プロローグ : 鎖なき2人の「春」
春は何はなくとも心が沸き立つ。よく晴れていて暖かい日であった。ひだまりの匂いと程よい気温。日向ぼっこでもしながら読書に耽るくらいが丁度良いくらいの穏やかさ。
しかし、兎美はそわそわしていた。前髪を整えるのは、もう何度目かわからない。
今日は4月6日。旭 兎美の誕生日である。昨年のクリスマス、彼女は友人である永坂 忠直とこの日に遊びに行く約束をした。
2人は本の貸し借りのために定期的に会う約束をしていたが、実はクリスマス以来1月に一度会ったきり、兎美は忠直に会っていない。それは、彼が事件の処理やまた少し面倒なことに巻き込まれたらしく、忙しくなってしまったからだ。
たまにメッセージでのやり取りはしていたが、会うのは約3ヶ月ぶり。迎えに来てくれるという彼を待つのに、1時間前からそわそわし始め、30分前には家の前で立っていた。
気遣い屋の彼は、早すぎるくらいに来ることはない。大体15分前を目安に来るだろう。だが、兎美は待ちきれなかったのだ。
自分が浮かれていることはわかっていた。2日前のことである。
「え!永坂さんとデート!?」
偶然、その日、兎美は友人で医者の榊 惣一の助手である中野 すみれとランチをしていた。
その話の流れでそういえば、と誕生日の話になり、ついでにぽろりと忠直との約束を彼女に漏らしたのだ。
「そ、そそそ、そんな美味しいことになっていたなんて!服は?メイクは?考えてます?」
前のめりになるすみれを押し留めて、兎美はとりあえず誤解を解く。
「あの、デートじゃないです。ナオさんとは、そんなんじゃないので。」
その言葉はあまり重視されずに流された。すみれはこうしてはいられません!と叫んで兎美の手を引いて、そのまま街へ繰り出した。
「いいこと?女が男のギャップに惹かれるなら、男もまた女のギャップに惹かれて然るべし!いつもは着飾らないあの子が自分のためにおしゃれするだけでも嬉しくなるものです。さ、彼の好みは?恋愛遍歴は?ご趣味は!?」
すみれに捲し立てられて、兎美は気圧されて知ってることは全部吐いた。とはいえ、彼女は忠直の女性周りの事情はあまり知らない。そこですみれはなんと惣一に連絡したのだ。
『え、何それ。何で俺の預かり知らない間にそんなことになってるの!?』
彼の第一声はそれで、納得いかないようであった。しかし、すみれに一瞬で「榊さんの事情はどうでもいいので。」と一蹴され、その勢いに彼も気圧されたのか、面白がったのか、ざっくりと傾向と対策を教えてくれる。
「なるほど……。あまり女性を雰囲気で選ばない方なんですね。ならば、兎美ちゃんらしさを生かすのが一番!さ、行きましょう。私が最高に可愛い姿で送り出してあげますから!」
引き摺り回されながら、兎美はすみれの奥に惣一を感じた。この2人、少し似ている。
結論としては、黒地に黄色い花柄のワンピース、カーディガン、パンプスといった装いになった。スカートをあまり履くことのない兎美は顔を引き攣らせる。
「あの、すみれさん。似合いますかね。」
頰を染めて俯く兎美を見て、すみれは満足そうであった。
「とってもお似合いですわ!はー、ほんと、そもそも可愛らしいんですもの。永坂さんが羨ましい。」
慣れない格好に、化粧を教え込まれた脳味噌はパンクしそうで。目を回しながらもすみれに深々と頭を下げてお礼を言うと、「健闘を祈ります!」と敬礼されて送り出されたのだった。
(デートでは、ないはず。……気合い入れすぎかな。)
すみれに言われた通り、薄めに化粧をして慣れない服に袖を通した。自分が自分じゃないようで、鏡を見るたび脱ぎたくなる。だから、早く家を出てしまった。
兎美はあまり自分の服装にこだわりがない。化粧も口紅程度で、忠直とも今までほぼすっぴんで会っていた。だから、たぶん彼は何もしていなくても何も言わないのだろう。それでも。
(……褒めてくれるかな。)
そう期待している自分は少し恥ずかしい。でも、褒めて欲しい。兎美は楽しみでもあり、緊張もしていた。
「おはよう、旭。」
後ろから声をかけられて兎美は肩を跳ねさせる。
「ひゃっ、お、おはようございまし!」
声から誰であるかはわかっていたのに、思わず噛んでしまった。恐る恐る振り向くと、忠直は笑いを堪えている。ムッとして肩を殴ると、悪い、と謝られた。
私服の忠直はやはり見慣れない。兎美はどぎまぎして、なぜか彼の顔を見れなくて、また前髪を触ってしまう。それを見ながら、忠直はいつになくにこにこしていた。
「前髪、そんなに何回も直さなくてもおかしくないぞ。」
