第六十八話 作った道具(イルト視点)
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今回は、イルト君のユミリアちゃんへの印象、かな?
それでは、どうぞ!
ユミリア嬢との婚約に、一欠片の打算もなかった僕は、彼女自身の有能さに舌を巻く。
(ゆみりあじょうは、まどうぐをつくれたのか……)
正直、この前の手紙騒動は、ユミリア嬢が誰かに依頼をして手紙に魔法を込めていたのだと思っていた。しかし、この手腕を見る限りでは、どうやらユミリア嬢本人があの手紙を作ってくれたのだと理解できてしまう。
(とおい、な……)
しかし、どんなに遠い存在でも、ユミリア嬢は僕の婚約者だ。こればかりは、誰にも譲れない。
(ゆみりあじょうにならぶためにも、よりいっそうどりょくしなくてはな)
今回、ユミリア嬢とともに作ったものは、国宝と言っても過言ではないほどに強力な品々ばかりだった。
悪意を探知し、知らせる伊達眼鏡。城を破壊するような魔法にも対処できる結界を張る指輪。五年は新鮮な水を湧き出させることのできる甕。城が一つ、丸ごと入るらしいイヤリング。
素材の説明を聞いて、その組み合わせを提案すれば、嬉々としてそれを試してくれたユミリア嬢は、それらを納得のいく品になったと渡してくれた。そして、これらの存在は誰にも話してはならないと言われ、僕もそれにうなずく。
こんなものを黒である僕が持っていると知られたら、欲深いものは何としてでも盗もうとするだろうし、そのために僕を殺そうとする者も現れるだろう。基本的に、これらの品々は僕専用らしく、僕以外にはユミリア嬢しか使えないただの伊達眼鏡、指輪、甕、イヤリングなのだそうだが、これらの存在がバレた時、僕専用だということまで相手に伝わるかといえば、その可能性は低いと言わざるを得ない。たとえ伝わったとしても、真実だと思われないだろうと分かってしまう。
「これらのものは、イルト様の身を守るのに必要なものです。だから、肌身離さず身につけてください。それと、こちらも。これは、使う時がこなければ良いのですが、多分、そういうわけにもいかないと思うので、しっかり持っていてくださいね」
そう言って渡してくれたのは、僕とユミリア嬢で考えて作り上げた傑作中の傑作。真っ黒なその指輪は、ユミリア嬢曰く、『天罰の指輪』なのだそうだ。これを身につけていれば、確かに、僕の身の安全は保証される。何せ、この指輪を身につけた者に悪意を持って、何かしらの手を下そうとした者は、苛烈な罰を受けるというのがこの指輪の効果であるのだ。ミソは、『手を下そうとした』という部分だ。つまりは、相手が攻撃するより前に、この指輪は力を発揮するわけだ。
「ばつが、ひどすぎるようなきがするのだが……」
「イルト様だって、嬉々として考えてくれましたよね?」
「いや、まぁ、そうなのだが……いまおもうと、ちょっと……それに、ぼくよりも、ゆみりあじょうのほうがひつようなのではないか?」
「私なら、自分でまた作れます。だから、そちらはイルト様が持っていてください」
「……ゆみりあじょうも、つけてくれるのか?」
「はいっ、そ、その……色違いの、お揃いにしても、良い……ですか?」
モジモジとしながら告げられたユミリア嬢の言葉に、僕は衝撃を受ける。
「おそろい……」
「い、嫌、ですか?」
何て素晴らしい響きだと感動していると、ユミリア嬢は勘違いしたらしく、不安げに僕を見つめてくる。
「ち、ちがうっ。おそろいは、うれしいっ」
そして、そう言った途端、ユミリア嬢は花が咲くような笑顔を浮かべてきて……そのあまりの可愛らしさに、僕はまた、顔を両手で押さえてうずくまるのだった。
いやぁ、イルト君、真っ直ぐに頑張ってくれそうですねっ。
そして、『天罰の指輪』の効果はお楽しみにっ。
それでは、また!