第五十七話 彼女との出会い(イルト視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
お城でのお話を書こうかなぁと思いましたが、ちょこっとだけ、イルト視点を入れてみました。
それでは、どうぞ!
兄であるアルトに連れられてやってきたのは、アルテナ公爵家の娘の誕生日を祝うパーティー会場。現在、兄の実母である王妃様の実家が、隣国との戦争に巻き込まれており、大変な時期だというのに、兄は何を考えているのかと思っていたら、どうやら、ここに集まる有力な貴族と婚約をして、王妃様の実家を助ける力を得たいとのことだった。
(それは、僕達が考えることではないと思うけど……)
もし、本当にたかが一貴族と婚約するだけで戦争が止むというのであれば、父上が動いているはずだ。しかし、それがないということは、そんなことをしても無駄だということ。それでも、兄は諦められないらしく、お忍びスタイルで僕や数人の護衛を引き連れて、このパーティー会場に潜入していた。
「ぼくは、ここでまっている」
どうにか人目を避けて、庭の奥の方に隠れた僕は、目の前の父上に良く似た金髪と緑の瞳を持つ兄にそう告げる。
「なんで? いるともいっしょにくればいいのに」
「ぼくがいけばさわぎになる。そうしたら、もくてきをたっせいできないよ?」
「……いつか、くろがきらわれないよのなかがくればいいのに……」
僕の色は、残念ながらこの世で最も嫌われる黒だ。その昔、世界を混乱に陥れた魔王が黒の持ち主だったらしく、その魔王が封印された今も、黒は嫌われている。ついでに、黒の獣つきは、その魔王が竜人だったことから、同じ人外であり同じ黒ということで最も嫌われる。それを考えると、獣つきでなかったことは救いなのかもしれないが、それでも第二王子という身分に生まれたのは不幸だったかもしれないと思ってしまう。
だから、純粋に僕を思って、悔しそうに言葉を吐き出す兄の存在は、僕の支えだった。
護衛達が兄を密かに守るべく身を隠す中、僕を守ろうと残る者は一人も居ない。それでも……いや、それだからこそ、僕は気楽だな、と、兄に連れ去られる前にどうにか持ち出した本を木にもたれて読み始める。
誰からも嫌われる色を持つ僕は、しっかりと知識をつけておかなければ、簡単に殺されかねない存在だ。今のところ、刺客が放たれたなんて物騒なことはないが、それがいつ起こるかなんて分からない。知識も、力も、僕は全て、人並み以上に身につけなければならない。
そうして、本から必死に知識を吸収していた僕は、兄が帰ってきて、誰かを連れてきたなんて言ったせいで取り乱し……その姿を一目見た瞬間、心臓が高鳴った。
それは、僕にとって、運命の出会い。
そこからたった一週間ほどで、僕を嫌っていたはずの父上から、あの時の令嬢、ユミリアとの婚約が伝えられ、明後日が顔合わせなのだと知り、ガチガチに緊張しながら挨拶をする羽目になるのは、もうすぐのこと。
お互いに、両想い♪
さぁ、顔合わせで行われるであろうユミリアちゃんの猛攻に、イルト選手は耐えられるのか!?(いや、王様達の事情も書かなきゃなんでしょうけど、ね?)
それでは、また!