勇者の誕生
勇者と魔王の最終決戦
「ぐぅっ……くそ、くそ……人間風情が……!!」
人間と魔族の戦いが、今終わろうとしている。
魔王は勇者の一撃を受け、顔を歪めて片膝をついた。ぜえぜえという荒い息が、もはや余力は残されていないことを物語っている。
「勇者さま!私、最後の魔力をぶつけます!その隙に魔王を!」
「ああ!頼む、賢者ちゃん!」
長くてつらい冒険の、最後の瞬間。勇者と賢者の視線は自然と交差した。
魔王に止めを刺せるのは、対魔の血をその身に流す勇者の一族のみ。敵の体力を限界まで削り、次の勇者の攻撃で確実に息の根を止めるため。賢者は身体に残る魔力をかき集める。
その時賢者の頭にあったのは、苦しい訓練のことでも、初めてのレベルアップでも、冒険の日々でも、親しい仲間の死でもない。
彼女が考えていたのは、幼い勇者との記憶。彼女が冒険者を志したあの日のこと。
二人は、幼馴染だった。
◇◇◇◇
「ぼくは、対魔の血?を受け継ぐゆーしゃなんだって。いつか、魔王と戦ううんめいなんだって」
「うん……私のお父さんも言ってた。魔王を倒せるのは、ゆーしゃくんと、ゆーしゃくんのお父さんだけなんだって。ゆーしゃくん、かっこいい!」
クセのない蒼髪とほんのり色づいた唇は、美人冒険者として有名な母親譲り。同い年の女の子の中で一番かわいい賢者の言葉に、勇者は気をよくして目を輝かせた。
「えへへ。ぼく、たくさん訓練して、一日も早く冒険に出るんだ!」
勇者の希望に満ちた言葉は、しかし賢者を不安にした。
できるなら、ずっと勇者の隣にいたい。彼女はそう思っていたから。
その小さな思いが、彼女の背中を強く押した。
「わ、わたしも!」
「え?」
「わたしもゆーしゃくんと一緒に訓練して、一緒に冒険して、一緒に魔物を退治する!それでねっ……それで……」
賢者の突然の言葉に、勇者はキョトンとした。頼りになって、心が通じる賢者の大切さが分かるためには、勇者はまだ幼すぎたから。
「なんで?なんでけんじゃちゃんが来るの?僕のおとーさんとおかーさんと、けんじゃちゃんのおとーさんとおかーさんと、街で待っていればいいのに」
賢者はまっ赤になって、もじもじして、しどろもどろになった。
「えっと、それは……」
「それは?」
「……だって……」
「だって?」
「……だって、わたしのお父さんとお母さんも、ゆーしゃくんのお父さんとお母さんと冒険したんだって。四人はパーティだったって!だから、だからわたしもゆーしゃくんと冒険するの!」
◇◇◇◇
それから十年。
置いていかれないように、足を引っ張らないように。賢者は努力を怠らず、常に勇者に寄り添ってきた。
瀕死の魔王を前にして、成長した彼女は自問する。
「(勇者さまは、これからほんとうの英雄になる。勇者さまを、その血と力をいろんな国が欲しがって、きっとどこかのお姫様と結婚しちゃうんだろう……もう私じゃ釣り合わないかもしれないけど、でも……)」
極限の状況にも拘らず、賢者が考えていたのはたった一つの事。
「(ぜんぶ終わったら、あの日言えなかった、今日まで続く私の想いを……)」
そう心に決めて、彼女はその身に残った魔力を放った。
「ぬああああああああああ!!!」
彼女の十六年分の想いが詰まった極大魔法が直撃。魔王は消し飛んだ。
魔王を滅する事ができるのは、勇者の血族のみ。若い二人は再び目を合わせ、故郷を思った。
勇者「と、父さん……?」
賢者「お、お母さん……?」
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