は。兎美は固まる。目の前の彼は悪戯っぽく笑っている。
「い、いいい、いつから!?いつから見てたんですか!?」
5分くらい前。淡々と言われて、兎美は真っ赤になった。
「随分と可愛らしくめかし込んできたな。よく似合っているよ。化粧までしてきたのか。」
は。顔を覗き込まれた彼女は再び固まる。仏頂面がポーズで、こちらが振らなければ口数も多くない忠直。そんな彼が、さらりと歯の浮くような台詞を吐いた。兎美は一周回って冷静になってしまう。
「……ええと、疲れてます?」
その冷めたトーンに忠直は兎美から目を逸らして、喉の奥でくっくっと笑い始めた。
「そうだな、浮かれてはいるかもしれない。久しぶり、旭。お誕生日おめでとう。」
確かに、声のトーンも表情も、いつもより楽しそうである。他人から見ればわかりづらくはあるが、兎美には十分伝わった。
そのため、その仕草や言葉をよく噛み砕いた彼女は、遅れて真っ赤になる。ちょっと待ってください、と忠直に頼んで、深呼吸をする。
忠直が案外素直であることを兎美は知っていた。特に気を許している兎美相手だと、それは最早遠慮を知らない。
(ナオさんは何も考えてない、ナオさんは何も考えてない……。)
頭の中で言い聞かせながら、兎美は勝手に走り出した心臓を落ち着かせる。顔色を1ミリも変えていない横の男に他意はないのだ。きっと、誰にでも。
(誰にでも……。それこそ、昔の彼女さんとかにもこんな感じだったんだろうか。)
無意識に忠直を見上げた。もや、と胸の中に嫌な感じが込み上げてきて、兎美はぶんぶんと激しく頭を振る。
(そもそも、そんなんじゃない。そんなんじゃないから。)
1人で言い訳をしてため息をついた。忠直は何も言わずにじっと待っている。
「すみません、落ち着きました。行きましょう。」
彼女の言葉に忠直は頷いた。
今日は2人で映画を見に行く予定である。忠直に少し前に勧められた本が原作の映画が、ちょうど数日前に公開されたのだ。
彼が何でも読むし映画も観るということは、事件に巻き込まれて彼と過ごした1ヶ月の中で兎美が得た情報の一つである。
真面目な忠直は、最初のうちは兎美と繋がれている期間はずっと仕事中だと考えて張り詰めていたが、兎美が風邪を引いたときくらいから少し態度が軟化した。
風呂上がりにどちらから始めたわけでもなく、ソファの上でダラダラする時間が生まれたのだ。勤務時間外は、忠直が素の顔を覗かせるようになった。
その際、なんて中身のない話で盛り上がることもあれば、2人でテレビをぼーっと見ながら一言二言というときもあり、そのときに彼が映画も息抜きにしているということを知ったのだ。
「映画館で観るのは久しぶりだ。」
電車に乗り込んだ2人は、ドアの近くに立って外を眺めながら会話を楽しむ。平日の昼前なので、車内は比較的空いている方だった。
「そうなんですね。いつもは?」
兎美は忠直を見上げる。
「人に誘われたら行く程度だな。もっと行きたい気持ちもあるんだが、如何せん忙しさにかまけて後回しになってしまうことが多い。こうして誘ってもらえるのはありがたいよ。」
彼らしい回答であった。忠直は自分のしたいことの優先順位がかなり低い。兎美は苦笑した。
「なら、観に行きたいものがあるときはあなたから誘えばいいんじゃないですか?人が絡んだら動きやすいんでしょう。」
兎美の意見に確かに、と忠直は頷く。
「じゃあ今度は俺が誘うか。」
その言葉に兎美は一旦頷いたが、すぐに目を丸くした。今の言葉が自分に向けられたものだと、遅れて気づいて驚いたのだ。
「え、私ですか!?」
変なことを言っただろうか、と彼は首を傾げる。
「俺の友人に映画にまともに付き合ってくれるやつは少ないんだ。良くも悪くも正直なやつばかりでな。隣を見れば寝てることが多い。そういえば、誘ってきたのに寝た奴がいたな。」
その点、兎美は映画の展開に一喜一憂して、すごく楽しそうにするのだ。忠直の中で、そういうところの彼女への信頼は厚い。
「旭は俺のペースを待ってくれるからありがたい。」
一見正反対の2人ではあるが、共同生活の中で苦痛を感じたことはお互い少なかった。踏み込んではいけない部分に2人とも敏感だった、という点もあるが、互いの努力もそこにはちゃんとあった。
「そう、ですかね?私の方が合わせてもらってばかりな気もするんですが。」
2人の関係は偶然から始まった。喫茶店勤務と異能対策局の職員という全然共通点のない2人。兎美は偶然、夜の公園に居合わせ、忠直と約1ヶ月の共同生活を強いられることになった。
