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さて、カムカム言ってる青いおっさんに立ちふさがれてるけど、どうしたものかな。
「え? ボクちゃんの名前を知りたいのか?」
知りたくねえよ、バカ。
「ボクちゃんの名前は、国東力力だ。くにひがしのコクトウに、ちから二つのリキリキだぜ」
知らなくていいよ。
ムダにこいつの名前を知ったのは不本意だが、これからはリキリキと表示しよう。
「この《洞窟》に入りたかったら、ボクちゃんと勝負しな。ボクちゃんは強いぞぉ。誰もボクちゃんに勝てないぞぉ」
「じゃあ、怖いから、ボク帰ります」
ボクはそう言って、リキリキに背中を向ける。
「おいおいおいおい」
リキリキが慌てふためいて、ボクを振り向かせようとする。
「おいおいおいおい。このまま帰ったら、アレだぞ。ボクちゃんと二度と勝負できないぞ。それでも良いのかよ」
「勝負したくありません。ボクは帰ります」
「おいおいおいおいおいおいおいおい」
リキリキは、しつこくボクを引き止めようとする。
「おまえ損するぞ。このまま帰ったら、おまえ損する。もったいないことになるぞ」
「良いんです」
ボクは、なおも振り切って帰ろうとした。
「よし、わかった。ヒントやろう」
「ヒントいらない。ボクは帰る」
「あわわ……」
リキリキは慌ている。
ボクと勝負したくてたまらないらしい。
ボクはイヤだよ。
勝負なんか絶対しないからね。
「わかった。ボクちゃん、もう決めたよ。ボクちゃんが良いこと教えてあげるから、ね、ね、ボクちゃんと勝負してよ」
「良いこといらない。ボクは帰る」
「あわわ……カエル言わない。ほら、トカゲあげるよ」
「トカゲいらない。ボクは帰る」
「あわわ……ボクが教えてあげる良いこと、ホントに良いことだよ。聞いてトクする耳より情報。ほら、カムカムカム」
「カムカムいらない。ボクは帰る」
「ああ! もう!」
リキリキは、両手で頭を抱えて、困っている様子だ。
「何でも聞くよ。ボクちゃん、何でも言うこと聞くから……ね」
「じゃあ、勝負は無しで、良いことだけ教えて」
「げげ!」
リキリキは、両目と口を大きく開けて、そのまま5秒くらい停止した。
そして、両目を普通に開け、口を閉じて、いかにも真面目そうな顔つきになって、ボクを見た。
「おまえ、アタマ良いな……」
「それほどでも無いよ」
学校の成績は中の中だけど、リキリキには勝ててる気はする。
「ボクちゃんの挑発に乗らなかったヤツ、お前が初めてだよ」
大した記録に思えないね。
レベル99でスライム相手にしてるような。
「で、良いことって、どんなことかな?」
リキリキは観念した様子で、眉毛をハの字にして話し始めた。
「このあたり、栗がよく採れる。栗の名産地」
「くり!」
ボクは思わず叫んだ。
「じゃあ、勝負ってのは……」
「うん!ボクちゃんと栗拾いの競争だ!」
リキリキは、目をキラキラ輝かせながら言った。
栗拾いが得意なのをボクに見せたかったんだな。
「じゃあ、勝負には付き合うけど、勝ち負けは関係なく、洞窟には入らせてもらうからね」
ボクがそう念を押すと、リキリキは「うん、いいよ」と軽く返事した。
何が起きるんだろうと心配だったけど、結局、栗拾い勝負は、ボクの方がたくさん拾って勝っちゃったね。
リキリキは悔しそうにするかと思ったら、ボクの弟子になりたいって言い出したので、これを断る方が栗拾いより難儀だったね。
とにかく、ようやく洞窟の中に入ったら、真っ暗で懐中電灯が必要なことがわかったんで困っちゃったね。
またあの迷路のような山道を通って、街まで戻らないと……
そしたら、リキリキが街に戻る近道を教えてくれたよ。
それが本当に近道で、あっさり戻ってこれてビックリだったね。
最初からこの道を知ってたら、意地悪な信号とか、山道に苦労しなくても良かったのに……
ま、過ぎたことは良いとして、懐中電灯を手に入れたら、再びあの洞窟へ向かった。
ピュアウッドに言われた道具を洞窟付近に集めて、これでミッション完了。
往復の運賃と、懐中電灯を買った費用を差し引いたら、《電子ピアノ》の代金に届かなくなってしまったんで、またピュアウッドから仕事をもらわないといけないかな。
でも、ちょっと宝物っぽいモノを見つけちゃったね。
片付けたクーラーボックスの中に、青色の丸い小さな石を太めの糸の間に挟むようにテグスで結びつけてあるブレスレット。
教育組合の誰かが忘れていったのかな。
そこで、ピュアウッドから着信。
『お疲れだったね。もうすぐ後輩がそこに行くから、キミは街に戻っておいでよ』
ボクは、すかさずブレスレットの忘れ物について報告した。
『はて……幹事のボクには、何の問い合わせも来てないようだが……ま、ボクらには関係の無いモノじゃないかな』
「ふーん。じゃ、ボクがもらって良いんだね」
『まあ聞け』
いつもの遮り。
いつものことだから気にしていない。
『一応、組合員に心当たりを聞いてみるよ。それで、誰からも申し出が無かったら……』
「ボクのモノということで」
ピュアウッドに被せるように言ってやった。
たまには、ボクだってやっちゃうんだからね。
『まあ、そういうことだな』
ピュアウッドは言って、着信は切れた。
その後、ブレスレットのことで、ピュアウッドからは何の連絡も来なかった。