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思えば不思議な状況だ。
行方不明になったネコの《メタ》を探しているボクの後ろに、レアムがついてきている。
「一緒に行きたい」
レアムは、それだけをボクに伝えた。
理由は、特に無し。
ボクは、断る理由も無かったので、何となく承諾した。
その後に、対した会話はしていない。
草原の中に建てられた小さな家に、一人で住んでいたレアムは、名前以外のことを、ボクには教えてくれなかった。
なぜ、そこに住んでいたのか。
誰かに会う機会の少ない場所だ。
ボクと出会ったのは奇跡に近い偶然だと思う。
それに、なぜ一人なのか。
両親とか、兄弟とか、あと学校とかも。
ボクと同じくらいの歳なんじゃないかな。
ちなみに、ボクは15歳。
高校受験を間近に控えてる。
そういうのも、彼女にだって、あると思うんだけど……
まあ、ボクだって、彼女には名前くらいしか伝えていないけどね。
どうして、一緒に行く気になったんだろうね。
ナゾだよ、ナゾ。
長い桟橋のかかった池を渡り、森林の間を抜ける道を歩いて、到着した場所は、鉄道駅だった。
いつも利用してる電車は、このあたりも走ってたんだね。
駅名は《おぐに》。
ボクたちが通ってきた森林や池とは反対の駅出入口の方には、数件の民家が見えた。
《ひきょう》よりは、ヒトが住んでる所みたいだ。
無人の駅舎に貼られた路線図を確認。
《おぐに》は《ひきょう》の隣の駅だった。
十数分ほど待ち、到着した電車に乗って《わがまち》へ戻ってきた。
ヤレヤレだね。
スマホの着信圏にも入れた。
ピュアウッドを長い時間放置したから、着信とかあったかな……と思ったら、何も履歴が無かった。
珍しいね。
寝るとき以外に、15分以上静かだったことは無かったんだけど。
何かあったのかな。
ボクが磨呂ん五にヒドい目に合わされて、困ってるときには出てこないんだよね。
役に立たない兄だね。
「あそこ」
駅の改札を出たところで、レアムが前方を指さした。
その先にあるのは……《よろず屋》さんだ。
どうしたんだろう?
何か買い物がしたいのかな?
レアムが行きたがってるみたいだから、ちょっと行ってみよう。
あそこのクールなお姉さん、用が無いのに行ったら追い返されるかもしれないけど。
お店の中に入る。
ついさっき《文部嵐》をもらいに来てるけど、その後にいろいろあって、ずいぶんと時間が過ぎた気がする。
寡黙なお姉さんは、ボクたちが入店するのをじっと見つめている。
「何かあったのか?」
珍しくお姉さんの方から話しかけてきたぞ。
ボクがあたふたしながら、あっととか、えっととか言っていると、背後からボクを通り抜けて、お姉さんに話しかける声がした。
「たまたま近くを通りかかったので、寄っただけです」
そう答えたのは、レアムだった。
「そうか……」
お姉さんはうなずき、今度はボクの方に視線を向ける。
と言うより、にらむが正しいかな。
「……キサマ……驚いてるな……」
「それは、まあ……二人は知り合いだったんですね」
「……私に言わせれば……キサマがレアムと出合ってしまった……ということだ」
「こちらの夜露津さんに、今の住まいを用意してもらったんだ」と、レアムが説明をつなげる。
お姉さん、夜露津さんって名前だったんだね。
……そのまんまだな。
レアムの経緯は聞いてないからナゾのままなんだけど、夜露津さんに助けてもらってるわけだね。
子供一人の力では、住むところを何とかするなんて無理だもんね。
「ボクが勝手にサムシャイについてきたんです」
「……そうか……」
夜露津さんが、レアムを見る目は、何となく優しい感じがする。
「……ネコは、まだ捕まえていないようだな……」
そして、ボクに対する視線とは明らかに違うね。
夜露津さんは、ボクに売ったペットキャリーが空なのを気にかけたようだ。
「それが……《メタ》らしいネコを見つけたんだけど、キャリーに入ってくれなかったんだ……」
ネコの方から入りたくなるってのが、夜露津さんの売りだったからね。
「……それは相手がネコではなかったからだ……」
夜露津さんの突拍子もない言い訳には、驚かないわけにはいかなかったね。
「どう見ても、あれはネコでしたよ」
「サムシャイ……キミは磨呂ん五とかいう悪いヒトに、地下牢に落とされたって言ってたよね」
これはレアムの言葉。
ここまでの道中は、ほとんど会話が無かったけど、この店に来て、しゃべるようになった気がする。
「……磨呂ん五だと……」
ボクがしゃべるよりも、夜露津さんの反応の方が早かった。
「キサマ……あんなヤツに、私が作った《文部嵐》をあげたのか!」
ええーっ!
ここで夜露津さんに怒られる場面になるとは……
怒りのツボが見えないよ。
……っていうか、夜露津さん、磨呂ん五のこと知ってたんだ……
「……キサマが探しているネコは……ネコではない……」
えっ?
《メタ》のこと?
ピュアウッドは、教育組合の理事長が飼っているって話をしてたけど。
「……そのネコは……磨呂ん五がバケているのだ……」
「……」
「……ヤツの目的は世界征服だ……ネコにバケて、何かやらかそうとしているに違いない……」
「……」
「……キサマ……私が言っていることが理解できてないな……」
うん……理解できていないね。
今の夜露津さん、いつもにも増してぶっ飛んでるね。