か人間しか入れない土地にも保管してあったはずだから、水月の民であるロージーには無理なんじゃない?」

「…それはポルタヴィアにある魔光石のことだろう。それなら、すでにロージーの手に渡った。」

言葉にしたカルムはこみ上げてくる怒りに、手を強く握り絞めた。

「なんでカルムが、そんなことを?」

ルーシーの問いに、我に返るカルムはとやれやれと、自分に飽きれたように首を左右に振る。

「話すつもりはない。」

「えー、気になるじゃない。」

粘ろうとするルーシーだったが、「もう戻るぞ!」話はここまで、と言わんばかりに、カルムが歩きだしたので、ルーシーも仕方なく後を追うのだった。

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