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1.出会い

 鬱蒼とした森がどこまでも続き、終わりが見えないようなに森林地帯にひっそりと佇む小さな家。その壁は経年劣化が激しくボロボロ。所々で板で補強されており、倒壊する心配はなさそうだが、魔女でも出てきそうな()()()()という雰囲気がする。

 家の背には大きな山が(そび)え立ち、今は太陽がその山に少しずつ隠れようとしていた。肌寒くなる時間がやってきて、ボロ屋に住む少女は暖炉に薪をくべる。

 年のころは18くらい。ストレートの長い黒髪は頭の上の方で一つにまとめられており、まだ少し幼い雰囲気が残っている。服装は半袖にショートパンツ。ただ、さすがにそれだけでは寒いのだろう。上から白のロングコートを羽織っていた。

 コートがバサつくのが嫌なのか、ベルトで固定している。茶色のブーツも太ももの高さまであるもので、彼女の足を寒さから守っていた。

 そんな少女はそれでも寒いのか、燃えるのではないかと思うくらい近くに椅子を置いて、木々を次々に足している。


彼女の名前はルーシー・トーウェン。


 この森で「占い屋」を営んでいる。彼女の占いはよく当たると評判で、こんな森の中にあるにしてはそこそこに客足があった。

 だが、今日はまだ一人の客も来ていない。もう昼も過ぎ、夕方にさしかかっている。さすがに暇を持て余していたルーシーは、ボーッと暖炉の火を見ながら夕飯は何にしようかなどと、考え始めていた。

 だから、外から足音や声が聞こえた時には、まるで主人の帰りを待ちわびた犬の様に勢いよく顔を上げていた。


 ノックとともに扉が開かれると、1人の少年が顔をのぞかせた。年齢はルーシーよりも若そうな幼い印象で、ツンツンした赤毛がドアから入る風に揺れている。手にはグローブをつけており、腰には剣を吊っていた。


「あの、まだやってますか?」


 緊張気味に問いかける少年に、ルーシーはニッと笑いかけ、「もちろん!」と答えた。すると、少年の表情はぱぁっと明るくなる。


「仲間を呼んできますっ!」


 元気に言って駆け出した少年を見送って、ルーシーは根が張ったのではないかと思うくらい、重たくなっていた腰を上げたのだった。


 少しして、先ほどの少年が仲間を連れて戻ってきた。少年を合わせて4人の冒険者パーティーのようだった。


 この世界には冒険者ギルドがあり、15歳以上になると登録が可能になる。冒険者ギルドは、国や街からの依頼を登録した冒険者に委託する。依頼内容は、人の捜索からモンスターの討伐、引っ越しの手伝いなどと多岐にわたる。依頼にはもちろん報酬があり、それを生業とする者も多くいた。

 ルーシーの店に訪れた少年たちは15-20歳くらいと、かなり若いパーティーだった。おそらくは、冒険者になったばかりなのだろう。


 ルーシーは、部屋の真ん中にある机へと彼らを案内し、椅子へ座るように促す。何も置かれていない質素な机に同じく質素な椅子が4つ。そこに促されるまま4人は腰を掛けた。緊張しているのか、ルーシーがお茶の準備をしている間も、誰1人としてしゃべらずに座って待っている。それはルーシーがお茶を出しても、微動だにしない。そんな様子を見て初々しいなと、ルーシーは思わず苦笑してしまう。


 ルーシーは、先ほどまで座っていた椅子を持って来て、座りなおした。


「私が占い師のルーシー・トーウェン。よろしくね。」

「俺はライト・ウェールズです。」


 先ほどの少年が挨拶をした。


「俺はチェル・アンセズだ。」


 ライトの隣に座る一番年上に見える青年が名乗る。彼は刈り上げられた短めの金髪に深緑の瞳で、ヤンチャそうな雰囲気がまだ抜けていない顔立ちだった。袖のない服に短パンといかにも寒そうな服装に、ロングのグローブとブーツを着けて防寒しているようだった。座った横には槍が立て掛けてあった。


