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「キサマは信頼できる、と当局は判断してな」
夜露津さんが伝えてきた。
当局って、何だか秘密諜報員みたいな響きだな。
「キサマの記憶は残しておくことにした。今後に何か起きたときに、事情を理解している協力者がいると、いろいろと助かるからな」
なるほど。
それは、つまり、夜露津さんたち当局のヒトたちのことは、秘密にしておかなきゃいけないってことだね。
「察しがいいな。そのとおりだ」
夜露津さんが笑みを見せる。
このことを知ってる地球人は、ボク以外に是賀さんがいるだろうが、他が誰かはわからない状況だね。
まあ、別に知る必要はないのか。
話したくてウズウズしてきたら、穴でも掘って、そこに叫ぶかな。
「その時は、キサマの記憶を消すだけだ。特に、キサマの側の心配は無用だ」
確かに一方的だね。
ボクたちの方では、何の選択式も用意できない。
それが現実なんだ。
ボク自身は友好的な『星人』でありたいと思ってるけど、地球という単位で考えたら、こちらだって友好的であると言い切れないところがある。
夜露津さんの側は、好戦的な行動を制御しようとしてくれているのなら、地球側も、それをするべきだよね。
数百年の技術差………
いずれ地球側も追いついて、4光年を攻略できたらどうなるか、なんて想像を絶する話だね。
両者間で戦争なんて悲しい展開だけは避けたいよ。
………そうか………ボクは協力者の1人。
そうならないように歴史を刻んでいく役割を与えられたんだ。
ボク1人では、どうにもできないと思うけど、夜露津さんたちの取り組みに協力していけば、悲しい歴史を回避できるかもしれない。
「そろそろ送ってやろう」
夜露津さんの声は優しかった。
「キサマのように考えることのできる地球人が増えてくれることを願う」
それが聞こえた後は、急に男のヒトの声に変わった。
灰色の空と草原の景色が、いきなりどこかの建物の中に切り替わった。
見覚えのある部屋だった。
「サムシャイくん」
今度は鮮明な男の声が耳に入った。
声の方に顔を向けると、そこには是賀さんがいた。
ああ、是賀さんの家だよ。
見覚えがあるのも当然だ。
「キミが急に現れたからね。びっくりしたよ」
是賀さんがボクのことを知っていてくれてる事実は、これで確認できたね。
「あちらから帰ってきたのかな」
是賀さんは愉快そうな笑みを見せる。
「はい」と、ボクは答える。
「ボクも協力者になりました」
「このことは、二人だけの秘密だ」
「はい」
是賀さんは楽しそうだった。
「今回のことを通じて、キミに出会えたのは、とてもうれしいよ。年甲斐もない話だが、何だか心がワクワクしてね」
「ボクも、こんなに街の外に出て、いろんなヒトと出会えて、よい経験になりました」
「これから、レアムくんを探しに行くのかな?」
「もちろんです。きっと1人で淋しがってると思うから」
「彼女がどこにいるのかは、もうわかってるのかな?」
「たぶん………レアムが好きそうな場所といえば………」
「いつでも、二人で遊びに来てくれて構わないからね。美味しいお菓子を用意しておくよ」
是賀さんはニコニコしながら、ボクの肩を撫でた。
さて、さっそくレアムを探しに駅に向かう。
行き先は《あまみ》だ。
《宝石屋》のおじさんの家に行く時、海が視界いっぱいに広がって、両目をキラキラさせてたからね。
夜露津さんのヒントにあったレアムが好きそうな場所と言ったら、まずはそこだろうね。
《あまみ》の駅を降りて、駅前の道をまっすぐ進むと、すぐに水平線が見えてきて、砂浜にたどり着いた。
海に向かって、じっと砂浜に立っている人影が見える。
髪が長い女の子の影。
まぎれもなく、レアムの影だ。
後ろを振り向き、ボクに気づくと、
「サムシャイ!」
と声を上げて、駆けてきた。
「来てくれたんだね」
「もちろんだよ」
「ボクの好きな場所をちゃんとわかっててくれた」
「きっと、ここだと思った」
レアムは、両手をボクの首に回し、そっと顔を近づけて、キスをしてくれた。
ふんわりとした柔らかい感触が唇から全身に伝わっていき、体中が熱くなった。
しばらく、そのままでいて、やがてレアムの方から、そっと離れた。
「帰ろうか」
「うん」
ボクとレアムは手をつないで、駅の方へ歩き始めた。
ふいに、レアムが立ち止まり、《宝石屋》の方に目を向けた。
「おじさん、いるかな」
「わからないけど、何か用事があるのかな」
「ほら、御守にできるブレスレットが無くなったから、また作ってもらえないかなって」
「そうか……」
事件は解決したし、レアムも見つかったし、ボクは御守が無くたって平気だけどね。
でも、アクセサリーとしてなら、あっても良いかな。
お金はあるし、レアムにプレゼントしたら、喜んでくれるかも。
おじさんの家に足を向けると、玄関先に誰か立っているのが見えた。
お客さんかな?
目をこらして、確かめてみようとすると、レアムの足が急に止まった。
どうしたのかな、と彼女を見ると、ボクの手を離し、勢いよく駅の方へ駆け出した。
「レアム!」
その名を呼んだのは、ボクじゃないよ。
《宝石屋》の玄関先にいたヒトの声だ。
女のヒト。
レアムは、振り向きもせずに、どんどんボクから離れていった。
玄関先の女のヒトが、ボクに近づいてきた。
「どうして………」
女のヒトは、悲しそうに声を上げた。
ボクは、このヒトを知っていた。
《はれおか》の駅前で、タンザナイトのブレスレットを探す依頼をしたヒトだ。




