11.裏切り
今回の話は残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。
ルーシーが村に着くとルヴェルディの姿はなく、待つように言っていた宿屋にライトたちの姿もなかった。店主に彼らがどこに行ったか尋ねると、森の方に4人そろって出かけたと言われ血の気が引いた。村の中にいた方が安全だと思っていたのだ。さすがのルヴェルディも人目に付く場所で、戦闘はしないだろうと考えていたのだ。だから、時間が稼げるかと思っていたのに、まさか彼らも森に入っているとは誤算だった。これでは、ルヴェルディに見つかり次第戦闘が始まってしまう。ルヴェルディは魔法に関しては一族の中で群を抜いている。カルムたちがすぐさま殺されるとは思っていないが、長引けば分からない。ルーシーはカルムたちを探しに再び森へと向かうのだった。
「ルーシーの奴どこまで行ったんだぁ?」
「迷子になってないと良いけど…」
チェルは疲れてきたのだろう、はぁとため息をついて膝に手を置いた。その隣にいたティーナが不安そうな顔で森を見渡す。
ガサッ…
「ルーシー?」
草木を踏み分ける音が聞こえ、ライトがそちらへと向かおうとするのをカルムが止める。そして、カルムは鋭くそちらを睨んだ。
「誰だッ!」
「…。」
現れた相手は外套を羽織りフードを目深に被っており、表情すら見えない。カルムの言葉に返答はなく、目の前のその人物は片手を横にフッと横凪に払った。すると、竜巻が生まれ先頭にいたライトとカルムを襲う。カルムは剣を地面に突き刺して、飛ばされないようにしたが、ライトは吹き飛びチェルを巻き込んで気に激突する。
「ッてぇ…」
「ご、ごめん。」
チェルが苦痛に顔をゆがめ、ライトが謝り退くと、すぐに各々の武器を構えて魔法を発動した相手と対峙した。
「なんだてめぇ!やろうってのか!?」
「くふッ…人間はやはり野蛮じゃの。」
チェルの怒気に笑って答えたのは、女の声だった。カルムは気を抜くことなく、女を睨みつけたまま口を開く。
「魔法で攻撃する方がよほど野蛮だと思うが?」
「このくらい可愛いものじゃ。主らがルーシーにしていることを考えればのぅ。」
「ルーシーを知ってるの!?」
女の言葉にライトが驚きの声を上げて、なぜ攻撃するのかと聞くが返答はなく。再び手を横凪に払った。すると今度は氷の矢がいくつも生まれ、ライトたちに襲い掛かる。それを剣で薙ぎ払い防ぎきると、女は何やら呪文を唱え始める。唱えさせないようにと、ライトたちが止めようと駆け出すが、魔障壁に阻まれる。
「お前たちがおると、彼女に悪影響じゃ。悪いけどここで死んでもらいんす。」
「おいおい、ちょっと待てよ!!」
女の言葉に訳が分からないとチェルが慌てるが、女は無視をして魔法を発動させた。生まれたのは光の珠、前にルーシーが武闘大会でドゥクルスたちを追い払ったときに使っていた魔法だった。あの時は優しい光に包まれるような感覚だったが、今は違って光が眩しく肌がピリピリする感覚があり、飲み込まれたらケガでは済まないだろうと予想できた。光の珠は勢いよく広がり、カルムたちを飲み込もうとする。
「闇よ!」
力ある声とともに光と対抗するように闇の珠が生まれた。闇は光を飲み込むと弾けるようにして消えてしまう。
「ルーシー!!」
「お前どこ行ってたんだよ!」
目の前に現れた人物の名をライトが叫び、チェルは不満そうに文句を言うと、ルーシーは振り返り少し困ったような笑顔を見せる。
「ちょっと、トラブルになって…」
「もう、見つかってしまったかや。見つかる前に始末したかったのにのぅ。」
「ルヴェルディ!いくらあんたでも、仲間を傷つけるなら容赦しないよ。」
ルーシーの言葉に、ルヴェルディは口元を弓なりに曲げてニヤリと笑う。そして、呪文を唱え始める。ルーシーは何が来ても良いように防御魔法を唱えた。ルヴェルディの魔法が完成すると、ピリッと静電気が走る。雷が落ちると確信したルーシーは防御魔法を発動させる。
雷が予想通り全員の上に落ちるが、防御魔法ですべて防ぎ切った。
「まだ、やるつもり?」
分が悪いでしょ?と、ルーシーが続けようとして、その横を槍が勢いよく飛んで行く。ルヴェルディはそれを半身引いて躱すが、槍の風圧が強くてよろめいた。ルーシーが慌てて後ろを振り返ろうとして、その横をカルムとライトがすり抜ける。
「ま、待って!彼女を攻撃しないでっ!!」
ルーシーは叫ぶが誰も止まらず、ルヴェルディとの間合いを一気に詰めると、手にした剣で攻撃をする。
「カルム!ライト!攻撃しちゃダメ!!」
「何で?」
「え?」
叫ぶルーシーは後ろから返ってきた言葉に振り向くと、ティーナがすぐ後ろまで来ていた。
「何で攻撃しちゃいけないの?」
「か、彼女は私の親代わりで大切な人なのっ!」
「でも、水月の民なんでしょ?」
「えっ?」
ティーナの言葉にルーシーは頭が真っ白になった。
「水月の民は殺さなきゃ。」
「な、なんで?」
「理由なんているの?あいつらは生きてちゃいけない存在なの。」
「じ、じゃあ、私は!?私はどうなるの!?」
「ルーシーはルーシーでしょ?殺さないわよ。」
そう言ってにこりと微笑むティーナ。いつもならその笑顔に癒されていたが、今は恐怖でしかなかった。
ギャッ!
ティーナとの話に夢中になっていたルーシーはその声に振り返ると、顔から血の気が引いて行くのを感じた。
彼女の目に、腕を切り落とされたルヴェルディの姿が映る。
「い、いやあぁぁぁ!!!」
ルーシーの悲鳴は誰にも届かず、森にこだまするだけだった。無我夢中でルヴェルディを助けようと駆け出すのを、チェルが腕を引いて止める。振り払おうとしても、力強く握られた手は離せなかった。
「放してッ!!」
「なんでだよ?ありゃあ、水月の民だぜ。当然の報いだろ?」
「チェル、本気で言ってるの!?」
「ああ、水月の民は滅んで当然のことをしてきた。…ほら、次は足が落ちるぞ。」
言われてルヴェルディの方を見ると、カルムによって足が撥ねられるところだった。片腕と片足を失ったルヴェルディは這うようにその場から逃げようとして、残された腕を剣で突き刺される。もう悲鳴は声にならず、叫びのような呻き声が森に響く。
それを見てルーシーは力なく崩れ落ちた。もう、彼女は助からない…と、ルーシーは確信していた。
もう片方の足もライトによって切り落とされた。
この悲惨な光景に、全員が笑っていた。殺しを楽しいと思っているのだろうか。
やはり人間は狂っている…。
ルーシーはそう思った。
彼女がそう思ったのと、ルヴェルディの首が落ちるのが同時だった。