第九十六話 影の耳
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今回は、久々に生産活動。
それでは、どうぞ!
「……っ、できたっ!」
あのお茶会から数日、私は、セイの協力の下、様々な素材を集めて、それを完成させていた。その名も……。
「『影の耳』っ。これで、少しはマシになるはず」
錬金術のキットに似た、生体科学のキットのところに置かれているのは、真っ黒なネズミのような生き物。それも、一匹や二匹ではない。百匹以上が、机を占領していた。
「ユミリアー、おやつ食べ……ナニソレ?」
とりあえず出来を確認しようと、そのうちの一匹を手に取ったところで、無防備に入室してきたセイは机を占領する黒い物体を前に頬を引きつらせる。どうやら、警戒もしたらしく、金色の半透明な羽が広がっていた。
「うん? この子達はね? 錬金術と生体科学、あとは、魔導の力で産み出した、『影の耳』だよ」
「か、影の耳?」
そんなもの、聞いたことがないとばかりに問いかけるセイに、私はうなずいて説明する。
「うん、今回は、レシピにあるものを作ったわけじゃない。理論を組み合わせて、目的のものを作ってみたの」
だから、今回は作るのに時間がかかった。オリジナルレシピの場合、時間短縮という手段は使えない。ただし、どうやら一度作ればレシピとして登録されるらしく、一匹ができたら百匹程度、作るのは簡単だったが。
「それで、それはどんな……道具? 生き物? なの?」
「うん、これは一応生き物の括りには入る……のかな? まぁ、能力は、宿主が見聞きしたものを、使役者に伝えるっていうものだよ。ちゃんとテストもしたから、確実ではあると思うけど……」
一匹が完成したところで、一応、テストは行っていた。その結果の九割が判明したところで、私は量産を開始したのだ。
「セイ、さっき玄関で、お父様に会ってたよね?」
「えっ? 見てたの!?」
そして、そんなセイの態度に、残りの一割の確認も終わったと確信する。
「見ていたというより、聞いていた、かな? まぁ、そのうち、見る力もつけたいところではあるけど」
そう言って、セイに自分の影を見るよう促して、パチンと指を鳴らせば、そのセイの影から、机にあるのと同じネズミが盛り上がって出てくる。
「へっ?」
「ちょっとだけ、実験に付き合ってもらったの。ごめんね?」
事後承諾ではあるものの、特に重要な情報を聞いた覚えはない。そもそも、この影の耳ができてからあまり時間は経っていないため、ちょっとしかテストはできていないのだ。
「……ユミリア、多分、貴族は盗み聞きとかはしないんじゃないかな?」
「大丈夫。これは、ただの情報集めのための盗聴機だから」
「い、いや、『とうちょうき』が何かは知らないけど、ろくなものじゃないよねっ!?」
「お父様も情報は重要だって言ってたから、きっと問題はないっ。この世界にはプライバシーなんてものは存在しないしねっ」
「いやっ、あるからっ! その『ぷらいばしー』ってやつは、確か、私的な情報とか、そういうやつだよねっ!?」
「みゅう。でも、プライバシーの侵害に関する法律はないし、この世界では情報が命。となると、この程度のものが問題になるわけがないっ」
『間者なんてものだってあるでしょう?』と告げれば、反論できないのか、セイは押し黙る。
(今はまだ、準備段階。でも、これが上手くいけば、イルト様への認識を変える一手になる)
セイが沈黙した隙に、私は机を占領する影の耳達に魔力とともにあらかじめ決めていた指示を送り、その姿を消させる。
「ユ、ユミリア? 今の、は……?」
「これで、情報が集まるよ」
ニッコリ笑って言えば、セイは諦めたようにうなだれた。
さぁさぁ、どんな情報が集まりますかねぇ?
それでは、また!