「私はティーナ・ロヴェミナです。」


 ライトの向かいに座る少女が丁寧にお辞儀した。彼女はライトと同じくらいの年頃に見えたが、少し大人びた雰囲気があった。焦げ茶色髪は肩くらいの長さでストレート、水色のワンピースに、座っているため今は見えないが、腰のあたりに紺色の大きなリボンがついていた。彼女は魔導士なのだろう。机に立てかけるように置かれた大きな杖には、魔力を増幅するための真っ赤な宝石が埋め込まれていた。


「カルム・フェンルナだ。」


 最後にそう名乗った少年は男にしてはかなり細身で女性のような顔だちをしており、冷たい印象を与える。服装も黒をベースとした長袖とロングパンツで、髪はルーシーより濃い黒色で少し長めのショートヘア。服に模様がなければ闇夜に溶けてしまいそうだった。腰には2本の細身の剣が差してあった。


「一通り挨拶は終わったね。で、占ってもらいたいのは誰だい?」

「私です。母の行方を捜してもらえないでしょうか?」


ルーシーの問いにティーナは答える。


「母親の行方だね。了解。それと、敬語じゃなくていいよ。堅苦しいのは嫌いなんだ。」

皆もそうして欲しいとルーシーは言ってから、話を戻す。

「それで、ティーナ。母親はいつ頃いなくなったのかわかるかい?」

「えぇ。…7年前よ。」

「それはまた随分時間が経ってるんだね。」

驚くルーシーの言葉に、ティーナはうつむき今にも泣き出しそうだった。

「わ、悪い。責めている訳じゃないんだ。」

「いえ、私の方こそ…」


 困ったようすのルーシーにティーナは首を振って答え、話を続けた。


 ティーナの話をまとめると、このあたり一帯を治める「フローウェイ王国」でティーナの母、シェリナ・ロヴェミナは、一級魔導士を務めていたそうだ。国王の護衛も任されるような人物だったそうなのだが、7年前のある日、王命を受け「水晶の遺跡」へと向かった。そして、そのまま戻ってこないということだった。

 当時、ティーナはまだ8歳の子供で母親を探したくてもできなかったそうだ。母親を探すため、冒険者になれるよう魔道の勉強をして、やっと最近、冒険者として登録ができたそうだ。それで、ルーシーの占い屋で情報を集められないかと訪ねてきたらしい。旅を共にしてくれているライトとチェルはティーナの幼馴染で、彼らもまたティーナの母親を探すために色々努力していたそうだった。その際にフローウェイの国王より、剣術の指導者としてカルムが紹介され共に旅をしているということだった。


「水晶の遺跡って言ったら、魔光石(まこうせき)が保管されてるところだったね。」


ルーシーの言葉にティーナは頷いた。


 世界はこの魔光石によって、均衡を保っている。摩光石には「火・水・地・雷・風・闇・光」の7つ存在し、水晶の遺跡には地の魔光石があるといわれていた。

 7つの魔光石がそろうとき、世界を統べる力を手に入れ世界の覇者となる。

と言われる「統一の書」


 そしてもう1つは、7つの魔光石が破壊されたとき、魔光石によって保たれていた世界の均衡は崩れ、水は枯れ、大地は荒れ果て、世界は破滅の道を辿るだろう。

と言われる「滅びの書」


 この2つの書が世界で共通に語られているのだった。その中の1つが水晶の遺跡に保管されている。だが、それも今は行方知れずになっているということだった。失くなったはの地を司る魔光石。それについても調べるようにと、国王からの依頼があったとティーナが説明してくれた。


「何か母親に関する品を持ってないかい?」

とりあえずは、母親の行方を探す方を優先するということだったので、ルーシーはティーナに問いかける。

「…これはどう?」

ルーシーの言葉にティーナは、耳につけていたイヤリングを取り外して、手の上に乗せて見せた。

「母が身に付けていたものよ。水晶の遺跡に落ちていたらしいわ。」


 説明を聞きながら、ティーナからイヤリングを受けとると、ルーシーは目を閉じて意識を集中させた。


 ルーシーの目に映るのは、水晶の遺跡だった。そこは、地の魔光石が置かれている部屋だった。身に付けられたイヤリングから見る視界だったので、ティーナの母、シェリナの顔は見えない。