「もし、ナオさんじゃなかったら、榊さんに手首切り落としてもらってでも逃げてましたね。」
しみじみと言うと、忠直は苦笑いを浮かべる。彼にはその方法を惣一を脅してでも実行しようとした前科があった。未だに少し気にしているのだろう。
「あなたが誘ってくれるのなら、いつでも行きますよ。って、今日も始まったばかりなのにもう次の」
その言葉を遮るようにガタン、と電車が揺れた。そのときに人にぶつかられて、兎美はよろける。そこまで高さはないが、踵のある靴を履いていたのだ。
その腰を忠直が支えた。ぶつかって申し訳なさそうに頭を下げた人に会釈して、彼女を自分の傍に寄せる。
「大丈夫か?慣れない靴だもんな。」
近づいた距離に心配してくれる声。兎美ははわ、と視線を彷徨わせた。
「だ、大丈夫です。すみません、不注意でした。」
取り乱した彼女はさっきよりも危なっかしい。忠直は苦笑すると彼女の腰から手を退けて、空いている手を取った。握られて目を丸くする彼女に忠直は淡々と告げる。
「転ばないようにな。」
その忠告の後にすぐガタン、と電車がまた揺れて兎美の体も揺れたが、今度はよろけなかった。繋いでもらった手がちゃんと支えてくれている。
「ありがとう、ございます。」
自分が親に手を引いてもらう子どものようで恥ずかしくなりながら、兎美は素直にその手に頼った。
電車を降りて、映画館の入った建物はすぐ近くにある。2人はぱらぱらとした人並みの中を歩いた。
「映画まで微妙な時間ですね。ナオさんは上映まで予告どのくらい見る派ですか?」
生返事をされて、兎美は忠直を見上げた。…なぜか目が合わない。違和感を感じて訝しげな顔をすると、彼は少しだけ言いにくそうに、困ったように彼女に言った。
「旭、手。」
言われて気づく。電車の中からずっと手を繋いだままだったのだ。たぶん彼のことだから一度解こうとしたのだろう。でも、兎美が気づかなかったので、駅の人並みを抜けるまで何も言わなかったらしい。兎美は慌てて手を離した。
「ご、ごめんなさい!違和感がなくて!」
今更彼の手の熱を反芻して赤くなる。忠直は俯く彼女をじっと見つめた後、冗談めかして言った。
「それなら、言わない方が役得だったか。」
はにかまれて兎美は何も言えなくなる。
「俺は予告に関してはこだわりがない派だ。どこか寄りたいところがあるなら寄って、ないなら向かおうか。」
今度は兎美が生返事をすることになった。
映画は無難に面白かった。原作を知っている2人でも、その演出でハラハラさせられたし、映画の途中兎美はちょっと泣いた。それから、感想でも話すために、どこかに入ろうということになる。
「あ、それなら気になるお店が近くにあるので行きたいです。」
そこは、和洋折衷モチーフの喫茶店であった。店員さんの格好もそれに寄せられていて雰囲気が可愛らしい。
ちょうど空いている時間だったらしく、中には2、3組程度でいい具合の賑やかさであった。
店員さんが持ってきてくれたメニューを開いて、兎美は眉間に皺を寄せる。どれも気になるのだ。
「……すみません、2つまでは絞り込めたんですけど、これとこれが……。」
お団子にしようとまでは決めたものの、磯部かあんこで悩む。真剣なその様子に忠直は微笑ましく彼女を見守った。しかし、どうしても決まらない。なので彼は助け舟を出すことにした。
「なら、俺が片方頼もう。それでいいか?」
彼女はきょとんとして、逆に彼にそれでいいのか、と目で訴える。忠直はくっくっとその必死な形相を笑うと、店員さんを呼んだ。
忠直が磯部、兎美があんこにした。この店の看板メニューがみたらし団子らしく、お団子セットはみたらしと何か、そして緑茶という感じになっていた。
「ん。」
忠直は彼女に磯部の方を差し出す。兎美が食べたがっていたものだ。ありがとうございます、と普通にお礼を言って食べようとして兎美はハッとして固まる。この行為。
「……どうした?まだ口をつけていないから問題ないと思うが。」
そういう問題ではない。いや、それも問題だが。気づかないのか、と目で訴えるが、実はしれっと何回もしていることであったので、忠直は何も気づかない。
この行為、いわゆる『あーん』である。彼との距離感がすっかりおかしくなってしまっていることに兎美は心の中で頭を抱える。
しかし、磯部は食べてみたい。彼女は意を決して口を開けた。パリ、と海苔の心地良い歯触りと焦げた醤油のいい匂い。美味しいはずなのになぜか味がわからない。とりあえずもごもごと咀嚼だけはしてみる。
