表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラザークエスト  作者: 守山みかん
7/45

夜露津(よろづ)さんが言うように、ネコの《メタ》の正体が磨呂(まろ)(ファイブ)ならば、なぜ教育組合の理事長が飼い主なのかって点が疑問だよね。

「磨呂ん五は、催眠術が使えるのだ」と、夜露津さんは続けた。

「理事長とやらは、飼い主と思わされているのだ」

なるほど。

そんな状況で、理事長が《メタ》を飼い猫と思いこんでいるなら、ピュアウッドもだまされてるってことになるね。

そうなると、10000ユニット払って買った《ペットキャリー》は役に立たないよね。

せっかく買ったのにもったいないことをした。

「そうでもないぞ」と、夜露津さんは言った。

何だろうね。

ボクが考えていることが、夜露津さんにはわかってるんじゃないだろうかって思うよね。

まあ、そういうことで良いのかな。

今に始まったことじゃないし。

「その《ペットキャリー》は、ネコならば自分から入ってくれるという代物(しろもの)だ」

うん、そういう売り文句で、ボクは買わされたんだよね。

「つまり、磨呂ん五をネコにしてしまえば良いのだ」

普通なら、ええーっとなって、引いちゃう場面だけど、夜露津さんが相手だと、そういうのが省略できるね。

何か方法があるんだろうなって思っちゃう。

「キサマに用意してもらいたいものがある」

夜露津さんから用意しろと言われたのは、まず《栗》だった。

磨呂ん五の大好物だから、惹きつけるのに必要だと言うのだ。

これは、まあ、リキリキだな。

あいつに頼めば、何とかなるだろう。

そして、もう一つ。

「《呪いの栗(デス・マロン)》を探すのだ」

うーむ。

これが、よくわからないね。

「《デス・マロン》は、警戒心が強いからな。不用意に触ろうとすると、どこかに飛ばされるぞ」

相手は、栗だと思うんだけど、まるで生き物のように夜露津さんは説明してくれた。

そういえば、磨呂ん五の地下牢(ダンジョン)で、祭壇のようなモノを見かけたな。

きっと、アレのことだね。

不用意に触って、どこかに飛ばされるんなら、そのまま通り過ぎて正解だったわけだ。

しかし、そんなモノを、どうやったら手に入れられるんだろう。

「……どこかに飛ばされるのは、厄災(やくさい)が原因だ……」

厄災か……

何か抽象的だな。

そういうのの対策って、御守(おまもり)とか、御札(おふだ)とかのアイテムを持ち歩いたりするよね。

「……キサマ……察しがいいな……」と、夜露津さん。

「……宝石屋のオヤジに相談してみると良い……」

宝石屋!

《青色のプレスレット》を鑑定してもらったね。

厄除けの石とか無いか、ちょっと行って聞いてみるかな。

相変わらずおじさんはヒマそうにしていて、すぐに教えてくれたね。

ヘマタイト。

銀色の石。

「ヘマタイトのブレスレットとかを身に着ければ、厄災が降りかかることはない」

わかったよ。

で、いくらで売ってくれるのか聞いてみたら、

「今、店には置いていない」

だった。

うーん……

困ったな……

どこに行けば手に入るのか、全く見当がつかないぞ。

「あのね」

いきなりボクに語りかける声が聞こえたと思ったら、レアムだった。

「ボクね、そういう石を見たことがあるよ。確か、桟橋(さんばし)の辺りに落ちていたと思う」

レアムの家から《おぐに》駅に向かった途中だね。

落ちてたって……そういえば《青色のブレスレット》も拾ったんだったよね。

誰か、そういうのを落とす趣味のヒトでもいるのかな。

まあ、何でも良いかな。

落ちてるんなら、さっそく拾いに行こう。

そこへ、ボクの決心を阻止するかのように、おじさんの声が飛びこんできた。

「ヘマタイトが手に入るのなら、そのアクアマリンは外していった方が良いぞ」

どういうことだろう?

おじさんは真剣な顔をしていた。

「アクアマリンとヘマタイトは、決して相性の悪い石ではないが、そのブレスレットの持つ力は強靭だ。そこへ、別の強い力とぶつかりあったら、身に着けてる人間の方が持たないと思うぞ」

怖いこと言うなあ。

じゃあ、せっかく拾った《青色のプレスレット》は捨てた方が良いのかな。

「ワシの金庫で預かってやろう。頑丈な金庫で、暗証番号はワシしか知らんから盗まれることはないだろう。もし必要になったなら、いつでも言ってくれ。ただし、持ち歩くのは、どちらか一つにした方が良い」

ナイスな協力支援だね。

じゃあ、お願いします、ということで、おじさんに《青色のプレスレット》を預けて、駅へ向かった。

レアムも、ボクについてきてくれてる。

ボクのことを友だちと思ってくれてるのかな。

彼女について、わからない事が多いけど、そのうち色々と話してくれるかもしれない。

こちらから詮索するのはやめておこう。

電車がやってきた。

行き先は《おぐに》。

《ひきょう》から、磨呂ん五の屋敷経由で行くのは危険だからね。

電車は、ラッシュの時間帯でもないのに、ぎゅうぎゅう詰めに混んでいた。

周りをぐるっと囲まれてるんで、窓の外はおろか、レアムの顔も見ることができない。

ちゃんとボクのそばにいてくれてるかな。

《ひきょう》に到着。

誰も降りないし、誰も乗ってこない。

結局、ドアの開閉だけして発車。

この駅、必要なのかな?

誰かは利用してるんだろうけど。

ピュアウッドの話では、この駅を慌てて降りていったヒトがいるくらいだからね。

そして、次の駅の《おぐに》に到着。

ここでも、誰も降りる気配が無い。

ヤバいぞ。

降りるアピールをしないと、そのままドアを閉められちゃう。

「降ります。降ります」

大きめに声を出しながら、ヒトを掻き分け掻き分け……

ようやく外に出られた。

プシュウと音を立てて、ドアが閉まる。

ウィーン。

女の子の悲鳴のような電車の発進音。

女の子……

あれ……レアムは?

しまった!

電車に残したままだったかも……

駅には、ボク以外には誰も見当たらない。

ボクは駅の縁っ子に立って……

遠く去っていく電車が見えなくなるまで……

茫然(ぼうぜん)とそれを見つめていたんだ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