第五十話 アルト・ラ・リーリス
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今回は、ようやく攻略対象者その一が出てきますよ~。
それでは、どうぞ!
挨拶がある程度終わり、好きに会場を回って良いとの許可を得た私は、同じ年頃のご令嬢、ご令息の元へ……など行くわけもなく、あまり人気のない隅の方へと歩いていく。
本来なら、主役が会場の隅に居るなど普通ではないのだが、私が行けば怯えられ、悲鳴をあげられるのは一目瞭然。少しは静かな場所で落ち着きたいのと、アルトを待とうという意味で、ちょうど良い木陰の椅子へと腰かける。すると……。
「っ、あなたは、あるてなこーしゃくれいじょう?」
ほどなくして、私と同じくらいの年頃の男の子が現れる。フードを被りマスクをして、緑の瞳しか分からないその状態は、あまりに異質だったが、彼は十中八九、アルト・ラ・リーリスであろう。
「こんにちは、不審者さん?」
「ふしっ……す、すまない。じじょーがあって、これははずせない」
「そうですか」
(うん、一目惚れはしてない)
自分の心臓が正常なことにひとまず安堵しながら、それでもまだ気を抜けないと思い直し、まずは会話を試みる。
「それで、不審者さんは何をしにここへ?」
「それはもちろん、ははうえのちからになりうるいえのむすめをみにきて……はっ、これがゆーどーじんもん!?」
誘導など、何一つしていないにもかかわらず、容易く暴露してしまうアルト王子に、私は、少しばかり彼の将来が心配になる。
「そうですか。では、その娘は力になってくれそうですか?」
「それは……まだ、わからない」
目を見るだけでもしゅんとした様子が分かるアルト王子は、恐らく、フードとマスクを取れば、それはそれは可愛らしかっただろう。しかし、今は不審者として相対しているからこそ、不敬も許される状態。私からアルト王子の正体を追及するつもりは微塵もなかった。
「ここへは、お一人で来られたのですか?」
「ちがう、おとーとがいっしょだ! おとーとはすごいんだぞ! みんなはいみごっていうけど、けんじゅつもべんきょうも、ゆーしゅーなんだっ。あ、あと、ごえいもいちおういるからな?」
色々と、取り繕わなければならないところがボロボロと溢れているようだが、そこに突っ込むつもりはない。そして、アルトの『おとーと』という言葉に、そういえば、彼には黒目黒髪の弟が居るはずだと思い出す。
イルト・ラ・リーリス。『モフ恋』において、常にフードとお面を被って顔を隠し続けるユミリアの協力者。その顔は、幼い頃に自分で顔を焼いたとかで、『モフ恋』には一度もその顔が描かれることはなかった。物語を進めれば必ず死ぬキャラクターで、もしかしたらユミリア並みに不幸かもしれないキャラクターだ。ユミリアのように黒目黒髪の獣つきではないにしろ、その姿は、やはり忌み嫌われるもので、イルトは父である王と、母親である側室の女から嫌われる。そんなイルトを、アルトは幼い頃こそ、大切な弟として扱うものの、次第に疎遠となり、最終的には互いに剣を向ける仲となってしまう。
(うーん、別に、会ったこともない人をどうにかしようとは思わないけど……ちょっと、その素顔は気になるかも?)
きっと、こんなに人が多く集まる場所に連れてこられて、忌み子とされるイルトは肩身の狭い思いをしていることだろう。
「弟さんかぁ……会ってみたいな」
「っ、そうか! いるととおなじいろだし、ふたりがなかよくなってくれるとうれしいっ」
とうとう弟の名前まで出してしまったアルト王子。いや、『モフ恋』ではここまで抜けてはいなかったはずなのだが、やはり子供だから色々と拙い部分が目立つのだろう。基本的に悪い子ではないし、私の容姿を見ても怯えたり、侮蔑の表情を浮かべたりしない稀有な人だ。
『こっちだ』と言って、イルト王子の居る場所に案内してくれようとするアルト王子に、私は、自分の心がちゃんと自分のままであることを胸に手を当てて確認し、今のところ、ゲームの強制力はなさそうだと安心しながら、庭の奥へと足を踏み入れた。
素直で一直線なアルト君。
戦闘体勢は整えていたものの、不発に終わるかな?
それでは、また!