 シェリナは魔光石の前まで行くと、その存在を確認して安堵の息をつく。だが、その時、彼女の後ろに何かの気配が生まれ、慌てて振り向くシェリナ。目の前に映る人物に見覚えのあったルーシーは、ハッとした。

 その衝撃で時間が進む。ルーシーの占いの力はまだ不安定で、ちょっとした衝撃で変化してしまうのだった。

 次に視界に映ったのは、ライト、カルム、チェルの姿だった。3人は心配そうにこちらを見ている。そして、視界の端に捉えたのは、ティーナに似た姿をした人物だった。だが、彼女のような優しさを感じられない。『ロージー…!!』と叫んだのはカルムだった。名を呼ばれた女が何か言葉を続けるが、ルーシーは意識を引き戻されてしまった。


 ルーシーの目の前に映ったのは、心配そうに見つめるティーナだった。


「大丈夫?」

「あぁ、悪いね。占いするとこうなっちまうんだよ。でも、もう大丈夫。」


 ニッと、笑って見せるルーシーはどうしようかと内心悩んでいた。見えたのは過去と未来の出来事だ。信じてもらうには、あまりにも情報が少なく、突飛(とっぴ)な内容だった。

それに確認したいことができたルーシーは、見たことは伝えずに、ティーナに問いかける。


「そこの遺跡に行くことはできるかい?」

「え?…えぇ、おそらくは大丈夫なはず。母を探しに行った兵士たちは、帰ってきているから。ただ、なにも手がかりがなかったと言っていたから、私たちが行っても…」

「なーんだ、占えないのかよ。」


 戸惑う様子のティーナに代わり、先ほどから黙ってやり取りを聞いていたチェルが、頭の後ろで手を組んでつまらなさそうに言った。


「占えないとは言ってないでしょーが。」

ルーシーは気分を害した様子もなく答える。


「人探しってのは、その人自身を占えないから難しいんだよ。失くした物を探しているのであれば、持ち主の記憶を辿って探すことができる。盗まれたものなら犯人の手がかりを持ってくれば居場所を見つけ出せることが多いけどね、忽然(こつぜん)と姿を消した人物を探すってなるとね…悪いけどこれじゃ足りないよ。」


 そう言って、ルーシーは手にしていたイヤリングをティーナに返した。


「じゃあ、水晶の遺跡に行けば、手がかりを見つけられるってことだよね?」


 ルーシーの言葉にライトがバンっと机を軽く叩いて立ち上がると、今すぐにでも出発しようと言う勢いで言った。


「ちゃんと話聞けよ、ライト。占うのが難しいって話をしてるんだろーが。」

「あんたもだよ、チェル。…遺跡に行くなら、何か手がかりが得られるかもしれないよ。」

「だが、どうやって占うつもりだ?必ずしもティーナの母親に関連する物があるとは限らない。むしろ、そのイヤリングでもダメなのだろう?兵士が一度遺跡に行っているんだ、それ以上の物があるとは思えない。」


 ルーシーの言葉に、今までずっと黙っていたカルムが口を開いた。


「遺跡になら関連してるものいっぱいあるじゃん。壁だってなんだって。」

「そんなもので占えるのか?」

表情は変えないが、ルーシーの言葉にカルムは驚いているように見えた。ルーシーの目的は違うところにあったが、嘘は言っていない。

「本当は強い想いが込められたものの方が占いやすいんだけどね。出来ないことはないよ。ただ、遺跡の場合は入り口の壁って訳には行かないから、母親が進んだであろう最深部まで行かなきゃ行けないけど…。聞いたからにはできる限りのことはしたいとだよね。」

「ありがとう!ルーシー!!」

「遺跡に向かうなら、まずは国王に謁見し許可が必要だ。」

「カルムの言うとおりだな。ただ、これからフローウェイ王国に戻るのもなぁ…」

「えぇ!!?」

チェルの言葉に「戻らないのっ!?」と言うライトにチェルは「お前なぁ…」と、呆れた様子だった。

「夜動くのはあぶねぇんだよ。モンスターも活発になる時間だし。」

「チェルの言うとおりだよ。今日はうちに泊まっていきな。それで早朝出発しよう。」


 ライトたちはルーシーの言葉に甘えて、その日は家に泊めてもらうことにしたのだった。

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