第六十七話 お部屋へどうぞ
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今回は、ユミリアちゃんのお部屋へレッツゴー!
それでは、どうぞ!
一度、応接室にイルト王子を招き、軽く歓談した後は、私の部屋へとイルト王子を招くこととなる。
(き、緊張するっ)
ムトのお節介過ぎる応援によって、ほとんどイルト王子と話せないままとなっていた私は、イルト王子を部屋に案内するため先導しながら、右手と右足が一緒に出ていることにも気づけないほどに追い詰められていた。
「ゆみりあじょう。だいじょうぶか?」
「ひゃいっ」
ふいに後ろからかけられたイルト王子の言葉に、過剰に反応してしまったが、そこからイルト王子は何も言ってこない。
(あ、あれ? うん?)
何も言われないのは何も言われないで、何となく不安になる。そこで、恐る恐る後ろを振り返ってみれば……イルト王子は、両手で顔を覆ってうずくまっていた。
「イルト様?」
「……だいじょうぶ。ゆみりあじょうがかわいすぎて、だいじょうぶじゃないだけだから……」
それはいったい、大丈夫なのかどうなのか……。そして、『可愛い』という言葉に反応して、私はどうしようもなく顔に熱が集中してしまうのを感じる。
(か、可愛いことなんて、してないはずだけど……嬉しい)
現在、大人は大人で集まっており、私達は二人っきりだ。つまりは、お互いに固まって動けなくなっている私達を邪魔する者は居ない。
「いや、僕が居るんだけど!? 僕、護衛だからね?」
「あっ、セイ……」
「あっ、ゆみりあじょうのごえいのかた……」
セイの存在をすっかり忘れていた私達。しかし、セイはそんな私達に遠い目をするだけで、特に何も言ってくることはない。
「……ゆみりあじょう。いこうか?」
「はい」
ただ、セイの言葉で本来の目的を思い出した私達は、ようやく歩き出して、五歩も歩かずにそこへ到着する。
「こ、ここが、私の部屋です」
「う、うん」
ギクシャクとした動きで扉を開ければ、同じくギクシャクとした動きでイルト王子も付き従う。
(何も、変なところはないよね? 机と、椅子と、素材と、おやつと、素材と……あれ? 普通のご令嬢の部屋に、素材ってあったっけ?)
部屋の片隅でひときわ存在感を放つ竜の鱗の山だとか、乾燥させた薬草類だとか、ちょっとした設計図の山だとか、魔石の山だとか……。
「みゅ?」
もしかしたら、色々と不味いのではないか、と思いつつ、イルト王子の方へと視線を向けると……そこには眩しく輝くイルト王子……ではなく、キラキラと目を輝かせるイルト王子が居た。
「これ、きょうざいでみた、ふぁいやーどらごんのうろこ!? こっちは、しんれいじゅのえだ!? ませきもたくさんっ!? こっちのえ、かっこいい!?」
(……イルト様が尊い……よし、何も、問題はなかった!)
もう、イルト王子が喜んでくれるならば何でも良いとばかりに、私は、一つ一つの素材について説明していく。ついでに、イルト王子の身を守るためにどんな機能がほしいかと相談して、一緒に魔導具作りまでしてしまう。
「ゆみりあじょうは、てんさいなんだなっ」
「いえ、そんなことはありません。私よりも、イルト様の方がよほどすごいですっ。素材選びのセンスがすご過ぎますっ!」
お互いにお互いを讃え合いながら、私達は幼いからこそ、自重の欠片もない凶悪な品々を完成させていく。意外にも、素材選びの点で多大なセンスを発揮したイルト王子。そんなイルト王子と、ものづくりのプロが手を組むのは、まさしく、『混ぜるな危険』だったのだろうが、残念ながらそれを止める常識を持つ人は、今、ここには一人も居なかった。
「これで、快適に過ごせそうですねっ」
「ゆみりあじょうのおかげだ。ありがとう!」
完成した魔導具をしっかりイルト王子に手渡した私は、イルト王子の満面の笑みにノックアウトされるのだった。
……案外、最強コンビっぽい二人でした。
さぁ、どんな道具ができたんでしょうかねぇ?
それでは、また!