第三百七十四話 囚われの姫
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う、うーん、バトルモード、だったはずが……?
それでは、どうぞ!
(最悪だ……)
落ちた私を拾い上げようと、レインボードラゴンが動くものの、その前に、別の存在によって横からかっさらわれる形となる。
「邪神、ムエリス……」
額に邪神の中でも高位の存在である証として、額に黒い紋様を浮かべた紫の長髪の男。かつて、ユレイラ達を襲い、殺した邪神。ユレイラに異常な執着を見せていた邪神。
「あァ、ようやク、みツケタ。俺の、ユレイラ。俺だけノ、ユレイラ」
背後から抱き締められる形で拘束された私は、そのあまりにも気持ち悪い言葉に、ゾゾゾッと鳥肌を立てる。
「は、離してっ!」
生理的に無理。そう思うも、腕の力が緩んでくれることはない。これでも、力の限り魔力を用いて攻撃を繰り返しているのだが、全く、これっぽっちも、びくともしない。というか、レインボードラゴン達も必死に私を取り戻そうとしてくれているのだが、彼らの攻撃もものともしないのだ。
「はァ、ハァ……ユレイラ。ユレイラ、ユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラユレイラ」
「ひぃっ!」
耳元で狂った囁きを聞かされて、私は思わず涙目になる。なりふり構わず暴れても、全く手応えのないその様子に、恐怖と混乱でどうにかなりそうだ。
「あァ、かわイい、ユレイラ。俺ノ、ユレイラ」
「や、やぁっ!!」
ネロリ、と耳を舐められた瞬間、あまりの気持ち悪さに本気で泣く。
「た、助けてっ」
「は、ぁ……モう、邪魔はさセなイ。ずっト、ズっと、二人デ、愛シ合おウ?」
ただでさえ気持ち悪いのに、もっと気持ち悪いことを言われて、必死に、背後の邪神へ毒薬をかけたり、爆発を起こしたりさせる。私が愛するのは、心から求めるのは、ただ一人。イルト様しか居ないのに、こんなのはあり得ない。
と、その直後、今までどんなに頑張っても抜け出せなかったその腕から、私は落ちて、空中に放り投げられる。
「ユレイラ様!」
レインボードラゴンの一体が、その隙きを逃さず、私の体を受け止め……何が起こったのか理解できなかった私は、すぐに、それを目にすることとなる。
「よくも、ユミリアを……」
「許さないっ」
「……殺す……」
異様に殺気立ち、神力を解放しているセイ、鋼、ネシス。そして、何よりも……。
「…………」
全く、何も口にはしていないものの、凄まじい神力を当然のように放って、見間違いでなければ、呪いを引きちぎったイルト様。ついでに、ムエリスの両腕だけがイルト様の手にある。
(……う、うわぁ……)
神から別の生き物に転生したはずの存在が、怒りだけで神に復帰するとか、聞いたことがない。しかも、自分ではどうすることもできなかったはずの神による呪いを、簡単に引きちぎるなんて聞いたこともない。
今まで、変態行為を極めていたムエリスも、流石にその光景に呆然として……すぐに、私へとその視線を向けようとする。
「っ……」
見られることですら嫌だと思って目を閉じるも、その後に響いたそれに、思わず目を開ける。
「ギャアァァァァアッ!!!」
そこには、地面に這いずり、ベキバキと神力の圧力に押し潰されるムエリスの姿があった。しかも、何度も何度も、その力は緩んでは強くなるを繰り返すらしく、ムエリスの悲鳴は何度も何度も、響いてくる。
「イ、イリアス様、怖ぇっ」
神力は、ムエリスの魂を直接攻撃し、どんどん粉々に砕いていく。神にとって、魂の破壊ほど苦しいものは存在しない。それを、イルト様は何度も何度も繰り返す。私が乗っていたレインボードラゴンは次男だったらしく、彼の震え具合から、私は、イルト様が完全に怒り狂っているのを感じて、少しだけ嬉しくなると同時に、早く、消毒してほしい気持ちにもなる。
「イルト様……」
小さな小さな、私にしては、随分と弱々しい声。早く、この気持ち悪さを何とかしてほしいと思ったこの声は、どうやら、イルト様に届いたらしく、イルト様は、『後は任せる』とセイ達に言って、私の前に一瞬にして現れる。
「ユミリア」
そうして、イルト様に抱き締められた私は、ようやく、安堵の息を吐いた。
……バトル、じゃなくて、これは一方的な虐殺というものじゃないかなぁと自覚した今日この頃(笑)
いや、もうちょっとね?
いい勝負をさせる予定だったのが、邪神の行為にイルト様がブチンっ、となりまして……ついでに、セイ達もブチンとなりまして……止められなかったとです。
それでは、また!