そんな彼女をよそに、目の前の男は平然と串を引っ込めて、普通に自分の口に運んだ。もぐもぐと彼の口が動く。このあたりで、兎美は本当に味がわからなくなる。
真っ赤になって固まっている兎美の方を見て、忠直は何かに気づいたように手を伸ばして、自分のおしぼりで彼女の口元を拭いた。
「ついてる。」
醤油が付いていたらしい。さらっと拭き取って、彼は皿に意識を戻す。
「美味しいな。」
この一連の流れで、兎美は全く動けなかった。なんか、これではまるで。だが、目の前の男はいつも通りの無表情。意識しているのは自分だけ。彼女は考えないようにして、何とか笑顔を作った。
「そうですね、美味しいですね。」
馬鹿らしくなってきて、自分も食べようと皿に目を移す。まだ手をつけてない2本の団子。そういえば、彼はあんこは食べていない。
こうなったら自棄だ。恥ずかしいのが自分だけなのは悔しくて、兎美は忠直にあんこの串を差し出した。
「……ナオさんも、どうぞ。」
なんとなく言い方がぶっきらぼうになってしまう。手が震えそうなのがバレないように、もう片方の手で支えた。
「いや、俺は。」
否定しようとして、忠直の目に兎美の耳が真っ赤なのが目に入る。そこで、やっと彼は自分のしたことを振り返り、公衆の面前で恥ずかしいことをさせてしまった、と申し訳なくなる。
目を瞑って耐えていた兎美が、彼が動かないことで恐る恐る目を開けたちょうどそのとき、串を持った手を掴まれて引き寄せられた。え、と漏らす間もなく、グッと一瞬だけ強く引かれて戻される。
「……ん、美味いな。ありがとう。」
薄く微笑まれて、兎美はもう耐えられなくて真っ赤になった。
「そ、それは、よ、良かったです。」
忠直はこれでおあいこか、とこっそり息を吐くと茶を手に取る。
その向かいで兎美は、自分の方に戻ってきたあんこの串に対して葛藤した。
(あんこに罪はない、あんこに罪はない。)
彼の薄い唇に、一度吸い込まれた串というだけで、嫌悪とはまた違う躊躇い。
兎美はギュッと目を瞑って、自分の口に入った串を平然と口に入れた忠直の様子を思い出して、何とかそれを口に運んだ。
(あ、めちゃくちゃ美味しい。)
甘さがちょうど良くあんこの舌触りが滑らかで、雑念を吹き飛ばしてくれる。もちもちと歯に返ってくる弾力は楽しい。とても美味しかった。
それで調子が戻ってきた兎美は、次の団子を慎重に引き抜いたところで、やっと忠直の顔を見ることができる。彼は兎美の満足げな顔を見つめて、嬉しそうに微笑んでいた。
「美味しいな、旭。」
兎美は見惚れかけて慌てて目を逸らす。何とか団子だけは取り落とさないように、口を手で押さえながら思い出したことが一つ。
(そういえばこの人、私の食べる顔見る習性があった。)
湯呑みを手に持ってこちらを眺めている忠直。慣れ始めていたはずだったのに、今日ばかりはどうしてもダメで、丸い目は伏せがちになってしまった。
「ナオさんも食べてくださいよ、もう……。」
やりきれない怒りをぶつけると、食べてるよ、と素直に返される。この店に入ってきてから終始落ち着かない兎美の皿より、彼の皿に残った団子は少ない。
「悪い、見過ぎだな。お前と食事するのは楽しい。」
素直なのはいつも通りだが、忠直の異性に対するガードというものが今日は極限まで低くなっている気がする。それを向けられる兎美は本当に勘弁してほしかった。
「そういえば旭、やっと俺の方が落ち着いてきてな。前に言っていた件でそろそろ異局に呼び出すと思う。」
前に言っていた件とは、兎美にしてもらわないといけない処理があるという話だろう。詳細は聞いていなかったが、何の話なのかはメッセージ上のやり取りでわかっていた。
異能対策局は『異能者』の管理を行っている。なるべくたくさんの彼らの情報を捕捉してこの先起こる犯罪に備えるためと、彼ら自身を保護するために、見つけ次第その『異能』と人物について登録するのだ。
兎美は未登録の『異能者』であった。事件の起こっていた1ヶ月はさすがに、丁寧に彼女のことを調べる暇も手続きをする暇もなく、そこらへんの事情は宙ぶらりんになっていたのだが、やっとそこまで追いついてきたらしい。
「4月はそこまで立て込むこともないので。このへんとか、あ、このへんも大丈夫です。」
兎美は手帳を取り出して、忠直に休みの日を示す。彼女は兄とともに喫茶店経営をしているので、わりと融通が効くらしい。
それを確認しながらメモしていた忠直がふと、ある一点を見て変な顔になる。それに気づいた兎美は、何か変なことを書いていただろうか、と自分の手帳を見た。4月6日、今日の日付に花丸がつけてある。
「……楽しみだったんだな。」
