第三百八十話 イリアスの記憶
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さてさて、イリアスの秘密が明らかに??
それでは、どうぞ!
「僕は、ユレイラと初めて出会った時、自分の名前以外、何も覚えていなかったんだ」
イリアスと出会った時、彼は、随分と酷い怪我を負っていた。神とはいえ、怪我を負えば痛い。そして、神に傷を負わせられるのは、神力のみであるため、イリアスが、何者かに襲われてその状態になったことだけは明らかだった。
「ユレイラと過ごす日々の中、少しずつ、断片的に思い出すことはあっても、自分が何者なのか、どうして、怪我をしていたのかは思い出せなかった」
神にとって、自分の存在を認識するという行為は、力を行使するために必要なことだ。自分の名前、神としての力。それらを認識しないことには、神は力の五分の一しか発揮できないとされている。
「……と、いうことは、イリアス様って、かなりとんでもない神だったんじゃあ……」
頬を引つらせるセイの言葉に、イルト様はうなずく。
「僕が、自分の神としての力を思い出したのは、イルトとして転生して、イリアスだった頃のことを思い出した時。……僕の神の力は……断罪の力だ」
そう告げたイルト様の言葉に、全員が絶句する。
断罪の神は、神と邪神の間に立つ天秤の神とも言われている。かの神は、神界の理に縛られることなく、悠久の時を生きる神。創世神様よりも、よほど強力な神であり、神の間でも、その存在は伝説級だった。
神と邪神の割合を調整し、増えすぎた邪神を断罪して、新たな神の魂を生み出す神。その姿を見た者は誰も居ないとされ、どこに居るのかすらも分からない神。
「そして、僕が、傷つき、記憶を失った原因は、僕と同格の神、審判の神に殺されかけたからだ」
「審判の神……断罪の神と審判の神は同じものとして語られることもありますが、そう言うということは、違うんですね?」
「うん、審判の神の判断に基づいて、僕は断罪を行っていた。もちろん、僕自身もある程度調整するけど、彼の判断が大元だったんだ」
イルト様の話では、その頃の審判の神はどこかおかしいと思える状態だったものの、すぐに元に戻ると考えて放置していたのだという。本来、彼らはお互いに干渉することなく、ただただ役割を果たすのみの存在であったため、それは仕方のないことだった。しかし、審判の神の異変はどんどん大きくなり、気がつけば、イリアスは審判の神に刃を向けられ、大きく傷ついて、神界の端に落ちたのだそうだ。
「何があったのかは、未だに分からない。けど、邪神達が攻め込んだのは、明らかに僕が断罪の神として仕事をしてこなかったせいだし、もしかしたら、審判の神も関わりがあるかもしれない」
そう言いながら、鋭い目つきでこの先の道を睨んだイルト様は、じっくりとそこを観察して、一つうなずく。
「この神鏡邸は、入り込もうとした者を問答無用に屠ってきた。そしてそれは、僕の力で断罪することが可能だということの理由にもなる」
侵入者の排除。しかし、その事情も何も汲むことのない一方的な排除は、イルト様の断罪の対象にすることができる。そうすれば、神鏡邸そのものの力を失わせることだって可能なのだ。いや、そうでなくとも、きっと、今持っているイルト様が力をちゃんと使えば、一人だけがこの神鏡邸を攻略することだってできるかもしれない。それだけ、感じ取れるイルト様の力は規格外だった。
「……ユミリアが望むなら、僕は、この力をふるってみせるよ」
そう笑ったイルト様を前に、私は……首を横に振った。
イリアス、結構すごい神様でした(笑)
それでも、ユミリアちゃんはイルト君にその力を使わせるつもりはないらしく……?
それでは、また!