第六十九話 世界の強制力
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、可愛いカップルモードではなく、ちょっとシリアスモード?
それでは、どうぞ!
イルト王子の守りは万全だ。そう、そのはずなのに、なぜだか、まだ足りないと思ってしまう。
「どうしてだと思う? メリー?」
イルト王子との楽しい時間が過ぎ去って、部屋でドラゴンの鱗を眺めていた私は、メリーにそう尋ねてみる。
「そう、ですね……前に、ユミリアお嬢様が話していた、ゲームの内容が関係してくる、ということはありませんか?」
「ゲーム……」
言われてみれば、最近ゲームのシナリオを思い出すことがなかった。そして、よく思い出して考えてみると……その不安の正体に思い至る。
「魔王……」
そう、よく考えてみれば、ヒロインのバッドエンドはそのまま魔王の復活、そして、世界の滅亡にまで繋がっている。魔王の力がどれほどのものなのか分からないし、そもそも魔王が何者なのかということも不明だが、少なくとも、今のイルト王子の守りでもどうにもならない相手を想定しておくべきなのだろう。
それをメリーに話せば、『さすがは私のお嬢様!』と感激した後、少しだけ、何か考えるような素振りを見せる。
「それと、一つ気になっているのですが……」
言葉を切り、言おうか言うまいかと、迷っている様子のメリー。こんなメリーは珍しいなと思いながら、私はメリーが気負わないように待ってみる。
「……気分を害されるようなお話かとは思いますが、聞いていただけますか?」
ひたすら待ってみれば、メリーはそんな前置きをしてくる。
「分かった」
ここで、安易に『大丈夫だ』とは言えない。だから、覚悟をして、メリーの言葉に耳を傾ける。
「前に、ユミリアお嬢様が仰っていた『世界の強制力』というものについてなのですが……第一王子殿下と第二王子殿下の立場が入れ替わっただけ、ということはありませんか? 元々、ゲームでは、ユミリアお嬢様の婚約者は、第一王子殿下だったのでしょう?」
(アルト様と、イルト様が、入れ替わった……?)
少しの間、私はメリーが何を言っているのか分からなかった。なぜ、そんなに申し訳なさそうな、罪悪感に苛まれているような顔をしているのかも。
(アルト様に抱くはずだった想いを、イルト様に抱いている……?)
しかし、元々、頭の回転が遅いということはないのだ。徐々に、メリーの言葉の真意が分かってしまう。
(私の、このイルト様への想いは、『世界の強制力』によって生み出されたもの……?)
一度芽生えた疑念。それは、深く、深く根を下ろし、私の心を侵食する。
「そん、な……」
「申し訳ございませんっ! ユミリアお嬢様、どうか、今の言葉はお忘れくださいっ!」
よほど、私の顔色が悪かったのか、メリーは即座に大声で謝罪の言葉を口にする。
「っ、何があったの!?」
メリーの大声に、扉の外に居たセイが慌てて部屋へと入ってくる。
「ユミリア?」
そして、私に声をかけてくれたものの、私は今、自分のことでいっぱいいっぱいだった。
「メリー?」
「……あの話を、しました」
メリーとセイが何を話しているのか理解できないまま、私は思考の海に浸る。
(この世界に、強制力が働いている。そして、それは私の心でさえも掌握してしまう……)
だからこその、あの一目惚れ。だからこその、甘い時間。
(いや、まだ、強制力があると決まったわけじゃない)
あくまでも、『強制力が働いているかもしれない』というだけで、本当にそれが存在しているのかまでは分からない。たまたま、私の好みがイルト王子だった、という可能性だってあるのだ。
「ユミリア様!」
「ユミリアっ」
なぜか、ローランと鋼までもが慌てて部屋に入ってくる様子を目撃した私は、もう、その心を安定させていた。
「もう、大丈夫。今はまだ、可能性の段階なんだから、気に病んでもしかたないしね」
何やら状況を理解しているらしいセイ達にそう告げるものの、セイ達の表情は晴れない。
「メリー、ユミリアを休ませるよ」
「はい」
「俺は、執事に伝えてくる」
「ぼくは、ユミリアの癒しになるっ」
何度『大丈夫だ』と訴えても、誰一人として聞き入れてはくれなかった。あれよあれよという間に、服を着替えさせられ、ベッドへ直行させられる。
『眠くない』と言えば、セイが『眠らせてあげようか』と羽を広げるし、『まだやることがある』と言えば、ローランが『それは全部、明日以降に回してもらったぞ』とお父様から許可をもらってきたのだと告げる。そして、極めつけに『眠らないの?』とモフモフな鋼にうるうると見つめられたら……もう、堕ちるしかない。
私はその日、随分と早く就寝することとなった。
いやぁ、何か、久々にシリアスを書いた気がします(笑)
まだまだ可愛いカップルモードは登場する予定ではあるんですけどね?
ちょっとばかし、壁にぶち当たってもらいましょう。
それでは、また!