ぽつりと言われて兎美は真っ赤になった。もちろん図星である。手帳の中で、花丸なんてついているのはそこだけ。彼女は何も言えずにこくんと頷いた。それを見て、忠直は彼女からそっと目を逸らす。
そんな彼の反応に兎美は少しだけ開き直った。これ以上自分だけ振り回されるのはごめんである。反撃に出たのだ。
「ええ、すごく楽しみでした。だから、すみれさんに手伝ってもらって、慣れない服も化粧もして。……か、可愛いでしょう?」
強気な態度で、それでもやはり頰は染まる。意地として忠直から目は逸らさずに、彼の返答を待ってみた。
「何で喧嘩腰なんだ。」
訝しげに兎美を見る忠直。そこは気にするな、と睨みつける彼女に対して彼は苦笑すると、別に特別なことを言う様子でもなく答えた。
「ああ。すごく可愛い。中野さんに感謝してるよ。こういうのも似合うんだな。」
駄目だ。この男、こちらが振ったときこそ遠慮しなくていいと思って、本当に容赦なく言葉を投げ込んでくる。兎美は微妙に視線を彼から逃した。
「……なんとなく今日は歯止めが効かないな。悪い。」
申し訳なさそうに微笑まれて、結局こちらの方がさらに弄ばれただけで終わる。敵わない。
「4月15日とか良さそうだな。駄目だったら連絡してくれ。」
彼はさらりと話を戻して兎美の方を窺う。彼女は少し不貞腐れながら返事をすると、そこには普通に丸をつけておいた。
「ナオさんはどうして最近立て込んでたんですか?」
会えなかった期間聞いてみたかったが、やめていたことだ。公私ともに圧迫されるとは、どういう案件に首を突っ込んでいたのだろうか。
「多少面倒なことに巻き込まれてな。おい、いつものことだな、みたいな顔をするな。」
忠直は可哀想なほど巻き込まれ体質である。2人が出会ったきっかけがそもそも事件であるし、彼の話を少し聞いたことのある程度の兎美でも、気の毒なくらいいつも何かに追われていることを知っていた。
「いつもより多少長引きそうで面倒なんだ。今は冷戦中みたいな感じで。」
疲労感の滲んだため息。笑えない程度には可哀想である。
「お疲れ様です。猫の手も借りたかったらすぐ呼んでくださいね。」
兎美はやっと余裕のある明るい笑顔を見せることができた。忠直はそれを見て、気が抜けたようにフッと笑うと目を伏せながら言う。
「もう借りてる。」
手を貸した覚えなどない兎美が首を傾げるが、忠直は詳細は述べなかった。
他にもいくつか、近況報告を交わす。程よく間のある他愛のない話が心地よかった。すごく特別な日のようで、なんでもない1日のようで。彼との空気感を取り戻す瞬間が、兎美には愛しかった。
「晩飯はどうする?」
彼との間には外で何か食べる、以外にも作ってもらうという選択肢がある。
「あ、実は考えてました。あの、ナオさんが最初に作ってくれたスープが食べたいです。」
忠直が兎美と最初に食べたもの。それは白菜と人参と水餃子を適当に放り込んで、味付けした汁物であった。冷蔵庫に残っているもので、手早く作れたものがそれであっただけで、凝ったものではない。そもそも、忠直は今の今まで何を作ったか忘れていた。
「まぁ、あれなら、いつでも作れるが。……そんなのでいいのか?」
お祝いならばもうちょっと、という顔をする彼に、兎美は湯呑みを握りしめながら教えた。
「あのとき、私あなたに美味しかったって言えなかったんですよ。なので。」
兎美の表情が少しだけ切なげに映って、忠直は不思議に思う。そんなことで。口には出さなかったが、顔には出ていたらしい。
「そんなことで、です。」
強調する兎美に対して、引き下がりはしなかった。彼女が望むのなら、それはきっと彼女にとって何か大切なことなんだろうと理解したから。
「なら、買い物をして帰ろう。他に食べたいものがあるなら今のうちだぞ。」
冗談めかした脅しに悩み始めた兎美を、忠直は楽しそうに見守った。
その後はまた少し街をぶらついた後、再び電車に乗って、最寄駅で降りる。一緒に買い物に行くのは久しぶりであった。クリスマス以来かもしれない。それで楽しそうな彼女を見ている彼もまた、楽しそうであった。
「旭、お誕生日おめでとう。」
チン、とお茶の入ったコップを合わせる。食卓に並んだのは、兎美のリクエスト通りのスープとエビチリともやしのナムル。中華よりのメニューである。
「えへへ、ありがとうございます。」
兎美は嬉しそうに笑った。
「女性に訊くのは失礼かもしれないが、いくつになったんだ?」
そういえば自分で年齢を明かしたことはない。共にいる上で年齢は関係ないと言ってしまえばそれまでだが。
