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14.想い

カルムたちはひとまずウォータニンフへと戻って来ていた。宿を取り、一つの部屋に集まる。


「俺、理解できてねぇんだけど…一度説明頼むわ。」

そう切り出したのはチェルで、隣にいるライトもまた強くうなずいていた。

「そうだな…」

カルムもまたそう言うと、頭の整理がしたかったのだろう、順を追ってここまでの話をまとめる。

「まず、ルヴェルディに確認しながらになるが…ルーシーが森にお前を探しに行って、無事に再会できた。これは、合っているか?」

「うむ。」

「そこで、揉めたんだろう。」

「そうじゃ。」

「なんでそこで揉めるんだよ?」

チェルが訳が分からないと言うのに、カルムが呆れたように返す。

水月(すいげつ)の民だと僕たちに正体をバラしたとでも、ルーシーは言ったんだろう?」

「主は鋭いのぅ。」

「だから!何でそれで揉めるんだよ?」


チェルが混乱しているようだったので、ルヴェルディはルーシーとどんなことを話したのか説明する。


「そうか…俺たちにとって水月の民がどうとか気にならなくても、本人が気にするってこともあるのか。」

と、納得したように頷く。それを聞いて、ルヴェルディは思わず苦笑してしまう。こんな考えの奴もおるんじゃと。


「それで、揉めた後に私たちのところにルヴェルディさんが来たのね。」

「呼び捨てで構わんよ。」

ティーナの言葉にルヴェルディは頷く。

「それで、ルーシーが現れたのを見てわっちはこれは良いと思い付き、幻術をルーシーにかけたんじゃ。わっちが主らに殺されるところを見れば、人間と距離を置くだろうと考えたんじゃよ。」

「だが、それをロージーに利用された。」

カルムの言葉にルヴェルディは辛そうな悔しそうな表情をして頷いた。

「わっちが浅慮(せんりょ)じゃった。ルーシーがせっかく忘れていた傷を、わざわざ掘り起こしてしまった。少し考えればルーシーにとって辛い過去を思い出させるだけじゃと、分かりそうなものなのにのぅ...。」

「...あの、ルーシーの過去には何が...」

ティーナが遠慮がちに問うとルヴェルディは顔を上げて、全員を一度見るとため息をついてから口を開いた。

「あやつの両親はあやつの目の前で人間に殺されたんじゃ。」

「!?」


ルヴェルディは昔、人間に変装してよく旅をしていた。その時に、たまたま寄った小さな村でルーシーを見つけたのだ。彼女は死んでもなお、晒し者にされていた両親の前で泣くこともなくただ佇んでいた。瞳には光がなく、何も映っていないようだった。そのまま放っておいたら、ルーシーも村人に殺されそうだったので、ルヴェルディが引き取ったのだ。まぁ、無理やり攫ってきたという方が正しい。

どうやら、両親はルーシーを人質に取られて抵抗もできずに殺されたようだった。そのことをルーシーはずっと気にしていた。

それでも、時間が少しずつ彼女を癒していた。そして、今では人間と一緒に旅ができるくらいに彼女は回復していたのだ。

それを、ルヴェルディが思い出させてしまったのだった。人間の汚く醜い部分を。


「話が逸れてしまったのぅ。」

やれやれと長生きすると話が長くなっていかんと、ルヴェルディは立ち上がり固まった腰を伸ばす。

「ルーシーはわっちの見せた幻術を信じ、心を壊してしまった。そこを、ロージーに付け入られてしまったのじゃろう。ルーシーは今、ロージーに心を操られておる。」

「心を操るって魔法か何かなのか?」

チェルの言葉に、ルヴェルディは首を横に振る。

「まずは、水月の民の話をせんといかんかの。わっちら一族は、人間と違って寿命が長く、高い魔力を持っておる。特に水の力に長けており、水の精霊と対話ができる。これくらいは知っておるじゃろ?」

「ああ。」

代表してカルムが返す。

「それからのぅ…必ず何らかの特別な力を持って生まれるんじゃ。わっちの場合は、全系統の精霊との対話と、その力を借りることが出来る。ルーシーのは知っておるじゃろうが、触れたものの過去と未来を見ることが出来る。」