「全然気にしないんで大丈夫です。今日で25歳になりました。」
彼はエビチリをつつきながらそうなのか、と呟く。
「俺の4つ下か。学生時代であれば歳下だな、と思うのに、部下たちより歳上というだけでなんとなく近く感じるのはなんでだろうな。」
歳下の中でも近い位置にいるのか、そうなのか、と兎美はちょっとだけ嬉しくなった。
「あ、そういえばナオさんは?誕生日も聞いたことないです。」
兎美も彼につられてエビチリをつつく。結構辛い。豆板醤を多めに入れたらしい。
「俺か?俺は今、28で今年の8月20日に29になる。」
夏生まれなのは少し意外であった。いや、生まれる時期で人間が変わるわけではないだろうが。
「なんとなく秋が似合うイメージがありました。勝手な話ですけど。」
たまに言われるらしい。忠直は不快な顔はしていなかった。
「それこそお前は夏っぽい感じもするが。」
その返しに兎美は珍しく難しい顔になる。忠直が訝ると、何かを誤魔化すように笑った。
「私は、わりと春が似合うって言われてきたので。言われたことなかったです。」
ナムルに移した自分の箸を眺めながら言う。エビチリの辛さを癒すような胡麻油の香ばしい匂い。
兎美はやはり忠直の手料理が好きであった。お店で食べるものとまた違い、自分で作るのとも違う、家庭料理の温かさがある。
スープもあの日と同じ味がした。生姜の風味がいいアクセントで美味しい。
忠直はそんな彼女の姿を嬉しそうに見つめていた。
「ナオさん、とっても美味しいです。」
彼の視線に今度は戸惑わない。満面の笑みを向けてそう言った。
「そうか。」
忠直は頷いて、自分も食事を再開する。
「そういえば、ナオさんは誕生日に、何が欲しいですか?」
会話の途切れた隙に、兎美は先程訊きそびれたことを口に出してみた。こうして、楽しい思いをさせてもらったのだ。彼の誕生日に何か返したい。
「俺か?俺は……スポンジのストックがなくなったことしか思いつかないな。」
兎美は思わず吹き出す。主婦のようなことを言われてしまった。実際笑いごとではなく真剣に欲しいもの、ではあるのだろうが。
「もう少し何かありません?」
そう言うと、彼は真剣に悩んでくれる。唸りながらヒントを探すように視線を彷徨わせて、最終的に兎美にたどり着いた。
「なら、お前の1番が欲しい。」
その言葉に兎美は首を傾げる。どういう1番だろうか。ふと、思いついたそれに彼女は心の中で首を振る。忠直のことだ、そんな色っぽい意味が含まれているわけがない。
「8月20日になった瞬間に、お前が1番に”誕生日おめでとう”をくれ。」
予想通り違った。そういうオチだとは思っていたが、兎美はちょっとだけ落ち込んだ。
「そんなのでいいんですか?」
彼女が訊くと、忠直は深く頷く。
「そんなのって言っても、結構めんどくさいと思うが。お前の時間を拘束することになるしな。」
拘束というほど時間は取られないだろう。1日もらった側としては、少し物足りない気もしたが。
「私は大丈夫ですけど。……無欲な人ですね。」
ついつい呆れたような声色で兎美はそう言ってしまう。
「そんなことないぞ。すごく贅沢だ。」
彼は美しく微笑んだ。たまにこういう気を許しきった顔を覗かせるので、兎美は息を飲んでしまう。自分が彼の中で、どういうところに立っているのかを思い知らせてくる顔だ。
「……1番に電話するのでちゃんと出てくださいね?」
やっとのことでそれだけ捻り出すと、忠直は嬉しそうに頷いた。
「旭。送って行く。」
楽しくてしょうがなくて話に夢中になっている間に、すっかりあたりは暗くなっていた。忠直の家から兎美の家までは20分程度。彼は上着を手に取る。
「あ、今日は大丈夫です。1人で帰ります。」
寄るところがある、と。そうか、と引き下がろうとした忠直だが、何かざわつくものを感じて、靴を履いていた彼女の腕を掴んだ。
お互い、驚いている。兎美は急に掴まれたことに、忠直は掴んでしまったことに。
「あの、えっと。」
混乱する兎美に何も言わない忠直。しばらく膠着状態が続いて、やっと忠直が口を開いた。
「急に、悪い。……俺がついて行ってはダメか?」
なぜかすごく心細そうな顔をしている忠直を見て、兎美は何も言えなくなる。こんなふうに引き下がるのは珍しい。彼は大体人のやることに口出ししないから。
「どうしてですか?」
理由を求めてみる。それこそ彼は悩んでいるようであった。不定形の不安の正体を彼女の目の中に探す。そこには、なんとなく彼を惜しむような光があって。
「……このまま行かせたら帰ってこない気がした。」
兎美は息を飲んだ。忠直はどうしてそう思ったのかはわからない、というような困った顔をしていた。先ほどまで楽しく会話を交わしていた。不安になる要素なんてないのに。
「迷惑ならいい。聞かなかったことに」
「いえ!」
急に彼女の口から出た大きな声に忠直は驚く。
「まだ、一緒にいてくれるんですか?」
彼はゆっくりと頷いた。それを見て、兎美は困ったように微笑む。
(どうして、そういうところは気付かれるんでしょうね。)
目を伏せたとき、踵についた絆創膏が目に入った。靴擦れを起こしそうだと言って、歩き始める前に忠直が渡してくれていたもの。彼は兎美が思っているよりも彼女のことをよく見ている。
「……じゃあ、お願いします。」
2人で外へ出た。忠直は何も言わずに兎美の隣を歩く。夜の住宅街はとても静かで、なんとなく話す気分にならなかった2人の間も木のさざめきが僅かに聞こえるだけ。
兎美は変な気分であった。緩く吹く春の風が、夜を抜けていく。例年、1人で歩いていた道を隣を許した男と歩く。
胸がざわつくような感じがして、兎美は忠直を見上げた。彼は視線に気づいて見つめ返してくる。
帰ってこない気がした、と言われた。それは兎美にとって図星であった。厳密に言うとそうなる可能性があったのだ。
でも、なぜだろうか。忠直が隣にいるだけで、ほんの少し心象が違う。もう少し、こうしていたい。
「こっちです。」
大通りから外れて、川沿いを歩く。少し歩いたところから見上げると、まだ咲き残っていたらしい桜の木。兎美は立ち止まる。ひらひらと、桜の花びらが春の風に乗って、川とともに流れて行く。
忠直は彼女を眺めていてなぜかとても不安になった。化粧のせいかいつもより少しだけ大人びた兎美の横顔は、花びらに縁取られて。その目は、何かを想うように憂いを帯びる。
(何か……というより、誰か。)
自分の知らない彼女だ。彼はそっと目を逸らした。もちろん、彼女と付き合いが長いわけではない忠直は、兎美の全てを知っているわけではない。それでもたぶん、繋がれていたせいもあって、並の友人よりは知っていることは多い。
(旭は、たまに遠い。)
だが、許されている距離、それ以上を踏み出すことを許してくれない線のようなものが、彼女にはある。きっと、誰に対しても。
兎美に「いかないで」と言わせたことがある。それと似たような感情を今彼は抱いていた。
「旭。」
それ以上は言葉の代わりに荷物の中から紙袋を取り出して、兎美に渡した。ぼんやりしていた彼女は彼に呼ばれて、ハッとしたように袋を受け取る。
「これは。」
開けてみろ、というように促され、兎美は紙袋の中からラッピングされた箱を取り出す。中に入っていたのは。
「…ブレスレットですか?」
向日葵のモチーフのブレスレットだった。黄色みの強い金属の華奢な女性用のデザイン。目の前の仏頂面の男が1人で選んだのかと思うと。
兎美は忠直を見上げた。戸惑っている彼女の手を引いて、彼はブレスレットをつけてやる。シャラ、と揺れるのが可愛らしく、兎美によく似合っている。
「お前が栞をくれたのが嬉しくて。どうせお前は訊いても、この1日があるからって言って断るだろう。だから、勝手に選んだ。」
急に現実に引き戻されたかのように、兎美は忠直を見つめた。彼の目からはいまいち正しい感情は読み取れない。
「渡すかどうか、悩んだ。」
戸惑い続けている彼女を見て彼はため息をつく。
「……付き合ってもいない男からのアクセサリーなんて重いだろ。突き返されても…」
文句は言えない。そう言おうとして忠直は口を噤んだ。
兎美はいつの間にか頰を真っ赤に染めて、惚けたように忠直を見上げている。じきにその視線は左腕で揺れるブレスレットに移って、彼女は嬉しそうに微笑んだ。今、兎美の目に映っているのは忠直だけで。彼はそれに見惚れた。
「なんで、向日葵なんですか?」
尋ねられてハッとした忠直は、少しだけ言いにくそうに、それでもちゃんと伝えてくれる。
「目を惹かれただけだ。お前に似合いそうだと。」
正直な人だ。兎美が12月に言えなかったことを彼は言ってくれた。
「……あなたは、いつも『私』を見ていてくれるんですね。」
その響きに何かを感じたのか、忠直が眉間に皺を寄せる。兎美は形容し難い表情で彼を見上げていた。忠直はそれに対しては何も言わなかった。
「…先に謝っておく。」
彼は兎美に一言断る。何のことかと彼女が思ったとき、手を握られた。見上げると忠直は兎美を見下ろして、淡々と言う。
「今のお前は、なんとなく手を繋いでおきたくなる。嫌なら解いてくれ。」