ルヴェルディはここで一度区切ると、一呼吸置いてから続けた。

「そして、ロージーの能力は他人の心を操ることなのじゃ。」

「!?」

ライトとチェル、ティーナは驚き、何も言えずにいる。そこに、カルムの言葉が続いた。

「ポルタヴィアでも、領主の妻がロージーに心を操られて、雷の魔光石を奪われてしまった。それに、パラディアの火の魔光石もな。」

「お前、何でそんなこと知ってるんだ?」

カルムの言葉を聞いて、チェルは生まれた疑問をぶつける。すると、カルムは黙ってしまい、しばしの沈黙が支配する。


「…僕は、ポルタヴィアの領主の義弟だ。」


「おいおい、まじかよ…」

「えっ?何?カルムって偉い人なの?」

「姉が領主と結婚したから、そうなっただけで特に何か継ぐ訳じゃない。」

「…でも、なるほどな。だから、ポルタヴィアや近隣国の情報を知ってた訳なんだな。色々分かってきたぜ。」

「よく分かんないけど、人の心を操るのはダメだよね!必ずロージーを止めよう!」

ライトの張り切り様にチェルが気楽でいいなと、ライトの方を羨ましげに眺める。


「止めるったってどうするよ?」

「主らはロージーの言っていた、白銀の遺跡を知っておるかや?」

チェルの言葉に、ルヴェルディは彼の方を見て問う。

「ああ、聞いたことはあるぜ。確か、フローウェイ王国のさらに北にあるって話だったよな?」

「そうじゃ。そこでならば魔を避ける魔法陣がある。それを使えば、お前さんの母親とロージーを引きはがせるじゃろう。そうすれば、ルーシーの心も戻ると思いんす。」

「母も助けられるんですか!?」

「あぁ、おそらくじゃがな。ただ、魔法陣の中にロージーをおびき出さんといかん。あやつらの狙いはわっちの持つ水の魔光石と白銀の遺跡にある光の魔光石じゃ。で、光の魔光石は、水月の民でなければ手に入れることが出来んのじゃ。じゃが、あやつは今、人間と融合しており半端者じゃ。おそらく、光の魔光石を手に入れるのにもルーシーを使うじゃろうな。そして、それはわっちらがたどり着く前に奪われておるじゃろう。この水の魔光石が最後の砦じゃの。」

首に掛けられた麻紐を引くと、小さな袋が懐刀から出てきて、ルヴェルディの手に落ちる。

「これでうまく隙を作って、わっちが魔法陣を発動しんす。」

「隙を作るって…そううまくいくか?」

「上手くいくかじゃなくて、どうやってでも上手くやらねばならん。残りの魔光石は水と光だけじゃ。あやつらの手に渡ったら世界の終わりじゃぞ。」

ルヴェルディの言葉にチェルがぶるっと身を震わせる。

「おいおい、何だか飛んでもねーことになって来てるじゃねーかよ。」

「仕方ないじゃないか…俺たちで何とかしないと!ティーナのお母さんも取り戻さないといけないし…ねっ!」

「そうね、私たちがやらないといけないのよね。…頑張りましょう!」

本気かよと、2人の様子を見て頭を抱えたチェルだったが、少ししてバッと顔を上げる。

「あーもー、乗り掛かった舟だ!やってやらぁ!」

やる気を出すライトとティーナに俺もやるしかないと意気込むのだった。




「何じゃ?眠れんのかや?」

そう声をかけてきたルヴェルディに、カルムはチラリと視線だけを送ると、すぐに目の前の湖に目を戻した。

「やはり、精霊は戻っておらんのぅ…」

湖を見てルヴェルディは言葉にしたが、返事はなく静かな時が過ぎる。

「主、ルーシーのことを好いておるのかや?」

「なっ…!?」

「おーおー、その慌てぶりは肯定と捉えて良いかのぅ。」

ニヤニヤと笑うルヴェルディにカルムは諦めたように、ため息をついて湖に視線を戻す。

「だったら、なんだと言うんだ…止めるか?」

「…ふん、思いを止めることはできんよ。」

ルヴェルディの表情は一転し、何か思うところがあるのか忌々しそうに返す。

「まぁ、邪魔はするかもしれん。」

ルヴェルディの言葉は本気のようだった。まだ、人間を信用できない部分があるのだろうとカルムが思うと、ルヴェルディはそれを読んだのか言葉を続けた。

「主らを信用してると言ったら嘘になるが、信用しようとは努力しておる。主らのバカが付くほどのお人好しさは見たからのぅ。」

一度区切ると、湖へと視線を戻したが、彼女は湖ではなくどこか遠くを見ているようだった。

「…寿命の差は埋められん…。わっちはルーシーの悲しむ顔は見たくないんじゃ。」


人間と水月の民は、あまりにも生きる時間が違いすぎる。人間の寿命は長生きしたとしても100年はいかない。それに比べて、水月の民は長生きだと1000年は生きる。この差はどうやっても埋められないのだ。カルムがいくら天寿を全うしても残り100年はない。ルーシーはまだ800年は生きれるのだ。

生きるものに必ず訪れるのが死。だが、この差はあまりにも長く、残される方には残酷なことだった。


カルムも考えてない訳ではなかったが、だからと言ってこの思いが止まるわけでもなかった。その悩みを感じ取ったのだろう、ルヴェルディは優しく微笑むとカルムの頭にポンッと手を乗せる。

ルヴェルディの方が身長が低いので、背伸びをしているのが何だか滑稽だと思いつつもルヴェルディは優しく頭を撫でる。

「なにを…」

「今はあやつの涙を止めてやって欲しい。」

恥ずかしいから止めろとカルムはその手を振り払おうとして、ルヴェルディが続けた言葉にその手を止める。

「…。」

「2度も泣かせてしまったからのぅ。」

ルヴェルディが言っているのは、幻術を見せた後、話を聞いてほしいとカルムが叫んだときと、ロージーに連れていかれる前のときのことだった。彼女は確かに涙を流していた。おそらくあの状況で気づいたのはこの2人だけだっただろう。


「…あぁ。」

カルムの声は湖に溶けて消えてしまった。

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