たぶん忠直は、解かれないとわかってやっている。それくらいにはずるい人だ。兎美は目を伏せて、赤くなるのを抑えられなかった。繋いだ手でシャラリとブレスレットが揺れる。
「ナオさんは、私に似合うと思ってこれを選んでくれたんですよね。」
視線をそこに向けながら兎美は再度訊いてみた。
「そうだが。……あまり気に入らなかったか?」
嬉しそうな表情を見たはずなのに、そう疑うのは彼らしい。兎美は目を細めて、ふふっと笑い声を漏らす。
「いいえ。すごく嬉しいです。ありがとうございます。大切にします。」
そう言うと、彼女はもう一度桜を眺めた。その目にはもう憂いはないようで、忠直も隣で並んで眺める。
「来たかったのは、ここだったのか。」
かなり散ってはいるが、花びらの舞う川沿いの夜桜はそのくらいの方が物悲しくて美しい。
「はい。ここの桜が見たかったんです。」
兎美は頷いて、そっと目を伏せる。
「……誰かと並んでここに来るとは思いませんでした。」
呟くようなそれは聞かなかったことにして、忠直は彼女が満足するまでずっと横にいた。
「今日はありがとうございました。」
7並べが近づいてきたくらいで、兎美は忠直に礼を言った。
「いや、こちらこそ楽しかった。ありがとう。」
彼はそう言って、彼女と視線を合わせる。その目に悪戯っぽい輝き。
「旭、今度はわざとか?」
兎美はきょとんとした。今度も天然か、と忠直は笑い始める。何の話だと兎美が顔を顰めると、繋がれた手を示された。
「……あ。」
意識していなかった。本当に違和感がないのだ。また笑われてしまって、兎美は真っ赤になる。
「だ、大体繋いだのはどっちもナオさんからですよね!?揶揄うなんてひどいです。」
むくれて彼の手を振り解こうとする。が、離してくれない。ぶんぶん、と一生懸命振ってみるが、離してくれない。もう少し強く、ぶんぶんぶん、と振るが、やはり離してくれない。
「なんなんですか、また面白がってるんですか。」
拗ねた口調。もういい加減、振り回されるのも疲れたのだ。ため息をつく兎美に、忠直はどう言おうか視線を彷徨わせ悩んだ末に、特に起伏のないいつもの声で言った。
「いや、案外、惜しかったのは俺の方だったってだけだ。揶揄ったつもりはない。」
言っていることの意味がよくわからなくて首を傾げた兎美に、忠直はそれ以上は控えた。
彼がそっと手を離したくらいで家の前に着く。
「じゃあまたな、旭。」
頭に手が置かれて、ぐしゃぐしゃと撫でられた。久しぶりのそれに、兎美は思わず目を瞑る。
「折角可愛くしてくれてたから勿体なくて撫でられなかった。お前が楽しそうにしてくれて、こっちも嬉しかったよ。」
は。兎美が顔を上げたときにはもう手は離れていて、彼は歩き始めていた。言い逃げだ、と兎美は真っ赤になりながらその背を見送るのだった。
「よぉ、忠直。俺様に黙って女連れ込むとはいい度胸だな。」
忠直の家の前に、1人。マスクにサングラス、フードを被った怪しい人物が夜道に立っていた。女の声だ。
忠直を見て彼女がマスクをずらすと、ぷっくりとした血色のいい唇が露出する。
完全に不審者だが、彼は別に驚くこともなくその人物の前で止まった。
「お嬢。」
その人物を彼は呆れたようにそう呼んだ。
「なかなか可愛い子だったじゃねえか。浮気か。」
忠直は顔を顰める。どいつもこいつも。チッと苛立たしげに舌打ちをすると、彼はその人物を睨みつけた。
「俺のストーカーなんて、お嬢も案外暇だな。……趣味が悪い。」
最後の言葉に含んだ本気の嫌悪感に、女は笑い出す。忠直は慣れた様子でため息をついた。
「俺様に隠し事なんていけねえな。ぜーんぶ調べさせてもらったよ。旭兎美か。面白い女じゃねえか。」
サングラスの奥で女の目が淡く光る。
「忠直、色ボケしてんじゃねえぞ。今年中に決着をつける。俺様もお前も、そこで決まる。俺らは一蓮托生なんだからな。」
ドスの効いた声。忠直は肩をすくめる。現在進行形で巻き込まれている面倒ごとの全ての原因を呆れた顔で見つめながら、彼はため息をついた。
第2章「Throat」について、作者からの注意とお願い。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
「Throat」からは2人の関係の糖度が上がります。露骨な性描写・残酷描写はR-18作品ではないので控えさせていただきますが、軽度のそれを匂わす表現、恋愛描写は増えていきますので苦手な方はブラウザバックを推奨致します。
では引き続き、兎美と忠直の物語をどうぞよろしくお願い致します。